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2015.09.10

朝日奈錬『妖医玄眞 京都備忘録』 ディテールも楽しい新妖怪時代小説

 招き猫文庫に登場する作家は、新進の時代小説家、他ジャンルで活躍するベテラン、そして新人と三つに大別されますが、本作の作者・朝日奈錬は、本作が初の一般向け時代小説という作家。それだけにフレッシュな内容でありつつも、同時にしっかりとした地力を感じさせる妖怪時代小説です。

 妖怪時代小説といえば、妖怪と人間がバディとなって怪事件を追うというのが、王道の、言い換えれば定番のシチュエーション。本作もそうした作品ですが、しかし主人公となる面々は、なかなかに印象的です。

 その主人公の筆頭が、タイトルロールである玄眞――京の裏長屋で医者を営み、不思議なほどによく効く薬を出しながらも、貧乏人からは金を取ろうとしない(その代わりにあるものを取るのですが)、患者から見れば誠にありがたい人物であります。

 顔は美形ながらも家の中はだらしなく、普段の暮らしもマイペースな玄眞ですが……しかしその正体は人にあらず。
 果たしていつからこの世に存在しているのか、京の妖の世界を治める大天狗すら頭が上がらず、いやそれどころかスサノオとアマテラスが喧嘩の仲裁を依頼してくるという、とんでもない存在なのであります。

 そしてそんな彼の助手として、普段口やかましく世話を焼く少年・マルもまた人ではなく、あるあまりにも有名な神剣(の欠片)の化身。彼ら二人は、気の遠くなるほどの昔からこの世に存在し、この世に害をなす堕ちた妖を討ってきたのであります。

 そんな桁外れの玄眞が主役というのも面白くはありますが、しかし感情移入はしにくい……というところで、我々人間サイドに立つ主人公が、玄眞のもとに出入りする浪士のカク。
 カクというのは本名ではなく、顔が角張っているからカクと玄眞が呼んでいるだけなのですが、肝が太いのかマイペースなのか、玄眞とマルの正体を知ってもなお普通に付き合い、玄眞もまたカクとの付き合いを楽しみにしている……そんな間柄であります。

 ちなみにこのカク、江戸から一旗揚げるために京に上り、今は壬生に滞在しているというのですが……


 キャラクター紹介が長くなってしまいましたが、本作はそんな三人が、続発する子供の神隠しに挑む物語。
 妖が絡まなければ人の世の事件には冷淡な玄眞ですが、長屋の子供や壬生でカクが厄介になっている家の子供までもが姿を消し、カクにせっつかれて……というわけで、玄眞とカク、そしてマルは、京に潜む妖たちから手がかりを得て、事件の真相に一歩一歩迫っていくこととなります。

 正直に申し上げれば、ここで描かれる物語展開自体は(しっかりと一ひねりはあるものの)比較的シンプルであります。その点は少々残念ではありますが、それを補って余りあるのは、妖怪ものとしてのディテールの楽しさでしょう。

 妖怪ものの楽しみの一つは、言うまでもなく登場する妖怪たちのキャラクターですが、本作に登場する玄眞とマル以外の妖たちは、皆なかなかに個性的で魅力的。
 妖だからといってコソコソすることなく(もちろん姿は隠しつつですが)京の街中で人に入り交じってそれぞれの生活を送っている姿は何とも微笑ましい。

 そして何よりも、物語の後半に登場する「もう一つの京」……この世の京と重なり合って存在する妖怪たちの京は、設定自体はさまで珍しいものではありませんが、その妖しくも
賑やかな世界観――こちらの世界では焼失した本丸御殿などが存在し、妖怪たちの根城となっている二条城など――が楽しいのです。

 ちなみに本作においては、妖たちが種族名のほかに個体名を持っているのですが……意外とこうした当たり前のことを描いていない妖怪ものが多いので、この辺りも好感が持てます。


 そんなわけで、物語のみならず、キャラクターの、妖たちの存在感が楽しい本作。
 玄眞が大物過ぎて、少々扱いに困る気がするものの、どう考えてもあの人だよなというカクの正体も含め、まだまだ物語で描いていただきたいものはあり、是非続編を期待したいところです。


『妖医玄眞 京都備忘録』(朝日奈錬 白泉社招き猫文庫) Amazon
妖医玄眞 京都備忘録 (招き猫文庫 あ 3-1)

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