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2015.10.31

戸土野正内郎『どらくま』第2巻 影の主役、真田の怪物登場?

 謎の凄腕忍び・九喪と謎の(自称)商人・真田源四郎、謎だらけの若者二人が繰り広げる破天荒な戦いを描く物語も第2巻であります。タイトルの「どらくま」とは、ギリシアでいう冥界の川の渡し賃六枚のこと。それと同じものを旗印とした一族が、いよいよ物語の前面に登場することになります。

 数年前に行われた大坂夏の陣――その炎の中で敵味方として激突しつつも、今は二人肩を並べて旅をする腐れ縁の九喪と源四郎。豊臣方の残党の籠もる山城を舞台とした死闘を終えた二人ですが、その前に現れたのは、何者かに追われるくノ一・桜。
 かつて武田信玄が作り出したという美少女くノ一集団・根津のくノ一の一員である彼女は、奇怪な術を操る敵に追われ、仲間を失いながらも逃げるうち、偶然に二人と出会ったのでありました。

 しかし桜の主君こそは、源四郎がこの世で最も苦手としており、最も会いたくない相手――彼の叔父・真田信之。
 頑なに上田に行くことを拒む源四郎ですが、この事件をきっかけに、ほとんど首に縄をかけられるように……


 というわけで、ついに明かされた源四郎の正体(の一環)。本作のタイトル、そして真田という姓の時点で一族であることはほぼ明白でしたが、ここで彼が信之の甥であること――すなわち彼の弟の子であることが、語られました。

 そしてこの信之こそが、この巻の影の主役と言うべき人物。
 真田信之と言えば、戦国もので大人気の父と弟に押され、今一つ目立たない人物という印象がつきまといます。しかし如何に早くから忠誠を誓ったとはいえ、父と弟が「家康が最も恐れた男」であったにもかかわらず、外様が次々と潰された時代に家を守り抜いた男が、ただ者であるはずもありません。

 史実では六尺豊かな、当時としては破格の大男だったという信之。
 また、単純にお家大事な律儀者というわけでなく、(本作の題材ともなっていますが)家伝の短刀を収めた長持に、実は石田三成らからの書状を入れていたというエピソードなどから見るに、なかなかの食わせ物であります。

 そして本作に登場する信之は、そんなイメージに輪をかけたような存在感の怪物。飄々とした源四郎が、その前では青菜に塩となってしまうのですから、その迫力は推して測るべし、であります。
 しかしパワーだけでなく、時には文字通り肉親をも切り捨て、敵以前に平然と味方を欺く姿は、確かに真田の血が流れていることを感じさせます。


 ……が、正直に申し上げて、この巻ではその信之が目立ったためもあり、源四郎にほとんど良いところがなかったのは残念なところ。九喪の方も強敵相手に窮地に陥る場面の方が印象に残ります。
 もちろん、物語の起承転結でいえば承の辺りであろうことは想像できますので、やむを得ないといえばそうなのかもしれませんが、やはりスカッとしないものはあります。

 しかしそんな中で印象に残るのは、戦に対しての源四郎の言葉。武士よりも商人を目指す彼は、過去に起きた戦に対し、算盤をはじくのですが――
 ここで彼が語るのは、死の商人的なそれとは対極にある、戦で失われたものの価値、そして失われなければ生み出されたであろうものの価値。

 戦の経済効果を完全に否定したその言葉は、あるいはこの巻で仄かされる彼の凄惨な過去によるものかもしれませんが、いずれにせよ彼が嫌悪するのは、過去の戦に限りません。
 彼は同時にこれから起こされんとする戦に対しても、激しい嫌悪の念を示すのであり――そしてそこに彼のヒーローたる所以があると言っても間違いありますまい。

 真田家を滅ぼし、戦を引き起こさんとする敵に、源四郎が、九喪が如何に立ち向かうか……この物語、ここからが本番でありましょう。


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 戸土野正内郎『どらくま』第1巻 武士でなく人間として、大軍に挑む男たち!

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2015.10.30

澤田瞳子『与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記』(その二) 仏はどこにおわすのか

 『若冲』の澤田瞳子が、東大寺大仏建立を造仏所の炊屋(食堂)を通して描く『与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記』の紹介の後半であります。食事を通して地に足の着いた視点から大仏建立を描く本作ですが……

 そしてそんな本作を通じて、一つの背骨とも言うべき存在となっているのが、炊屋の主・宮麻呂であります。

 朝昼晩と(仕丁は重労働なので昼食もあり)働く男たちに十分な分量の食事を用意するだけでなく、先に述べたようにその味で満足させ、元気づける宮麻呂。
 人当たりは荒っぽい男ではありますが、限られた素材に工夫を凝らし、時には自ら材料を調達までして仕丁たちのために――いやそれだけでなく、満足に食事もできない奴婢たちのための分まで――料理を作る彼の姿は、真楯たちを、いや我々読者を大いに元気づけ、惹きつけてくれる存在であり、彼のいる炊屋は、仕丁たちの心の拠り所でもあるのです。

 しかし同時に、物語が進むにつれて浮き彫りになっていくのは、彼の謎めいた過去。奥州の人々の言葉を解し、そして行基やその弟子たちとも面識を持つ宮麻呂。果たして彼は何者なのか、そして彼は何故料理を作るのか。

 造仏所に働きながらも、大仏を、仏の道を毛嫌いし、価値を認めない彼の謎めいた姿は、個々のエピソードで語られた物語とも結びつき、大きな問いかけを我々に投げかけます。
 大仏が本当に多くの人々を救ってくれるのか。多くの犠牲を払って造営される大仏に本当が価値があるのか。そして何よりも本当に仏はいるのか、いるとすればどこにいるのか――と。

 確かに、本作で様々な形で描かれるように、大仏建立はあまりにも多くの人々の人生に――それも多くの場合、ネガティブな形で――影響を与えてきました。もしも大仏が真の仏であるならば、そんな人々を救い、幸せにするべきものでありましょう。
 しかし、いくら巨大であったとしても大仏はあくまでも仏像。像に過ぎないのであります。

 それでは、真楯たちの働きには意味がないのか。宮麻呂が言うように、仏などこの世にはいないのか……
 そんな悲痛な想いに、本作は静かにしかし力強く、「否」と言ってのけます。そしてそれは単に仏の存在を肯定するだけではありません。そこで肯定されているのは人間一人一人、我々一人一人なのであります。そしてそこに、仏教の教えの根本を感じるのは、私だけではないでしょう。


 遙か昔の一大事業を舞台にしつつも、決してそれを遠いものとも、愚かなものとも感じさせず、そして高らかにこの世にあることの素晴らしさを謳い上げる……それも、誰にとっても口当たりが良く。
 本作の妙味を心ゆくまで堪能させていただきました。満腹であります。


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与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記

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2015.10.29

澤田瞳子『与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記』(その一) 無名の人々と食を通じた大仏建立譚

 奈良東大寺の毘盧遮那仏、いわゆる奈良の大仏を扱った作品は少なくありませんが、本作はその中でも極めてユニークな作品でしょう。『東大寺造仏所炊屋私記』の副題が示すように、本作の中心となるのは炊屋(食堂)――造営作業で働く者たちの姿を、その炊屋を通じて描く連作短編集なのであります。

 建造が始まったばかりの東大寺の大仏造営事業に、3年の間働く仕丁として徴発されてきた青年・真楯。到着早々、重労働の造仏所に配属となってしまい、落胆した彼は、仕丁頭の猪養に連れて行かれた造仏所の炊屋(食堂)で、大きく驚かされることとなります。
 それは、そこで出される食事があまりに旨かったこと。炊屋の炊男・宮麻呂は、その絶品の腕をふるい仕丁たちを食事で支える名物男だったのであります。

 かくて、宮麻呂の飯を食いながら、真楯は同じ境遇の仲間たちと夫役が終わる日を夢見て頑張るのですが、造仏所と炊屋の周りでは、次から次へと騒動が……


 というわけで、「小説宝石」に掲載された作品七編を集めた本作ですが、やはり感心させられるのは、大仏建立という大事業を、炊屋を、日々の食事を通じて描いたことでしょう。

