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2015.09.04

小松エメル『うわん 九九九番目の妖』 第一話「光の音」

 最近は、小説などのweb連載も珍しくなくなった印象があります。結局は単行本でも読むのですが、手軽に最新の展開を読むことが出来るweb連載も楽しいもの……というわけで今日は、先月から光文社文庫のwebサイトで連載の始まった小松エメルの『うわん』シリーズ最新作を紹介しましょう。

 父を助けて医師としての研鑽を踏む少女・真葛が、奇怪な妖たちの封印を解いたためにおぞましい妖怪「うわん」に取り憑かれた弟・太一を救うため、九百九十九匹の妖を捕らえるために奔走するこのシリーズも、今回web連載される作品で第3作目。
 人の心の陰の部分に巣くう妖怪たちを捕らえるだけでも手に余るところに、容貌おぞましく性格も冷酷冷笑冷然としたうわんに振り回される真葛の姿に心を痛めること必至の本シリーズですが、しかしそれでも彼女の努力が報われる日も間近であることが、この連載冒頭で語られます。

 ここに至るまでに彼女の捕らえた妖怪は、九百七十三匹――そう、言い換えれば残りはわずか二十六匹。太一の八つの誕生日までというタイムリミットはあるものの、達成するのは決して無理のない数字であります。

 と、そんな中、真葛の留守中に実家の診療所にやって来たのは、前作で真葛たちとともに怪事解決に奔走した女医・お梅……医術を志す真葛の先輩とも言える人物ですが、しかしそれとは全く別の意味で、お梅は真葛の先輩であったのであります……

 真葛の不在中に彼女のもとを訪れてきたというお梅。果たしてどのような用件だったのか……お梅の診療所を訪れた真葛と太一は、そこで意外なものを目にする――と言うべきかは疑問ですが――ことになります。


 前作で真葛とともに事件を解決した際、外法に手を出した自分は半分はこの世の者ではないと意味深なことを語っていたお梅。前作ではそのままフェードアウトした彼女ですが、いずれ再び姿を現すものと思っていましたが、この第一話において再登場することとなりました。

 彼女の身に起きたこと、そしてそれをもたらした彼女の過去について、ここでは未読の方の興を削がぬよう、詳しくは述べません。
 しかしこれだけは述べてよいでしょう。真葛が太一を救うために命と魂を賭けてうわんと渡り合い、妖怪を狩っているのと同様、お梅もまた、自分にとってかけがえのない存在を救うために、我と我が身を擲ったのだと……

 そう、まさにお梅は真葛の先輩であり――いや、もう一人の、ネガの真葛とも言うべき存在なのです。


 このシリーズの物語の背後で描かれるものの一つは、利己と利他のせめぎ合いでありましょう。我が身を捨てて他者を助ける――一見尊い利他的行為に見えるそれも、もしかすれば単なる自己満足かもしれない。代わりにまた別の者を傷つける、極めて利己的な行為かもしれない。
 その意味では決して真葛は完全なヒロインではなく、そして利己と利他の境で揺れる彼女を、うわんは幾度となくあざ笑ってきたのであります。

 そしてこの第一話で、物語は大きく転回、いや転回を見せることになります。そんな真葛の戦う理由を覆しかねないほど大きく……


 先に述べたように、全ての妖怪を捕らえるまであとわずかまできた真葛。そんな彼女をこの先待ち受けるものはなんなのか。
 『九九九番目の妖』という何とも意味深なタイトルが大いに気になるところであり……二週間に一度、全六回の更新が待ち遠しくなる物語であります。

 ちなみに、先の読めない、ミステリアスな物語展開を見せることの多い作者の作品ですが、その中でも『うわん』シリーズは特にサスペンスフルでショッキングな展開の多い作品。
 単行本で一気に読むのもよいですが、こうして連載形式で気を持たせられながら読むのに適しているように感じられるのは、一つの発見でありました。

『うわん 九九九番目の妖』(小松エメル Web光文社文庫掲載)


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