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2015.09.03

かたやま和華『化け猫、まかり通る 猫の手屋繁盛記』 武士と庶民、人と猫の間に生きる

 旗本の若様ながら故あって等身大の白猫となってしまった近山宗太郎が、人間に戻るために善行を積むべくよろず請け負い稼業「猫の手屋」として奔走する『猫の手、貸します』の第2弾であります。市井の暮らしも板についてきた宗太郎が、今回も様々な事件・出来事に巻き込まれることになります。

 飲めぬ酒に酔った帰り道、尻餅をついたのが猫股の長老の上だったために罰(?)を当てられ、リアル猫侍となってしまった宗太郎。
 父親(実は史実の超有名人)に迷惑をかけまいと家を出て、裏長屋に一人住まいすることとなった宗太郎は、生活のため、そして百の善行を積んで人間に戻るため、猫の手屋として様々な事件・出来事に関わることに……

 という基本設定の本シリーズですが、本作は全部で3つの事件から構成された連作短編スタイルとなっております。

 江戸の町で続発する、猫の供養代詐欺や猫の遺骸泥棒。友人の歌川国芳が事件に巻き込まれたこともあり、猫の上前をはねるやつらは許せんとばかりに宗太郎が一芝居を打つ『猫のうわまい』
 宗太郎と同じ長屋に犬と一緒に住んでいた仇持ちの老武士に請われ、仇討ちの立会人となった宗太郎が複雑な人間模様を垣間見ることとなる『老骨と犬』
 カラスに襲われていた子猫を助けた宗太郎が、「田楽」と名付けた子猫をなりゆきから育てる内に情が移って……という『晩夏』

 悪人退治あり、人情・猫情ものありと、なかなかにバラエティに富んだ内容であります。

 ここで前作の紹介を読み返してみると、実は私はあまりノっていなかったのですが、しかし本作はテンポの良さといい、キャラクター描写といい、そしてもちろん物語展開といい、実に楽しく、最初から最後までむさぼるように一気読み。
 何よりも主人公がリアル猫侍であることからくるギャップからのギャグがポンポンと飛び出してくるのが楽しく、「猫太郎」と呼びかけられてからの「いや拙者は猫太郎ではなく近山宗太郎でござる」というお約束の天丼もまた楽しい。

 そもそも、冒頭からして、人間に戻るために積むよう命じられた百の善行が実は……という、シリーズの設定を根底から崩しかねないとんでもないギャグに爆笑させられた次第です。


 それにしても、実は由緒ある青年武士が、身分を隠して裏長屋暮らしを送り、その中で様々な人情に触れ、成長していく……という本作のスタイルは、これは時代小説の王道とも言えるものでありましょう。
 もちろん、主人公が大きな猫になっていなければ。

 本作は、その定番シチュエーションから主人公を猫にすることにより、少し(いや大きく?)踏み出し、定番の味わいを踏まえつつ、ギャップから生じる破格の楽しさを兼ね備えたと感じます。
 実は個人的には前作はそこまでノれなかったのですが、ギャップの振れ幅が大きくなることで、この辺りの構図が自分なりに納得できた……ということなのかもしれません。

 そしてそのギャップは、人間世界の中のギャップ――武士(旗本)と市井の庶民のそれ――と、人間と猫のそれぞれの世界のギャップと、二重のものであります。
 本作に収録された3つの物語は、いわばその二重のギャップを背負った宗太郎の物語であり――それはまさに、本作でなければ描けない物語、本作ならではの魅力でありましょう。


 前作でちょっと引っかかった、宗太郎が周囲からあっさり受け入れられた理由が、人間になりかけの化け猫を暖かく見守ろうという江戸っ子の「人情」からだった、というすっとぼけぶりも楽しい本作。
 この先の展開が――続編の登場が、一気に楽しみになった次第です。


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