 幾度か戦乱に傷つき焼かれながらも、今もなおその偉容を我々に見せてくれる奈良の大仏様。千年以上も前に、これほどのものを建立するのは、確かに政治・宗教的にも、あるいは純粋に技術的にも、歴史に残る偉業であることは間違いありません。
 当然というべきか、冒頭に述べたようにこれまでの作品は、この大仏建立をある意味大所高所から――あるいはそうでなくとも、本作にも登場する行基のような仏教者を通じて描く作品が大半であったという印象があります。

 それに対して本作に登場する人物の多くは、歴史に名を残すこともない、いわば一介の労働者たち。しかし、例え華々しい業績とは無縁であっても、彼ら一人一人が汗水流して働いたからこそ、大仏は存在するのであります。
 そしてそんな彼らにとって不可欠であり、そしておそらくは数少ない楽しみが食事であったことを思えば――本作の着眼点の見事さには、感心させられるばかりです。

 本作で描かれる、真楯をはじめとする仕丁や奴婢といった人々が出くわす騒動は、工事現場での思わぬ事故であったり、故郷を恋しがっての脱走であったりと様々。
 そればかりではなく、他の部署との軋轢や、大仏建立の方針を巡る上つ方の衝突であったりと――視点はあくまでも地に足がついたものであるものの――一作一作異なる趣向が凝らされた物語は、どれも魅力的であります。

 どれだけ華やかであっても、やはり自らの意志と関係なく仕丁に駆り出された人々にとっては大仏建立は苦役。
 それだけに、彼らを通じた物語は、半ば必然的に暗く重いものとなりかねないのですが――しかしやはり料理、食事といった要素を解するからでありましょうか、そそれだけに終わらず、どこかユーモラスで、何よりも暖かい空気がどの作品にもあるのが、何とも気持ち良いのであります。


 そして……少々長くなるので次回に続きます。


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与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記

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2015.10.28

『牙狼 紅蓮ノ月』 第3話「呪詛」

 藤原道長の別邸で、呪詛の痕跡が見つかった。道長の命により次々と捕らわれていく巷の陰陽師たちの中には、星明も含まれていた。星明を救うため、雷吼と金時が別邸に潜入した時、道長は謎の男・芦屋道満と対面していた。事件の絡繰りを暴いた道満は、集められた呪物を用いて魔界への迎門を開く……

 前回は雷吼の過去の一端と戦う理由が描かれた本作、今回は魔戒法師・星明が物語の中心となりますが、それに留まらず、様々なキャラクターの背景が少しずつ語られていくこととなります。

 藤原道長の別邸で、池の置き石を舐めた犬が変死。その下から、何やら液体が入った土器が埋められていたのが見つかります(この液体、もう少しドロッとしていてもよかったのでは)
 大陰陽師・安倍晴明(はるあき)から、これが自分を狙った呪詛であると聞かされた道長は、検非違使たちに命じて、巷の陰陽師たちを残らず捕らえようとするのですが……

 と、宇治拾遺物語の逸話を題材としたと思しい今回のエピソード。そちらでは呪詛を仕掛けたのは芦屋道満ということになりますが、本作ではそれに一ひねりが加えられた物語が描かれることとなります。

 呪詛の疑いで捕らえられてしまった星明(しかし、家に居るときに魔法衣姿なのはいかがなものか)。実は彼女は安倍家の姫――晴明の孫娘・キヨメであることが判明します。道長の元で祖父と再会した星明ですが、何やら複雑な事情がある様子です。

 と、同じく捕まっていたのはあの顔面傷だらけの謎の男・芦屋道満。屋敷から新たに見つかったという呪物の山を見せる道長は、道満が道長の甥・藤原伊周に命じられてやったのだろうと問い詰めるのですが……しかし道満は、この一件が伊周を追い落とすための道長の自作自演であることを暴き立てます。
 そして実はわざと捕まっていた道満の目的こそは偽の呪物たち。政敵を追い落とすために数多くの陰陽師たちを巻き込んだ企みに用いられた呪物は、偽物ながら、人のネガティブな念・陰我が宿ったものでありました。

 この陰我を用い、道満がその場に魔界への扉・迎門(ゲート。苦しい!)を開いたことにより、次々と出現する素体炎羅。そして炎羅に取り憑かれた陰陽師たちが天狗状の炎羅に変化し、周囲は大混乱に陥るものの、そこに駆けつけたのは、星明を助けに入り込んでいた雷吼。

 道満を捕まえることよりも人々を護ることに拘る雷吼は星明の呪文により封印を解かれた黄金の鎧を装着(ここで炎羅に捕まった星明を晴明が助けるのは、お約束とはいえイイ)、まさしく鎧袖一触で炎羅たちを粉砕するのでありました。


 と、お話的には比較的あっさり目の印象もある今回ですが、先に触れた星明と晴明の関係のほかにも、様々な真実が明かされました。
 その一つが道満に関すること――前回、謎の老人・道魔法師と会話していた道満ですが、どうやら法師こそは先代の芦屋道満(道摩法師は元々は道満の異称と言われますが、本作では一ひねり加わっているのが面白い)。
 かつては安倍晴明とともに宮中に仕えていたとのことですが、さて彼らが何を目的に行動しているのかは未だ謎であります。

 また、物語冒頭から幾度か登場し、星明に目尻を下げていた若き武士・源頼信の存在も、徐々にクローズアップされてきた感があります。
 今回、星明を巡って雷吼と激突した頼信ですが、彼によれば、元々は黄金の鎧は源家に伝わるものとのこと。ここで史実に目をやれば、頼信は雷吼=頼光の弟であって、ああそういうことなのかな、思ってしまいますが、さて……

 そしてその雷吼も、番犬所や星明とは微妙に意識のすれ違いがあるのが気になるところ。
 人の世の理には関わらないという番犬所、炎羅を生み出す源となる道満を倒そうとする星明と異なり、人を護ることを目的に戦うという星明ですが――さて、彼の正義の在り方がどのように物語に影響を与えるのか、というのは別の作品っぽい話になりますが、この点がこの物語の焦点になるのではないか……と、なかなかに気になるところであります。

 あとはこれで画的にもう少し頑張ってくれれば、というのも正直なところではあるのですが――



関連記事
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第1話「陰陽」
 『牙狼 紅蓮ノ月』 第2話「縁刀」

関連サイト
 公式サイト

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2015.10.27

熊谷カズヒロ『モンテ・クリスト』第4巻 待ち、しかし希望した末にあったもの

 ついにその復讐行も終わりに近づいた『モンテ・クリスト』の最終巻であります。自分から全てを奪った三人に対して次々と復讐の刃を振り下ろすモンテ・クリストことエドモン・ダンテス。その最後のターゲットは、最愛の人を奪ったフェルナン・モンセールですが、彼は……

 三人の仇の二人目、マルセイユで検事総長に登りつめたヴィルフォールに密かに接近したモンテ・クリスト。その権力の絶頂で、彼の旧悪を全てさらけ出すことでヴィルフォールを破滅させたモンテ・クリストは、ついに最後の、最大の仇を求めて動き始めます。
 そう、彼を無実の罪に陥れ、結婚を目前としていた最愛の女性・メルセデスを奪い取った卑劣漢・フェルナンを。

 これまでもモンテ・クリストの復讐行の中で、幾度となくその名が現れてきた秘密結社・永劫協会。「エロスは悪魔」の言葉の下、男と女の交わりによらぬ生命の創造を目論む狂信者たちの中で、フェルナンは、幹部として暗躍していたのであります。
 折しも、実現を目前としていた彼らの、彼の計画。それは新たな生命の創造――フェルナンにとっては、かつて失われたメルセデスとの間の子・アルベールの再誕でもあったのです。


 ……ここに至り、モンテ・クリストの復讐行から大きく離れて動き出したかに見える物語。フェルナンの狂気とも思える執念が生み出した「アルベール」の存在は、生きていたメルセデスの、そして教会内の反フェルナン派の思惑も相俟って、巨大な混沌を生み出すことになるのですが――
 しかし、ここで描かれることとなるのは、一人の女性を間に、全く異なる、対照的な人生を歩むこととなった二人の男の姿であります。

