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2015.10.27

熊谷カズヒロ『モンテ・クリスト』第4巻 待ち、しかし希望した末にあったもの

 ついにその復讐行も終わりに近づいた『モンテ・クリスト』の最終巻であります。自分から全てを奪った三人に対して次々と復讐の刃を振り下ろすモンテ・クリストことエドモン・ダンテス。その最後のターゲットは、最愛の人を奪ったフェルナン・モンセールですが、彼は……

 三人の仇の二人目、マルセイユで検事総長に登りつめたヴィルフォールに密かに接近したモンテ・クリスト。その権力の絶頂で、彼の旧悪を全てさらけ出すことでヴィルフォールを破滅させたモンテ・クリストは、ついに最後の、最大の仇を求めて動き始めます。
 そう、彼を無実の罪に陥れ、結婚を目前としていた最愛の女性・メルセデスを奪い取った卑劣漢・フェルナンを。

 これまでもモンテ・クリストの復讐行の中で、幾度となくその名が現れてきた秘密結社・永劫協会。「エロスは悪魔」の言葉の下、男と女の交わりによらぬ生命の創造を目論む狂信者たちの中で、フェルナンは、幹部として暗躍していたのであります。
 折しも、実現を目前としていた彼らの、彼の計画。それは新たな生命の創造――フェルナンにとっては、かつて失われたメルセデスとの間の子・アルベールの再誕でもあったのです。


 ……ここに至り、モンテ・クリストの復讐行から大きく離れて動き出したかに見える物語。フェルナンの狂気とも思える執念が生み出した「アルベール」の存在は、生きていたメルセデスの、そして教会内の反フェルナン派の思惑も相俟って、巨大な混沌を生み出すことになるのですが――
 しかし、ここで描かれることとなるのは、一人の女性を間に、全く異なる、対照的な人生を歩むこととなった二人の男の姿であります。

 かたや、最愛の人をはじめ、全てを――壮絶な拷問の中で「愛と生命を伝える肉体の一部」すら奪われたモンテ・クリストことエドモン・ダンテス。絶望の中で新たな力を得た彼は、その超人的な力を――そしてそれと同時に、彼を支える人々との絆をもって、新たな戦いの生を送ることになります。

 かたや、そのエドモン・ダンテスから愛する人を奪い、愛の結晶として息子・アルベールを得たフェルナン。巨大な力を持つ秘密結社の中で権力を振るいながらも、息子を失い、妻の愛を失い、そして男たる自信を失った彼は――同じ教会の人々から見ても――狂気の野望に走るのであります。

 精神的にも肉体的にも人の根元となるものを奪わた男と、一度はその全てを手にしながら全てを失った男。二人の姿は、突き詰めれば愛と性の――言い換えれば人間としての生といかに対するかという点において対照的であります。
 そしてそれは、これまでの作者の作品においても根底に流れていた(と私は信じるところの)人間性――それは時に暴力的な、時に猥雑な姿を取って現れるものではありますが――と、それを否定するものとの対決に通じるものではないでしょうか。

 永劫教会が最も忌み嫌う表現を使えば、男と女の愛の結晶である新たな生命。それに背を向けたフェルナンの生命創造は、まさしく独りよがりであり、それが招いた結末は、ある意味皮肉な必然と言うべきものかもしれません。
(にしても、現れ出た「アルベール」の姿にみられる作者の茶目っ気たるや)

 それに対して、肉体的にはその機能を失ったモンテ・クリストが残したものがなんであったか……
 作中でメタフィクショナルな遊びとのみ思っていたものが、ある意味人間の精神の一種の永続性を示すものとして浮かび上がる結末には、ただ感嘆し、感動させられるばかりでありました。


 復讐は何も生まないと、よく申します。

 しかし復讐――人間として最も根源的な感情の一つ――に突き動かされてきた男が最後に見せてくれたものは、絶望でも虚無でもなく、現代にまで繋がっていく人間性の輝きであったと感じます。
 それはなんと希望に満ちたものではありませんか。


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