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2015.09.07

雨依新空『ヴィラネス 真伝・寛永御前試合』第2巻 勃発、外道対外道!

 あの夢枕獏が武芸者たちの夢のオールスター戦である寛永御前試合を描く……だけでなく、それを原作として、武芸者たちを女体化してしまった――そして何よりもそれが面白いという怪作いや快作の第2巻であります。武芸者の一番手たる宮本弁之助(武蔵)が出会った「化物」とは……

 可愛らしくもどこかボーイッシュな外見ながら、いざ立ち会いに臨めば、相手を容赦なく棍棒で息絶えるまで叩きのめす弁之助。
 そんな彼女が出会ったのは、艶やかに美しく、そして自分を遙かに上回る剣の腕を持ち、殺人狂の気すらある秋山虎之介――

 そんな虎之介を師と仰ぐこととなった弁之助が、師との旅の末にたどり着いたのは、謎の老婆が棲むという山。その山深くの小屋で待ち受けていたのは、恐るべき化物でありました。


 というわけで、ついに弁之助の前に現れた、己を、虎之介をも恐れさせる化物。その名は塚原卜伝――そう、あの一の太刀の卜伝であります。
 鹿島新当流の流祖であり、合戦や真剣勝負において一度も傷を負うことがなかったという卜伝。北畠具教や足利義輝、諸岡一羽といった名だたる剣豪たちのそのまた師であり、そして今なお実態のわからぬ伝説の秘剣・一の太刀の遣い手……

 その卜伝を描く作品は無数にありますが、しかし本作はその中でも最も奇妙なものの一つではないでしょうか。何しろ本作の卜伝もまた、女性として登場するのですから。
 姿を現す前から、恐るべき剣気とも鬼気とも呼べるもので虎之介と弁之助を縛る卜伝。そこに現れた卜伝は、武蔵よりもなお若い、むしろ幼いとすら言えるような姿であるのがまた不気味でいいのであります。

(ちなみに、弁之助が鬼気に対して、「ぬぅ・・!!」と抗しつつ小屋の戸を押し開ける姿は、女体化していてもやはり夢枕キャラだと少々微笑ましい)

 そして外道と外道が出会えばすることは一つ。虎之介が、弁之助が、卜伝がそこでどのような行動を取り、その結末がどうなるか――それはここでは詳しく述べませんが、やはり今回も、外道たちを女性として描くことが効果的に機能した印象があります。

 自分が勝つために、相手を殺すために、常人から見れば常軌を逸した言動を見せる外道。ストレートに描くにはあまりにおぞましいその姿を、華やかな女性たちに託して描くことにより、本作はこちらの嫌悪感を抑えるとともに、その一方でより異常性を感じさせることに成功しているのであります。
 その際たるものが卜伝の存在でありましょう。弁之助が垣間見た彼女の真の姿、そして思わず縮み上がるような虎之介戦の結末は、卜伝を女性として描いたからこその異常性をはらみ、強烈なインパクトを残すのであります。
(それでいて弁之助がラストに見せた「太刀」は、実に漫画的で楽しいのですが)


 本作の趣向を知った時、私は剣豪は全て女性として描かれるのだと思い込んでいました。
 それは、第1巻を読んだ時点でそうではない――弁之助に殺された有馬喜兵衛をはじめ、男性剣士も数多く登場する――ことがわかりましたが、この巻に至り、ようやく本作における「外道」は「女性」の姿をとるのだと理解することができました。

 その点には評価が分かれるかとは思いますが、しかし女体化作品が珍しくなくなっている今、残酷剣豪ものとも言うべき本作において、女体化にこのような意味を与えていることは、実に興味深いものがあります。

 次なる外道が、次なる女性は何者か――気にならないわけがありません。


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