 かたや、最愛の人をはじめ、全てを――壮絶な拷問の中で「愛と生命を伝える肉体の一部」すら奪われたモンテ・クリストことエドモン・ダンテス。絶望の中で新たな力を得た彼は、その超人的な力を――そしてそれと同時に、彼を支える人々との絆をもって、新たな戦いの生を送ることになります。

 かたや、そのエドモン・ダンテスから愛する人を奪い、愛の結晶として息子・アルベールを得たフェルナン。巨大な力を持つ秘密結社の中で権力を振るいながらも、息子を失い、妻の愛を失い、そして男たる自信を失った彼は――同じ教会の人々から見ても――狂気の野望に走るのであります。

 精神的にも肉体的にも人の根元となるものを奪わた男と、一度はその全てを手にしながら全てを失った男。二人の姿は、突き詰めれば愛と性の――言い換えれば人間としての生といかに対するかという点において対照的であります。
 そしてそれは、これまでの作者の作品においても根底に流れていた(と私は信じるところの)人間性――それは時に暴力的な、時に猥雑な姿を取って現れるものではありますが――と、それを否定するものとの対決に通じるものではないでしょうか。

 永劫教会が最も忌み嫌う表現を使えば、男と女の愛の結晶である新たな生命。それに背を向けたフェルナンの生命創造は、まさしく独りよがりであり、それが招いた結末は、ある意味皮肉な必然と言うべきものかもしれません。
(にしても、現れ出た「アルベール」の姿にみられる作者の茶目っ気たるや)

 それに対して、肉体的にはその機能を失ったモンテ・クリストが残したものがなんであったか……
 作中でメタフィクショナルな遊びとのみ思っていたものが、ある意味人間の精神の一種の永続性を示すものとして浮かび上がる結末には、ただ感嘆し、感動させられるばかりでありました。


 復讐は何も生まないと、よく申します。

 しかし復讐――人間として最も根源的な感情の一つ――に突き動かされてきた男が最後に見せてくれたものは、絶望でも虚無でもなく、現代にまで繋がっていく人間性の輝きであったと感じます。
 それはなんと希望に満ちたものではありませんか。


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2015.10.26

『コンクリート・レボルティオ 超人幻想』 第4話「日本『怪獣』史 前篇」

 グロスオーゲンが地球を去ってから一月、日本では各地で怪獣の出現が相次ぎ、それに対するヒーローの活躍も目立つようになっていた。そんなある日、町で育てられている小型怪獣ガゴンの調査に向かった爾朗と輝子は、怪獣専門のラジオ番組を作るという日本怪獣電波社の青年・松本と出会うのだが……

 前回まででメインキャラクターも出そろった感のある本作ですが、それを踏まえてか、今回は一気にアクセルを踏み込んだ感のある、盛りだくさんにもほどがあるエピソード。
 何しろアバンタイトルから、神化14年、17年、29年と目まぐるしく時代が飛ぶ展開。そこで描かれるのは、人外魔境に現れた巨大な類人猿と、戦争の傷も生々しい東京に現れた(しかし姿の見えぬ)巨大な存在――そう、今回のモチーフは怪獣であります。

 第1話で「さらば」となった巨大超人グロスオーゲン(冒頭では第1話以前、グロスオーゲンが初登場した際のエピソードも登場。ここで「科学ではなくむしろ魔法が必要」という台詞が出るのにはニヤリ)。
 しかし超人が去っても怪獣の出現は相次ぎ、これを迎え撃つため、様々な超人が――人間衛星アースちゃん、ギガンダー7、その他未知の超人たち――が登場することとなります。
(この辺り、単にバラエティに富むだけでなく、どこかで見たことのあるキャラがこんなところで、というクロスオーバーの楽しさが横溢しているのも楽しい)

 超人たちの報道は法によって規制される一方、怪獣の方は対象外なのか普通に(?)報道されることもあり、いつの間にか世は怪獣ブームに。そんな世相を反映してか、怪獣専門のラジオ番組を企画する日本電波、あいや日本怪獣電波社なる会社までもが登場することに……

 が、そんな状況に疑問を抱くのが、前回登場した超人犯罪専門刑事の柴来人であります。鑑識の結果、出現する怪獣たちが共通の遺伝子を持つことが判明、何者かが怪獣を養殖しているのではないか、そして怪獣を超人に戦わせることで、超人のイメージアップをはかっているのではないか……超人憎しから出た陰謀論のような推理が、しかし正鵠を得ていたとは!

 このマッチポンプを企んだのは、こともあろうに超人課の秋田課長(その正体はエクトプラズム状の宇宙人!?)たち。そして怪獣を養殖していたのは、日本怪獣電波社……
 後者のみを知らされ、信じられぬ想いで電波社に急いだ爾朗が見たものは、地下に眠る何体もの怪獣たち。そしてその一体・ビッグガゴンに掴まれた爾朗が思わぬ力を見せることとなります。


 前後編の前編故か(いや今回は今回でそれなりにキリはいいのですが)、とにかく冒頭からキャラとガジェットと謎が山盛りの今回。もう元ネタを追いかける気力もほとんどなくなっていますが、それはさておき。
 そんな今回で印象に残るのは、「怪獣」という存在の意味に対する問いかけでありましょう。何故怪獣は問答無用に倒されるのか、そしてそもそも怪獣とは何者なのか……

 これまで、様々な超人に対して同情的な態度を取ってきた爾朗。しかしそんな彼も怪獣に対しては極めて冷淡に、明確に彼らを敵視し、倒そうとします。そんな彼の怪獣観は、一種の災害――台風や地震と同じ存在であり、人間とは相容れない存在、外を及ぼす前に滅ぼすべき存在なのです。
 それに対し、日本怪獣電波社の社主・松本青年は、怪獣は人間が、人間の行いが生み出した存在であり、共存を目指すべきだと主張します。なるほど、公害を由来とする怪獣も少なくないことを考えれば、それも一理あるでしょう。

 そのどちらが正しいか、それは今回は語られませんが、しかしいずれにせよ、怪獣は明確な「敵」として設定しやすいのは事実。人にはそれぞれ正義がある……というのは本作でこれまでも描かれてきたことですが、それでは相手が人でなく、巨大な怪獣であったとすれば、そこに正義を見出すことは難しい、というのは確かに真理でありましょう。
 しかしその一方で、その怪獣が小さく可愛らしい存在であったとしたら……今回登場する快獣ガゴンのように。

 これまで、相反する立場・味方を通じ、様々な超人の在り方を問いかけ、見つめ直してきた本作。そのスタンスは、怪獣に対しても同じであり、怪獣もまた超人……というのはさすがに気が早い結論かとは思いますが。

 そしてそんなテーマ性だけでなく、よりストレートに物語内容が気になりすぎる次回。人間を自称していた爾朗が見せた力の正体はゴジラなのかネッシーなのか、そして姿を偽って怪獣養殖に手を染めていた(ように見える)笑美の真意は……
 これまで以上に、次回が気になって気になって仕方ないのであります。


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2015.10.25

相場英雄『御用船帰還せず』 不可能に挑んだ四人のプロフェッショナルたち

 将軍綱吉に見出され辣腕を振るう勘定吟味役・萩原重秀は、金銀本位制の限界を悟り、禁断の貨幣改鋳に着手しようとしていた。そのための空気を作るため、彼が計画した奇策、それは十万両を積んだ御用船を強奪することだった。重秀を支えてきた隠密集団・微行組はこの難題に挑むが……

 経済小説・警察小説で活躍してきた相場英雄の初時代小説は、極めてユニークな内容であると同時に、作者の得意分野を活かした作品であります。

 本作の中心となるのは、元禄期に活躍した経済官僚・萩原重秀。時代ものでの貨幣改鋳によって超インフレを引き起こし、その最期も銀座の汚職事件に連座してという説もあり、どうにも悪役というイメージがつきまとう人物であります。
 が、本作では最近の説を踏まえ、重秀を、経済が急速に発展した元禄期の状況を踏まえた一種のリフレ政策という、当時の状況を考えれば大変に先進的な手段を取った人物捉えているのが、まずユニークであります。

 が、本作は重秀像を単純に善玉に逆転させるということはいたしません。本作の重秀は、経済官僚としては優秀ながら、人間としては大きく欠落した人物――人間心理というものをほとんど全く忖度せず、ただ効率性を基準として動く……そんな人物なのです。

