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2015.09.12

武内涼『忍び道 利根川激闘の巻』 忍者候補生、死闘の旅をゆく

 いまや忍者もの時代小説の数少ない書き手である武内涼による、ユニークな青春忍者小説、日本各地から集められた少年少女たちが学ぶ忍者の養成学校を舞台とした物語の続編であります。利根川を下り、江戸に向かうことになった忍者候補生たちの新たな苦闘を描く、今回は一種のロードノベルであります。

 天下太平となった元禄の頃、武士だけでなく公儀隠密たちの質が落ちてきたことを憂う幕府が設立を決定したのは、伊賀・甲賀の達人たちによる忍者の養成学校。
 講師陣の目に適った素質ある少年少女を妙義山中の忍者学校に集め、厳しい訓練を施すことで一流の忍者を育てる……そんなプロジェクトであります。

 本作の主人公・一平は、山中の村で育ち、その身のこなしに目を付けられた少年。村で一生を終えるのではなく、公儀のために働くことを夢見て入学を決めた彼は、生まれや育ちは違えども目的は同じ仲間たちと切磋琢磨し、少しずつ成長していく……それが本作の基本設定であります。

 前作では、一平たちの修行の始まりと、妙義山中に埋められていた、風魔忍者たちが各地で奪った黄金二千両を巡る戦いが描かれましたが、本作の物語の発端となるのがその二千両であります。
 いつまでも山中に置いておくわけにもいかないこの二千両を江戸に運ぶこととした百地半太夫学長ですが、風魔がその機会を見逃すはずもありません。そこで発案されたのが、選ばれた講師たちと生徒たちが商家一行に化けてカムフラージュしての輸送。

 かくてそのメンバーに選ばれた一平ら六人の生徒と、半太夫以下四人の講師は、利根川を舟で江戸に向かうのですが、もちろん、平穏無事に済むはずもなく、各地で執拗な風魔忍者の襲撃を受けることに――


 忍者の養成学校という、ある意味非常にメジャーな(作品がある)題材ではありつつも、デビュー以来数々の作品で、外連味とリアリティを兼ね備えた忍者の世界を描いてきた作者らしく、独特の静かな、そして内に強い熱を秘めた筆で、少年少女の戦いと成長を描く本作。
 前作はほぼ一貫して山中の学校内で描かれたのに対し、本作は江戸までの旅の物語と、一見本シリーズならではのユニークな設定を手放したようにも見えるかもしれません。

 しかし、むしろどうしても舞台のバラエティという点では限界がある学校を踏み出すことで、本作は独自の起伏に富んだ物語展開を手に入れたと感じます。
 そして何よりも、学校から外の世界に踏み出して、いわば実地訓練……というより実戦を経験するのは、一平たち生徒の成長を示すものでありましょう。

 もちろん、忍者の実戦は、敵がどこに潜むか、どのような手段で襲ってくるかもわからぬ全く心の安まらないものであることは言うまでもありません。
 そして繰り広げられる戦いは、決して常人離れした忍法合戦ではないのですが、しかしそれだけに独特のヒリつくような緊張感に満ち満ちたもの。さらに、熟練の忍者である講師陣と、まだまだ未熟な学生たちのいわば二層構造により、戦いの展開をを読めないものとしているのが、また心憎いのであります。

 そのため、物語としてはかなりシンプルな……ほぼ一本道の物語ではありますが、しかしラストまで全く緊張感を失うことなく、読み出したら最後まで読み切るしかない……本作は、そんな作品なのです。


 ただ残念なのは、主人公サイドに比べると、風魔側が「鉄の掟に支配された残酷非道な忍者集団」以上のものに見えないことでしょうか。
 特に敵方に、「将来あり得たかもしれない一平のネガ」とも言うべきキャラがいたにもかかわらず、その扱いがいささか勿体なかったこともあり、気になったところではあります。

 しかしそれも、主人公側との――忍者である以前に、様々な想いと過去を背負った人間である若者との――対比としては成功していると言えるかもしれません。
 まだまだ前途には不安もある一平たち。それでも彼らには刃だけでなく、それを正しく振るうための「心」があるのだと……いささか感傷的かもしれませんが、そう感じさせてくれるのですから。

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