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2015.09.11

『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』 通天の野望の果てに

 則天武后が皇位に就くことを目論み、巨大な「通天仏」を建造する中、関係者が突然発火し焼死する事件が相次ぐ。この怪事件に対し、則天武后はかつて自分を批判し、以来投獄されていたディー・レンチェを呼び戻す。幾重にも入り組んだ事件を追う中、ついに彼が掴んだ恐るべき陰謀とは……

 先日ご紹介した『ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪』の前作に当たり、内容の時系列ではその後に当たる、ツイ・ハーク監督によるディー判事シリーズの第1弾であります。

 ディー判事こと狄仁傑については『ライズ……』の紹介の際にも触れましたが、唐の則天武后の時代に実在した官僚・政治家であり、日本でいう大岡越前や遠山の金さん的な人気を持つ人物。
 その活躍は講談等として伝わり、それらを踏まえてロバート・ファン・ヒューリックが発表した推理小説シリーズを原案としているわけですが……こちらでもやはり原案は原案、いかにもこの監督にしてこの作品、と言いたくなるような豪快な内容であります。

 何しろ物語が始まるなり目に飛び込んでくるのは、都の中心に建造中の巨大過ぎる(高さ六六丈と説明されますが、どう考えてもその数倍はある)仏像「通天仏」。
 そしてその建造現場を視察に訪れた政府の高官が次々と体から発火し、瞬く間に黒い炭と化してしまうという、実に怪奇色濃い、見事なオープニングから一気に引き込まれます。

 この自然発火は、古今東西伝わる現象。原因も様々に取り沙汰され、様々なフィクションにも登場する、ある意味比較的メジャーな怪奇現象ですが、しかし時期が時期だけにこれは女帝誕生を妨害せんとする者たちのテロに違いない……というわけで、ディー判事の登場と相成ります。

 本来は判事の肩書きが示す通り、大理寺(唐の司法機関)に所属するディーですが、しかし本作が始まった時点では何と牢に入れられている状況。
 則天武后が帝位に就くことに反対、諫言したことで疎まれ、8年もの間入獄していた彼ですが、その則天武后の命ということで重い腰を上げ、則天武后の側近たる美女・チンアル、そして野心家の司法官・ペイとともに調査に当たるのですが……


 本作の宣伝ではディー判事を評して「中国のシャーロック・ホームズ」という表現を使っていたようですが、なるほどそれは当たっていると感じます――ただし、ロバート・ダウニー・Jr版ですが。
 そう、本作のメインはアクション活劇。もちろん、何故犠牲者たちが殺されなければならなかったのか、そしてそれを企図した真犯人は誰なのかというミステリ要素はあるものの、物語を動かしていくのは、ディーの、チンアルの、ペイの、香港映画ならではの派手な活劇なのであります。
(肝心の人体発火のカラクリは、これはもうミステリとして観たら噴飯ものなわけで……)

 しかしそれでも本作が冒頭から結末まで、不思議に一貫したものを感じるのは、ミステリもアクションも、ディーと周囲の人間たちの複雑な――目的を同じくするものの決して仲間とは言い難い――関係性も、皆この時代、この設定ならではの物語を構成する血肉となっているためでしょう。

 また、画面の美しさも特筆すべきところで、まさに天を仰ぐかのような通天仏内部や、その最上階からの眺め、あるいは都の様々な風物、そして物語中盤に登場する巨大な地下都市「亡者の市」のビジュアルなどため息が出るほど美しい。

 肝心の人体発火のビジュアルも違和感なく、そして何よりもクライマックスの大破壊もなかなかに見事で――正直に申し上げれば、続編よりもビジュアルの面で、そして作品そのものの統一感の上でも、完成度は上と感じた次第。


 ただ、ここで我が儘を言いたくなってしまうのがヒネたマニアの困ったところで、確かに十分以上に面白いものの、個人的には物語を包むムードがどうにも暗いのが気になったところ(天にまで己の威勢を届かせんとした皇帝を諫めたディー判事が最後に立った地が……という苦さはなかなか良いのですが)
 ある意味、ディー判事シリーズを総括するような内容だけに仕方はない点はありますが、物語の生真面目さが、いささか重く残る面はあり――個人的には続編の野放図なハジけぶりが懐かしくなったところではあります。


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