 そんな彼が動くとき、当然ながら周囲との軋轢は避けられませんが、そこで彼を支えるのが私設の隠密組織とも言うべき「微行組」。
 それぞれ柔術、絵と剣術、手妻とスリ、双鉤填墨(複写術)を得意とする四人の男女。本作では重秀を支えて裏の実働部隊として――そして本作の実質的な主人公として――彼ら4人の工作プロが一国を敵にして活躍することとなります。

 その微行組の手を借りて、汚職幹部の摘発などに大鉈を振るってきた重秀ですが、しかし彼にとっても、貨幣改鋳は大仕事。
 それもそのはず、それまで小判に含有されていた金の量が減るということは、金本位の商人たちにとってみれば、自分たちの財産が減ることにほかなりません。

 しかし幕府の財政は悪化の一途、御用金の産地である佐渡の金山も、産出量を減らしている時代、何とか貨幣改鋳を成功させるため、重秀が見出した策、それは金を運ぶ御用船を強奪すること――


 と、何故御用船強奪が貨幣改鋳に繋がるかはここでは伏せますが、本作はその半ば辺りから、この不可能ミッションに向けて盛り上がりを見せていくこととなります。
 言うまでもなく厳重に警戒された御用船に、如何に潜入するか。そしてそこに潜入することが出来たとしても、船を操る手段を如何にするか。元々の乗組員たちをどうするか?

 この難題に、一つ一つ策を積み重ねていく微行組。しかし、彼らの活動を心良く思わぬする北町奉行所与力、そして隠密廻同心が、彼らの前に立ち塞がります。
 これまで重秀に文字通り詰め腹を切らされた者たちの怨念を背に、ダーティーな手段も用いながら微行組を追い詰めていく奉行所ですが――

 しかし、ここで奉行所側を悪とも、微行組を善とも単純に言い切ることはできますまい。
 確かに商人から賄を受け取るなど、現代の視点から見れば眉をひそめるような行動を取る奉行所サイドですが、しかし当時としてみればある意味それも当然のこと。彼らとしてみれば、彼らなりに社会秩序を守るために行動しているのであります。
 そして微行組サイドも、重秀の私設組織であるということは、つまり公ではない、非合法組織であり、その目的も犯罪スレスレのものがあります。

 そして何よりも、重秀を含めた微行組サイドも、奉行所サイドも、なかなか完全に感情移入しにくい人物造形とすることで、果たしてどちらが正しいのか、どちらを応援すべきか――そしてどちらが勝つべきなのか、単純に判断しにくくしているのが、なかなかに面白いのであります。
(もっとも、これはどこまで意図したことかはわかりませんし、微行組にはもう少し行動理由に感情移入したかったところですが……)


 何はともあれ、ユニークな題材を、それに輪をかけたユニークな切り口で料理してみせた本作。
 冒頭に触れたように、本作は作者の初時代小説とのことですが、これからも枠にはまらない作品に期待したいところであります。


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御用船帰還せず

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2015.10.24

仁木英之『恋せよ魂魄 僕僕先生』 人を生かす者と殺す者の生の交わるところに

 連れ去られた父母を救うため、吐蕃から長安へ向かった劉欣。後を追う僕僕と王弁は、途中の街で心臓に不治の病を抱えた少女・タシと出会う。彼女を何とか治そうとする王弁だが、タシの病状はは彼が近くにいると良くなり、離れると悪化するのだった。一方、単身、胡蝶の長・貂に挑もうとする劉欣だが……

 数えてみればもう第9弾となった僕僕先生シリーズ。長安から遠く吐蕃まで続いた僕僕と王弁の旅は、ここに来て急展開。起承転結で言えば、結の前の大転回という印象です。

 前作で吐蕃王家の御家騒動に巻き込まれ、その過程で思わぬことから僕僕と(精神的に)交わることとなった王弁。何とか事件は解決したものの、劉欣の最愛の両親が彼の元同僚である田欧に連れ去られ、劉欣は二人から離れて単身長安に向かうこととなります。
 劉欣の代わりに(?)吐蕃のオネエ暗殺者・デラクを加え、急ぎ長安に引き返す僕僕と王弁たちですが、しかし途中で思わぬ事件に巻き込まれ……

 というわけで、王弁パートと劉欣パートとでも言うべきでしょうか、大きく二つに内容が分かれる本作。
 王弁パートで描かれるのは、彼が辺境の街であった心臓に持病を抱える少女・タシを治すために薬師として奔走する姿であり、劉欣パートで描かれるのは、彼が所属してきた諜報組織・胡蝶の長・貂をはじめとする者たちと暗殺者として死闘を繰り広げる姿であります。

 長きに渡り心臓に病を抱え、もはや余命幾ばくもないと思われたタシ。しかしタシは王弁の治療により回復したかに見えたのですが……しかし、彼女が良くなるのは王弁が近くにいるときだけ。
 彼が離れれば悪化するという奇妙な病状に悩みつつも、王弁は自分自身の力で、タシを救うべく様々な手を尽くすことになります。

 思えばシリーズ第1作においてはニートとして登場し、そして僕僕との冒険を経て、薬師として独り立ちした王弁。
 しかし第2作以降、再び僕僕と旅に出たことで、彼の薬師としての側面は――もちろん物語の随所で描かれるものの――弟子属性に押されて、影を潜めがちであったと言えるかもしれません。

 本作で描かれるのは、そんな彼が、僕僕の弟子でありつつも、しかし一人の薬師として、懸命に自分自身の力を尽くす姿。
 それはもちろん、彼が大きく成長したということでありますが――しかし、運命は彼にさらに残酷な試練を用意することとなります。

 そして王弁パートがそんな比較的静かな展開である一方で、劉欣パートは奇怪な武術や仙術に彩られた激しいバトルの連続が描かれることとなります。
 歌声を武器とする不思議な少女・旋を味方につけ、己の内部の仙骨の用い方に目覚めつつあるとはいえ、彼の前に立ち塞がるのは、一度は信じた彼を平然と裏切った田欧をはじめとする胡蝶の手練れであり、そして何よりも、遙かな昔から少年の姿で代々の皇帝に仕えてきたという妖人・貂……

 僕僕や王弁たちと旅を続けるうちに、どこか人間味のようなものが見受けられるようになってきた劉欣ですが、本作で描かれるのは、彼が密偵として、暗殺者としてその持てる力の全てを発揮する姿。
 しかしそれは、非情の密偵であった彼が唯一愛情を注ぐ、育ての父母を救うためというのが、また切ないのですが……


 薬師と暗殺者、人を生かす者と殺す者――対照的な生を歩む王弁と劉欣の物語は、そして終盤において再び交わることとなります。

 己の愛する者の命を賭けて死闘を繰り広げる劉欣と、遅れて長安に駆けつけその姿を目の当たりにすることとなった王弁。
 本作の結末において二人がそれぞれ選択する道は、それは、水と油のような関係だった王弁と劉欣の間に生まれたもの、僕僕との旅の中でそれぞれ変わっていった二人の間を繋ぐものであり――それはとりもなおさず、王弁の成長の証とも申せましょう。


 結末において僕僕も認めたように、僕僕と王弁の物語であったこのシリーズは、王弁自身の物語として大きく動き始めた感があります。
 去る者がいる一方で、新たに、というより再び現れた者たちを加え、おそらくはこの天と地の運命までも絡んで、怒濤の展開を予想させる中――物語に結末をもたらすのは、王弁なのでしょう。

 大いなる凡人であった王弁の旅の行方を、最後まで見届けようでありませんか。


『恋せよ魂魄 僕僕先生』(仁木英之 新潮社) Amazon
恋せよ魂魄 僕僕先生


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2015.10.23

『仮面の忍者赤影』 第4話「怪奇忍び屋敷」

 霞谷に向かう途中、敵の襲撃で一人はぐれた白影は、傀儡甚内にすり替わられてしまう。彼に甲賀屋敷に誘き寄せられ、次々と罠に襲われる赤影と青影。地底で赤影が甚内と対決する間に屋敷は爆発したものの、青影は無事生き延び、さらに駆けつけた白影の助けで、赤影たちは甚内を倒し脱出するのだった。

