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2015.08.17

縄田一男編『忍者だもの』(その一) ベテラン揃い、曲者揃いのアンソロジー

 先日紹介した戸部新十郎『最後の忍び』とほぼ同時期に刊行された忍者ものアンソロジーである本書、収録作の作者はベテラン……というより神様のような方々ばかり。表紙には城の上で激突する二人の忍者が描かれていますが、収録作はいずれも曲者揃いであります。以下、一作ずつ紹介いたしましょう。

『鬼火』(池波正太郎)
 最近漫画化された『夜の戦士』のように、忍者ものも決して少なくない数を発表している作者による、本能寺の変を中心にした因縁の物語であります。

 本能寺の変の際、光秀に仕えていた二人の忍び――甲賀の松尾九十郎と伊賀の坂巻伝蔵。実は光秀監視のために送り込まれていた九十郎は、謀反を防げなかったものの、毛利への密書を携えた伝蔵を追跡、彼を斬って密書を奪取します。
 それを機に忍びから足を洗い、30年後の今では商売で成功した九十郎。その前に現れたのは……

 有名な光秀から毛利への密書を題材とした本作は、実はある意味本書唯一のストレートな忍者とも言うべき本作ですが、クライマックスの展開は、むしろ作者が得意とするノワールもの的になるのが面白い。
 ショッキングな結末の果てに描かれるのは、それぞれ忍びを捨てながらも、全く逆の道を歩んだ男たちの姿。やりきれないものが残ります。


『蜀山人』(柴田錬三郎)
 本作は、連作『忍者からす』の一編。海の向こうからやってきた神鴉党の末裔たちが歴史の陰で活躍する姿を描いたシリーズですが、本作は泰平の時代を舞台としているためか、独立して読んでも違和感はありません。

 時は田沼時代、上から下まで賄賂が横行する中、稀代の粋人・才人として世間の注目を集める蜀山人・大田南畝。しかし彼には世間に隠れた顔がありました。
 実は彼は神鴉党の血を引き、その忍法を修めた男。その技を用いて、義賊「自来也」として、痛快な手段で不義の富を奪い、貧しき人々に分け与えていたのであります。そして彼が最後に挑む大仕事とは……

 元シリーズは柴錬意外史とも言うべき全作これアイディアの塊のような連作ですが、本作はその最たるもの。
 蜀山人・忍者からす・自来也という三題噺のような組み合わせを、柴錬一流のディレッタンティズムとダンディズムで練り上げてみせた本作の切れ味の良さには、何度読んでも驚かされます。

 そして軽佻浮薄極まりない世相のど真ん中に腰を据えながら、周囲に対して媚びず、皮肉な視線を向ける蜀山人の姿には、やはり作者自身の姿を感じてしまうのであります。


『猿飛佐助』(織田作之助)
 異色作揃いの本書の中でも最大の異色作が本作でありましょう。あの『夫婦善哉』の作者が忍者ものを、というだけでも驚かされますが、その内容がノンストップのスラップスティックコメディーなのですから。

 人一倍の自惚れを持ちながらも、生まれついてのアバタ面に深いコンプレックスを抱えた青年・猿飛佐助。そのコンプレックス故に山中に籠もっていた彼の前に現れた超人(鳥人)・戸沢図書虎(ツアラツストラ)の教えで飛行の術と五遁の忍術を修めた彼は、真田幸村の下に仕えるのですが……

 と、一見真っ当な物語に見えて、全編に渡って繰り広げられるのは、良く言えば先が見えない、言い換えれば勢いに任せて突っ走る展開の数々。ようやく主持ちになったと思えば、またコンプレックスが作用して出奔、その先で石川五右衛門一味と出くわしたと思ったら増上慢から術を喪って……とひたすら目まぐるしい。
 そこに佐助がウィットに富んだ会話を気取って連発する七五調の駄洒落を山盛りにした台詞回しが加わるのですから、その勢いは止まりません。

 しかし――無茶苦茶をやっているようで、佐助の言動から透けて見えるのは、自尊心と劣等感の間で揺れ動く現代人の心性と、もう一つ、大衆文学をものする作者自身の屈託。この韜晦こそが、一種メタな形で本作を忍者ものとしている……というのはさすがに言い過ぎかとは思いますが。

 そしてもう一つ驚かされるのは、本作が終戦前の昭和20年にラジオドラマとして放送されたものをほぼ同時に小説化したものであること。敗戦に突き進む時期にこの内容とは……作者の底知れぬ大きさに打たれた想いです。

 長くなりましたので残り二作品は次回紹介します。


『忍者だもの』(縄田一男編 新潮文庫) Amazon4
忍者だもの: 忍法小説五番勝負 (新潮文庫)

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