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2015.09.20

『MOGURAYA 百年盂蘭盆』 舞台で帰ってきたもぐら屋!

 築地ブディストホールで上演された舞台『MOGURAYA 百年盂蘭盆』を観て参りました。澤見彰の『もぐら屋化物語』シリーズを原作とした本作、脚本も澤見彰ということで楽しみにしておりましたが、原作の賑やかな世界をそのまま舞台に移したようなユニークな作品でありました。

 幕末に近い江戸は内藤新宿を舞台に、会津藩を脱藩して流れ着いた若き浪人・楠岡平馬が、妖怪ばかりが泊まるおかしな旅籠・土龍屋の用心棒となって悪戦苦闘する姿を描いた『もぐら屋化物語』。
 これまで廣済堂モノノケ文庫から3作発表されたシリーズですが、これまで2回3エピソード舞台化されているところであります。

 恥ずかしながらこれまでに舞台はまだ拝見していないのですが、冒頭に述べたとおり今回は作者自身によるオリジナルストーリーということで――原作もしばらく続編が出ていないこともあり――これは見るしかあるまいと思ったところです。

 さて、見る前は完全にこれまでの舞台の続編と思いこんでいた本作ですが、さにあらず、本作はある意味リブートと言うべき構成となっております。

 盂蘭盆の晩、脱藩して追っ手(鬼の佐川官兵衛!)に追われながらヨレヨレになって内藤新宿にたどり着いた平馬。
 行き倒れ同然で少女・お熊の営むおんぼろ宿屋・土龍屋に担ぎ込まれた彼は、一宿一飯の恩義から用心棒役を買って出ますが、土龍屋は守り神を自称する巨大な土竜・ムグラさまや、渡世人姿の白犬・シロなど妖怪たちが出入りする宿でありました。

 そんな折も折、内藤新宿を護る太宗寺の閻魔像の片目が盗まれるという事件が発生、地獄の閻魔大王の分身である閻魔像が力を失ったことで、妖怪たちが暴れ出す事態に。
 さらに、百年の怨念を秘めた魔が、土龍屋を狙って動き出し……


 と、内容的には原作の第3巻『用心棒は就活中』で描かれた閻魔の目玉盗難事件や旅犬シロの過去のエピソードを織り交ぜつつ、オリジナルの展開でまとめた本作。
 登場するキャラクターも、平馬、お熊、ムグラさまをはじめ、赤鬼のお稲一味に迷惑兎の玉兎と、原作でお馴染みの面々を中心になかなか賑やかな顔ぶれです。

 ですが、原作は妖怪変化が数多く登場する作品。ムグラさまは人間大の土竜ですし、シロは二本足で立って歩く犬と、そんな面々をどのようにビジュアル化するのだろう……
 と思いきや、ほぼ完全に素面で、幾つかキーアイテム的なものでキャラクターを主張する――例えばムグラさまは黒い丸眼鏡、シロは白い鬘――という、ある意味舞台的な正面突破の潔さには、いい意味で感心しました。

 今回の舞台、俳優がほとんど全員美男美女というなかなかすごいものだったのですが、しかしふんだんに盛り込まれた殺陣もなかなかの迫力(チャンバラ中の蹴り技多用は……まあ仕方ないでしょう。ドスの殺陣はもうちょっと頑張って)。
 普段ふぬけ浪人呼ばわりされる平馬がチャンバラではヒイヒイ言いながらも存外に強いというのも、「腕は立つけれどもどうしようもなく甘ちゃんでお人好し、しかしそれが周囲を救う」という平馬らしさがよく表れていたと思います。

 また、役者でいえば、ムグラさま役の大石敦士は、さすがにつか劇団出身と言うべきか、発声といい動きといい頭抜けていた印象。上記のとおりサングラス一つで大土竜を演じて見せるというのも、この役者ならではであったかもしれません。


 そんなわけで原作ファン的にはかなり満足できた本作ですが、一点勿体なく感じるのはのは――上記のとおりビジュアル的に仕方のない面はあったとしても――人間と妖怪の違いが、その両者が共に存在する内藤新宿の特異性が見えにくかった(裏を返せば「人間」側の登場人物が少なかった)点でしょうか。

 それ故に、終盤での「敵」と平馬の、共にある意味人間と妖怪の境を超えながらも、その方法と結果は全く異なる者同士の違いが、そしてそこにある平馬なればこその「強さ」が見えにくくなってしまったように感じられるのです。


 もちろん、二時間弱の間に基本設定を全て語り、新たな物語を展開してみせた――それも原作の持つコミカルさ、賑やかさを再現しつつ――のは、見事というべきでしょう。
 それだからこそ、あともう一歩の踏み込みで、さらに素晴らしい作品になるのではと、新たなる『もぐら屋化物語』の始まりになるのではと、感じたところではあります。



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