 なかなかたどり着けない霞谷への道、それでも明るく旅を続ける赤影・白影・青影ですが、そこに突然地中から襲いかかるのは謎の巨大な鉄柱。頭部に回転ノコギリを装着、当たるを幸いなぎ倒す謎の鉄柱に追われ、一人白影ははぐれてしまいます。
 と、この襲撃に巻き込まれた老人を助けた……と思えばこれが傀儡甚内の変装、さらに再び現れた鉄柱から発射される怪光線に悩まされた白影は気絶、甚内は忍法顔盗みで白影に化けるのでした。

 素知らぬ顔をして赤影たちに合流した甚内は、毒薬入りの水を青影に飲ませ、苦しむ青影を休ませるため、無住の屋敷を見つけたと赤影たちを誘って入り込みます。
 この屋敷、実は地中から出現した(!)甲賀屋敷。何も知らず眠りこける赤影・青影に対し、甚内が動かした仕掛けにより無数の槍が天井から降り注ぐのですが……

 もちろんこれで二人が倒されるわけもない。入れ替わりに天井に張り付いて参上の名乗りを上げる赤影、そして回復した青影は、襲い来る下忍たちを倒していきます。(「だいじょうーぶ」のポーズは今回が初めて?)
 しかし奇っ怪なカラクリだらけのこの屋敷、落とし穴の一つに落ちたと思えば、その先は巨大な蜘蛛の巣! 赤影も青影も動けずにいるところに迫ってきたのは、ヒーイヒーイ厭な声を出しながら襲ってくる等身大の蜘蛛!
 と、二人がピンチに陥っているところで、、白影はと言えば、前回に続き今回も囚われの身。しかし何とか縛めを解いたと思えば、そこに現れたのは七人衆の闇姫であります。得意の忍法髪あらしは、大風どころか竜巻を起こし、赤影も一度は手も足も出ずに敗れた技。白影もやはり吹き飛ばされた……
 と思いきや、天高く飛び出したのは白い大凧。髪あらしの風を利用して舞い上がった白影は、そのままその場を逃れ、甲賀屋敷に向かうのでした(凧はどこから出てきたとか、どこに綱を結んでいるかとか言わない)

 さて、赤影たちには、造形は甘めのながら厭な感じ満点の大蜘蛛が迫り、今にもその毒牙が赤影の顔に……と言うところでお得意の仮面からの電流が蜘蛛を直撃。泡を吹いた蜘蛛は、登ってきた穴に転落するのでした。
 そして穴を脱した赤影が、隠し階段から上った先の小部屋に入ってみれば、そこに待ち構えていたのは甚内。甚内が装置を動かせば、小部屋はみるみるうちに下へ、下へ……なんと小部屋はエレベーターだったのです。

 一対一では赤影に全く敵わない甚内ですが、赤影に追い詰められても、自分を殺せば地上に戻れなくなると嫌らしく嘯きます(赤影が躊躇うのを見て、その場にどっかと座り込むのも面白い)。さらに、今頃地上では屋敷が大爆発しているぞ、と揺さぶりをかけてくる甚内。事実、駆けつけた白影は空から屋敷の大爆発を目撃しますが、屋敷には青影が残されているはず――! 

 ようやく地底に到着したものの、臍をかむ赤影。しかしその時、小部屋の屋根を叩く音が。そして「こんばんは」と顔を出したのは青影……小部屋の後を追ってロープを垂らし、地底に降りてきていたのでした。
 もう生かしておく必要はないとばかりに甚内を仕留める赤影。そして甚内の覆面を剥いでみれば、その素顔は白いのっぺらぼう……
 さて地上に戻ろうと、白影の助けを得て登り始めた二人ですが、今回の仕掛けはまだ終わりません。地中から迫ってきたのはあの鉄柱、ほとんど魂斗羅のようなノリで追いかけてくる鉄柱から必死に逃げる二人は、間一髪白影の凧に助けられるのですが――
 地中から出現したのは、巨大な独楽! なんと鉄柱は独楽の軸の部分、そしてそこには幻妖斎が……まだまだ戦いは続きます。


 というわけで、いよいよ忍者もの離れした仕掛けが飛び出してきた今回ですが、巨大な歯車により動かされる仕掛けの数々は、今見るとちょっとスチームパンク風味……というのは言い過ぎでしょうか。
 そして今回退場の甚内、敵が仲間の顔を盗んで潜入……というのは、『甲賀忍法帖』の昔からの定番パターンですが、メイクなしで悪人演技を見せる牧冬吉さんの存在感もあって、なかなか見せる展開でありました。


<今回の忍者>
傀儡甚内
 忍法顔盗みで相手に瓜二つに化ける覆面の忍者。白影に化けて赤影たちを甲賀屋敷に誘き寄せるが、全ての策が敗れて倒された。素顔は口しかないのっぺらぼうだった……


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2015.10.22

篠原景『春は遠く 柏屋藍治郎密か話』 「生きにくさ」を抱きしめて

 女物の衣装に身を包み、「先を見る」力を持つという触れ込みの若旦那・藍治郎が出会う様々な人間模様を描く『柏屋藍治郎密か話』の第二弾であります。今回藍治郎と、彼に仕える手代の仙助が出会うのは、鬼を見たという少年・文吉。複雑な事情を背負って生きる文吉に対し、藍治郎は何を語るのか……

 大手薬種問屋・柏屋の次男坊という気楽な身分から、店で働きもせず、家の離れで仙助と共に暮らす藍治郎。純粋に美しいから、という理由で女物の着物をまとい、暢気に暮らす藍治郎の隠れた稼業は、占い――
 先、すなわち未来を見る力を持つという彼は、商家の旦那衆を相手に、彼らの悩みに対して未来を見て答えるという稼業を営んでいたのであります、

 実は彼が本当に持っているのは相手の心の中を読む力であり、未来を見ることができるというのは偽り。
 しかし相手の心を読んでその悩み・欲求を知り、機転を利かせてそれに答えることで、彼は一種のコンサルタントともカウンセラーとも言うべき役割を果たしている……というのが本シリーズの基本設定であります。

 さて、そんな藍治郎の前に現れたのは、茶問屋の大店・矢内屋の主人・久右衛門。彼の力に疑いを抱いているらしい久右衛門を、冷や汗をかきつつも納得させた藍治郎は、その際に覗いた彼の家族の一人に興味を抱きます。
 それは久右衛門の後妻・お鶴の姉の子・文吉……とある大店の主の囲われ者だった母を亡くし、叔母のお鶴を頼って矢内屋に引き取られた文吉は、店で小僧として働いていたのであります。

 その育ち故か、人の気持ちを良く読み、頭の良い少年であるものの、しかしそれ故に主人の久右衛門との間に微妙な溝が生まれている文吉。
 そんな彼が、「鬼を見た」と店を飛び出してきたのに出会った藍治郎は、彼を自分の離れに引き取ることに決めるのですが……


 相手の心が読めるという設定を生かしつつも、決して派手な展開を描くのではなく、人の心の中の微妙な襞を巡る物語を、静かに、丹念に描いていく本シリーズ。
 本作において描かれるのは、文吉と久右衛門、お鶴を中心とする、矢内屋の人々の心であります。

 表面上は万事うまくいっているように見える家庭/店の内。しかしそこに暮らす各人の中には、思わぬ心の綾が……
 と書いてしまうと、どうもドロドロした物語を想像されてしまうかもしれませんが、本作で描かれるのは、あくまでも、波風とまではいかない人の心の微妙な機微であります。

 相手を憎んだり嫌ったりするほどではなくとも、どこかやりにくい、苦手だと感じることは、誰にでも経験があるでしょう。
 本作で、本シリーズで描かれるのは、そんな誰もが抱える微妙な想いに代表される「生きにくさ」ともいうべき感情なのです。

 「もう生きられない」というような想いではなく、決して人生に(少なくとも即座には)破綻を来させるようなものでもないものの、しかし日々の生活を息苦しくさせるその感情。
 それは簡単に表に出るものではないが故に、かえって人の心を悩ませ、苦しませるものとなります。

 藍治郎が「占い」を通じて行うのは、そんな想いを時になだめ、時に発散させ、時に気付かせること。そして何よりも、その想いが人間にとってごく自然に抱くものであることを、本人に気付かせること……それであります。

 そしてそんな物語は、時に苦く、もの悲しいものともなり得ます。しかしそれ以上に、その物語は、どこまでも優しい――決して甘くはないものの――ものとなります。
 それこそが本作の、本シリーズの魅力であり……そしてそれは作者のデビュー作である時代ホラーの佳品『柳うら屋奇々怪々譚』から通底する作者の作品の魅力でありましょう。


 もっとも、前作におけるゲストヒロインの性癖のように、もう少し物語(の展開)にパンチを効かせていてもよいかとは思いますが――もちろんクライマックスのある事件がそれなのだと理解しつつも――これは個人の趣味の域でしょう。

 結末に至り、物語の見え方に変化が生じるというひねりも気持ちよく、春はまだ遠くとも、人の心に咲く美しい花を見せてくれた本作は、やはりどこまでも好もしく感じられるのであります。


『春は遠く 柏屋藍治郎密か話』(篠原景 角川春樹事務所時代小説文庫) Amazon
春は遠く―柏屋藍治郎密か話 (時代小説文庫)


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2015.10.21

黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第9巻 数々の新事実、そして去りゆくあの男

 もはや虚実どちらも曇る日しかない『PEACE MAKER 鐵』の最新巻であります。鳥羽・伏見の戦で大敗を喫した新撰組、愛する沙夜と思わぬ形で引き裂かれた鉄之助……悲しみを堪えて東に向かう彼らを、さらなる悲劇が襲うことになります。そう、鉄之助の親友であったあの男が――

 御陵衛士残党により近藤が負傷し、その傷も癒えぬままに突入した鳥羽・伏見の戦。しかし初めての近代戦には新撰組の猛者たちも勝手が違い、錦の御旗もあって幕府軍は惨敗を喫することに。
 そしてその戦の陰では、土方たちの後押しもあり、戦を離れて――そしてその陰には新撰組を離れろという周囲の想いもあったのですが――鉄之助は沙夜を身請けするために島原に急ぐのですが、しかし一足遅く沙夜は別の男に身請けされて……

 と、これだけであればまだ、悲しいすれ違いで済むのですが、実は身請けの背後には鉄之助に偏執狂的憎悪を抱く北村鈴がいた、となれば、話は全く変わってくることになります。
 前の巻は、沙夜の前に鈴が現れるという、実に心臓が悪いシーンで終わったのですが、この巻で描かれるのは直後から。これまでの鉄の、新撰組の不幸のほとんどの背後に鈴がいることを思えば、いやな予感しかしないのですが――しかしその予感は半分当たり、そしてもう半分は全く意外な形で覆されることとなります。

 それは鈴というキャラクターに対する見方を一変させかねぬものであり(ああ、本物だったのか、という気もいたしますが)…そしてこの先の沙夜の、鉄の運命にも大きく関わりかねぬもの。これが救いとなるか、さらなる闇を招くか、気になるところであります。


 と、意外な新事実が描かれるこの巻ですが、しかしメインとなるのは、鉄之助たちと、ある隊士との別れであります。
 新撰組ファンであればこの時期に何が起きたのか良くご存じでありましょうから書いてしまえば、ここで描かれるのは、山崎烝の最期……それであります。

 大なり小なり、フィクションとして様々なアレンジが施されている本作の新撰組隊士たち。その中でも山崎は、最も大きなアレンジが加えられていると言ってもよいかもしれません。
 何しろ本作の彼の正体は忍び――双子の姉・歩(あゆむ)とともに、表裏一体の忍びとして活動してきた青年なのですから。

 当初は、その如何にも忍びらしい鉄面皮ぶりで鉄之助たちと距離を置いてきた烝。しかし第一部とも言うべき『新撰組異聞PEACE MAKER』のクライマックスにおいて歩を失い、初めて感情を露わにした彼は、それをきっかけに鉄の親友として活躍してきました。

 史実においては鳥羽・伏見の戦いで深手を負い、江戸に撤退する船上で亡くなったという山崎。しかし本作においては、人の死ぬ日時が読めてしまう斎藤一の助けもあり、撤退の時まで無傷でいたのですが……
 そんな彼が何故、何のために命を落とすこととなったか。詳しくは書きませんが、それはまさしく本作の山崎ならではの行動ゆえであり――そしてそれは悲劇に終わったものの、忍びではなく、まさしく一人の人間として生き抜いた彼の成長を描くものであったと言うことは許されるでしょう。

 もちろん、そうだとわかっていても、親友の死を背負うこととなった鉄の表情と、そして山崎の前に姿を見せた彼女には、涙腺が決壊させられるのですが……
(その一方で、あのキャラクターの瞳からどんどんハイライトが失われていくのは、予想できていたとはいえ本当にツラい)


 さて、それでも戦いはなおも続きます。早々に恭順の意を固めた将軍に対し、隊士たちの命を背負い、生き抜くための戦いをあくまでも続けようとする土方。一度は江戸に戻った彼らは、新たな戦場に向かうことになるのですが……

 しかし、江戸には土方に、近藤に、そして鉄にとっても、決して忘れてはならぬ人物がいます。そう、沖田総司という男が。
 病の床に伏した沖田――ここでも意外な新事実(?)が描かれるのですが――に対し、近藤と土方がかけた言葉とは、そしてそれに対して沖田は……またもや気になる場面で、この巻は終わるのであります。

 ……と思いきや、次の巻の予告頁では、早くもこちらの胸が張り裂けそうになるシーンが!
 もう本当に勘弁して下さい、と思いつつ、しかしそれでも、虚実の悲劇が絡み合った末に何が残るのか、それを見届けないわけにはいかないという想いに突き動かされるのであります。


『PEACE MAKER鐵』第9巻(黒乃奈々絵 マッグガーデンビーツコミックス) Amazon
PEACE MAKER鐵 9 (マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ)


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2015.10.20

岡田秀文『海妖丸事件』 今回も揺さぶられるミステリの前提

 上海に出張することとなった杉山は、親友の探偵・月輪龍太郎が、助手の氷川蘭子との新婚旅行で、偶然同じ豪華客船「海妖丸」に乗ることを知る。しかし横浜港の待合室には殺人をほのめかす予告状が届き、果たしてその晩の仮面舞踏会の直後、殺人事件が。さらに次々と起こる怪事件に月輪の推理は……

 大日本帝国憲法制定直前に起きた密室殺人事件を描く『伊藤博文邸の怪事件』、山縣有朋の金庫番の惨殺を皮切りにおぞましい連続殺人が続く『黒龍荘の惨劇』に続く、名探偵月輪シリーズの第3弾であります。

 黒龍荘事件の無惨な幕切れに、もう探偵はこりごりと本業である役所の仕事に打ち込む語り手の杉山。上海に出張することになった彼は、いかなる手違いか、自分が乗るのが豪華客船「海妖丸」の一等客室であることを知るのですが……しかもそこには月輪の姿が。 何と助手の才媛・氷川蘭子と結婚したという彼は、新婚旅行で同じ海妖丸の一等に乗るというではありませんか。

 しかし横浜港の一等客室専用の待合室で、政商たちの殺害を予告する奇怪な予告状が見つかり、その晩の仮面舞踏会の直後、客の一人の実業家が自室で殺害されているのが発見されることに。
 新婚旅行にもかかわらず、蘭子と大喧嘩の挙げ句杉山の客室に転がり込んでいた月輪は、早速調杉山をお供に捜査を開始しますが、しかし決め手はないまま、船は次の寄港地である神戸へ……

 神戸から乗船してきた刑事という思わぬライバルの出現に燃える月輪ですが、しかしさらに船内では宝石の盗難事件をはじめ、次々と事件が発生。そして上海到着を目前とした晩、衆人環視のもとに最後の事件が……


 毎回、驚天動地のトリックで驚かせてくれる本シリーズ、前2作はいわば密室もの、館ものでしたが、今回は密室もの……というよりクローズド・サークルものと言うべき内容であります。
(それも完全な孤立状態ではなく、横浜から上海までの間に、神戸・長崎と途中に寄港地があるのがまた面白いのです)

 しかし物語から受けるのは、特に前作に比較するとだいぶ異なり、一言で言えば「端正なミステリ」という印象。派手さはなく、むしろ古典的な本格ミステリを、丁寧に、丹念に描写を積み重ねて描き出している印象があります。

 その一方で、このシリーズらしい奇想ももちろん用意されているのは言うまでもありません。
 内容が内容ゆえ、はっきりとここで申し上げることはできないのですが、前2作に共通する、「ミステリが成立する上で当然普遍・不変のものとして存在する前提」を敢えて揺さぶってみせるというギミックは、本作でも健在……とだけは申し上げても良いでしょう。(そしてそれがこのクローズド・サークルにぴったりと嵌まるのが……というのはさすがに言いすぎかな)


 しかし、そんな本作ならではの面白さがある一方で、終盤に明かされるあるトリックは、あまりにも無理がある――どころか、本作の前提を悪い意味で破壊しかねない――のは本当に残念なところであります。

 また、これは前作にも感じたところですが、明治を舞台とする必然性が(舞台設定に必要となるテクノロジーレベルの点以外では)薄いのも、個人的には気になったところではあります。
 とくにこの点については、作者がデビュー以来、『太閤暗殺』『秀頼、西へ』等、優れた歴史ミステリを発表しているだけにどうしても期待してしまうのですが……

 と、最後の最後で点が辛くなりましたが、語り手のみならず読者まで深刻な精神的ダメージを与えた前作とはうって変わった読後感も良く、安心して読めるミステリであることは間違いない本作。
 やはり次回作にも大いに期待してしまうのであります。


『海妖丸事件』(岡田秀文 光文社) Amazon
海妖丸事件


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2015.10.19

『コンクリート・レボルティオ 超人幻想』 第3話「鉄骨のひと」

 世間を騒がせる連続爆破事件。しかし超人事件専門の刑事・柴来人は、事件の陰に超人課の隠蔽工作を察知する。独自に調査を開始した来人の前に現れた少女・美枝子……しかし彼女の正体は、戦時中に日本軍が開発した女性型ロボットだった。超人課と激しく激突しつつも彼女を追う来人だが……

 レギュラーの紹介編もおそらくラストの今回の中心となるのは、超人課とはライバル関係の刑事・柴来人。かつて悪の組織に命を奪われたものが、人格と記憶を人型ロボットに移植されたという、タバコの代わりに歌を口ずさんだりする設定の青年であります。

 さて、神化42年の現在、そんな彼が追うことになるのは各地を騒がす爆弾事件。実はこの事件、爆破とは超人課の隠蔽工作による偽り(なんという豪腕解釈)、真相は八束重工の社員を狙った襲撃事件でありました。
 その優れたロボット技術を軍事に転用、輸出している八束重工、その社員たちはトランク型の警備用ロボットを携えていたにもかかわらず、ロボットは一撃で破壊。カメラにもほとんど映らぬその正体と目的は……

 と、単独捜査に当たっていた来人が出会ったのは、おさげも愛くるしい少女・美枝子。しかし超人課もその行方を追っていた彼女こそは、先の戦争中に軍が生田研究所(もちろんモデルはフィクションではおかしなことばかり研究していることになっているあの研究所)で開発した人型ロボット――の一体。
 男女一対で開発され、敵地で合体(そして爆発?)する機能を持たされた彼女は、パートナーの半田を求めて今復活したのです。

 しかし半田は戦時中にグアムに送られ、そこで消息を絶たことを知る由もなく、ただ彼の面影を求めて彷徨う美枝子。共に合体を阻もうとしつつも、彼女を機能停止させようとする爾郎と、いつしか彼女を守る立場に転じていく来人。再開発の始まった新宿西口で繰り広げられる二人の対決の行方は――


 と、かつての等身大ロボットヒーローたちを思わせるキャラクターが登場する今回。ここで描かれるのは、それらの作品でも描かれてきたテーマ……人間に似せて作られ、人間の心を持った機械は人間なのか、そして機械であったとしてもそこに正義は宿るのか、という問いかけではないでしょうか。

 Aパートの終了直前、大ダメージを受けた来人の電子頭脳に「チョウジンジャナイ ニンゲンダ」という言葉が表示されます。
 人間としての感情と記憶――すなわち「心」を持ちながらも、体は冷たい鉄の機械である来人。なるほど、彼は生物学的な意味で人間ではありませんが、しかし人間の心と過去を持つ彼を超人と――ここではもちろん「機械」と同義ですが――呼ぶことは果たして正しいことでありましょうか。

 一方、人間そっくりに作られながらも、プログラムの命ずるままに、パートナーを求めて事件を引き起こす美枝子は、やはり機械と呼ぶべきなのかもしれません。
 しかしその姿は、一途に相手を恋い慕う者の姿であり――そこに我々自身と同じ心の動きを感じてしまうのは、これは輝子だけのことではありますまい。

 そして、そんな形で私たちを悩ませる物語は、5年の時を経た神化47年において、さらに複雑な様相を呈することとなります。
 グアムから帰還した兵士とともに密かに帰還した半田。来人は、自分自身の正義に基づき、その彼と美枝子を合体させようとします。冬季オリンピックにおいて二人を爆弾として使い、テロを起こすために……

 果たして5年の間に来人に何があったのか、それは現時点ではわかりません。しかしそこにあるのは、美枝子を人間として想い、扱おうとしていた彼とは全く異なる姿。そしてついに合体した二人は、さらに皮肉な現実――もう一つの正義の在り方を、来人に、我々に突きつけるのであります。

 一体誰が人間だったのか、そして誰が正義なのか、いや誰の正義の「正しい」のか、「正しかった」のか……その問いかけは、これまでも本作で語られてきた問いかけと重なり――そして超絶作画の爾郎と来人の激突の中にその答えは呑まれることになります。


 本作で描かれる超人の、正義の在り方は、決して不変ではなく、それどころか様々に移ろうものであります。
 なかなか初見ではわかりにくいかもしれない過去と現在、現在と未来を交錯させる本作の構成ですが、しかしその可変と不変を描くには、この手法しかないと……今回のラストからは改めて感じさせられたのも、一つの発見であります。


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2015.10.18

『牙狼 紅蓮ノ月』 第2話「縁刀」

 東の番犬所の依頼で魔戒騎士見習い・葛城久頼を預けられた雷吼。魔戒騎士であった父の鎧を受け継ぐことを願う久頼だが、その父は謀反を疑われて出奔、消息を絶っていた。その頃、京では侍の刀を奪う火羅が出没、その魔手は雷吼が持つ刀にも及ぶ。果たして火羅の狙いは、正体は……

 第1話ラストで現れた顔面傷だらけの男・芦屋道満。火羅を識別できるらしい金時によれば火羅ではないようですが、さてここは文字通り顔出しのみで終わります。
 一方、都を騒がしていたのは、侍の刀を次々と奪う物の怪。この物の怪と相対すると、刀が鞘から自然に抜けて宙を舞い、よりふさわしい者――すなわちこの物の怪の手に渡ってしまうのですが……

 そんな中、雷吼と星明が呼び出されたのは、魔戒騎士たちを束ねる東の番犬所所(西ではないのか……という気もしますが)。現代ではケルベロスを思わせる名の三神官がいた場所ですが、平安時代はそれが三狐神なのが面白いところです。
 そこで二人に依頼されたのは、火羅退治ではなく、魔戒騎士見習いの青年・葛城久頼の面倒を見ること。父も魔戒騎士であったという久頼は、久々に登場したという黄金の魔戒騎士である雷吼を見習いたいと、なかなかに殊勝な面持ちであります。

 雷吼が真面目に任務を果たそうとしている一方で、久頼に違和感を覚えた星明は、ゴシップ屋的な存在である和泉式部(! ある意味納得)のもとを訪れます。
 そこで聞いたのは、久頼の父・千晴は謀反の疑いを受けて久頼を連れて都を離れ、魔物に襲われて死んだという噂……

 その頃、雷吼の家では、彼の刀に手を出す怪しい影が。見とがめられて逃げ出したその正体は、やはりと言うべきか久頼。刀狩りの火羅だった久頼は、雷吼が自分の父の刀を奪ったと言うのですが――そこで雷吼の心にも疑念が生まれます。彼自身も、何故刀を手にしているか記憶がないと。

 ここで語られるのは雷吼と星明・金時の出会い。母ともども都を追放された子を探しに行った星明と金時が出会ったのは、巨大な火羅――と見まごうほど、無数の火羅にまとわりつかれた何者かの姿。そして火羅が剥がれた下から現れたのは、現れたのはガロの黄金の鎧……
 命の危機に、無意識のうちに鎧を召喚した少年雷吼。本来であれば魔戒騎士の鎧は、現世では装着時間に限界があり、それを超えれば鎧に食われるはずですが、しかし無傷であった雷吼を、星明は自分の魔戒騎士として育てたのであります。

 が、それを聞いて晴れない雷吼の心。父を失い、火羅に囲まれ、火羅になるしかなかった久頼。それはかつての自分自身と重なる姿だったのですから……その心の隙を突いたように、冒頭の描写同様、宙に舞う刀。その刀は雷吼に襲いかかるかに見えたのですが――血を流しながらそれを受け止めたのは雷吼の手。

 自分はかつて闇の中にいたからこそ、誰よりも強く光を求め、護りたいと思う――その想いに答えて彼を主と迎えた刀を手に黄金騎士の鎧をまとい、一太刀の下に火羅を断つ雷吼。そして現れた久頼の手にあったのは、父の髑髏……千春を殺し、食らったのは久頼だったのでありました。


 というわけで、前回に引き続きキャラクター・設定紹介をしつつ、より主人公たる雷吼の精神・姿勢とも言うべきものに踏み込んだ今回。
 特に印象に残るのは、自分自身と火羅と化した相手を対比――というよりそうであったかもしれない自分として受け止めつつ、それでも、それだから戦いたいという雷吼の姿であります。

 そこに描かれているのは、実に脚本の會川昇らしいヒーロー精神であるとともに、「闇に生まれ闇に忍び闇を切り裂く」牙狼らしい主人公像でありましょう。
 その一方で、久頼が火羅であると知りつつ、雷吼たちに始末させようという番犬所の在り方など、いかにも不穏でこれもまた牙狼らしい……という印象です。

 そしてラスト、道満に語りかける謎の老人が語るのは、雷吼の真の名が源頼光という事実。しかし雷吼が頼光であるということは、星明は……(というところで公式サイトを見てしまったのは大失敗)



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関連サイト
 公式サイト

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2015.10.17

11月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 毎年似たようなことを書いているような気がしますが、気がつけばもう10月も半ば……今年も残すところあと2ヶ月と少し、と考えると、少々血の気も引いてきます。ということで、今年も残すところあと2回となったこの更新記事、11月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 10月に続き少々寂しいかな? と思われた11月ですが、しかし文庫小説を中心に、なかなかの豊作であります。

 まず何と言っても注目は、10月スタートの新レーベル・講談社タイガから刊行の山田正紀『桜花忍法帖 バジリスク新章』上巻。既にプレビューを記事にしましたが、本当にどうなってしまうのか、期待半分不安半分の話題作であることは間違いありません。

 また、二ヶ月に一度のお楽しみとして私n中では定着した白泉社招き猫文庫は、昨年の『てのひら猫語り』に続くアンソロジー『宵越し猫語り 書き下ろし時代小説集』が登場。
 近藤史恵、小松エメルといった執筆陣が楽しみなのももちろんですが、『てのひら……』に掲載された作品の大半がシリーズ化されているので、そちらにも期待です。

 その他招き猫文庫からは友野詳『風穴屋旋次郎』、森山茂里『犬神の弟子』などが気になるところ。後者はタイトルからして同じ作者が廣済堂モノノケ文庫から発表した『あやかし絵師』と関係があるようですが……

 一方、文庫化もなかなかの顔ぶれ。夢枕獏の大作『大江戸恐龍伝』の刊行開始も嬉しいところですが、その他も月村了衛『神子上典膳』(まず間違いなく『一刀流無想剣 斬』の改題文庫化でしょう)、上田秀人『幻影の天守閣』新装版、畠中恵『たぶんねこ』、天野純希『戊辰繚乱』と登場。
 さらに岡本綺堂『女魔術師』は、1917年に初版が出て以来再版されていない模様で、これも大いに気になるのです。


 漫画の方では、やはり楽しみなのは碧也ぴんく『特盛! 天下一!!』。『天下一!!』の外伝短編7編+αを収録した賑やかな一冊であります。また、同じ作者の『義経鬼 陰陽師法眼の娘』第3巻も注目。

 その他新登場(というか1巻完結ですが)で楽しみなのは、蜷川ヤエコのシリーズ最新作『モノノ怪 座敷童子』、とみ新蔵『剣術抄 新宿もみじ池』(前作とは直接の繋がりはないのかな?)でしょうか。
 長編の新刊としては、梶川卓郎『信長のシェフ』第14巻、大羽快『殿といっしょ』第10巻、ちさかあや『豊饒のヒダルガミ』第2巻も楽しみです。

 また、近藤ようこ『水鏡綺譚』が文庫化されるのも密かな驚きであります。


 その他、10月の時に漏れましたが、10/30には瀬川貴次のシリーズ最新作『鬼舞 見習い陰陽師と妖しき蜘蛛』が登場することを補足しておきます。



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2015.10.16

畠中恵『なりたい』 今の自分ではない何かへ、という願い

 まいどお馴染み『しゃばけ』シリーズの最新巻――薬種問屋・伊勢屋の病弱な若だんな・一太郎と、彼の回りに集った妖たちを描く連作シリーズであります。全部で5つの短編を収めた本作は、タイトルの通り――何かになりたいという強い想いを秘めた者たちを前にした若だんなと仲間たちの奮闘が描かれます。

 ここしばらくのシリーズ作同様、収録された短編がある種の一貫性を持つように、プロローグとエピローグが描かれる本作。そこで描かれるのは、五柱の神々からの、若だんなへの問いかけであります。

 今日も今日とて寝込んでいる若だんなのために、神様たちにお供えすることとした伊勢屋の人々たち。しかしお参りに行っては若だんなの側にいれないと考えた兄やたちは――さすがは大妖というべきか――神様を若だんなのもとにお招きしようと考えたのでした。
 かくて若だんなのいる伊勢屋の離れで盛大な宴会が開かれ、これまで若だんなたちと縁のあった五柱の神様が来て下さったのですが……

 そこでもてなしの礼に、若だんなの目下の悩み――自分は来世に何になりたいのか、その答えに自分たちが気に入ったら、それを叶えてやろうという神様たち。
 しかし目下はにこやかでも、相手は怒らせたら怖い方々、答えを誤ればどうなることか……


 と、思わぬことで悩む羽目になった若だんなが最近出会った、五つの「なりたい」が語られる本作。
 何かになりたいという気持ちは誰にでもありますが、しかしもちろん、若だんなの出会う「なりたい」が、人並みのそれのわけがありません。そうこんな風に――

『妖になりたい』
 若だんなが考案した新商品開発のために必要となる蜂蜜。そのための蜂を育てる男が出した交換条件は、なんと妖になって空を飛びたいというもので……

『人になりたい』
 栄吉の師匠も加わっているお菓子の会で起きた殺人事件。しかしその死体が後から血塗れになったり、死体が消えたりとおかしなことばかり。果たして殺されたのは?

『猫になりたい』
 藤沢宿を治める猫又の頭選びの相談を受けた若だんな。猫又相手に商売したがっている手ぬぐい屋を審判に、勝負を始めたものの、おかしな事件ばかりが……

『親になりたい』
 伊勢屋の女中が見合いをした相手には、大変な聞かん坊の子供が。それもそのはず、その子は妖。さらに、父親を名乗る男がもう一人現れ、騒動は思わぬ方向に転がることに。

『りっぱになりたい』
 長患いの果てについに亡くなった伊勢屋の近くの大店の若だんな。幽霊になって現れた彼に頼まれ、彼のなりたいものを考えることになった一太郎ですが、幽霊の若だんなの妹が姿を消し、身代金を要求する手紙が……

 最近は若だんなのお嫁さんが決まったり(まだまだ先のことですが)、貧乏神の金次たちが伊勢屋を出て近所に住み始めたりと変化はありますが、しかしやはり基本的なラインは変わらない本シリーズ。
 相変わらず若だんなは病弱ですし、兄やたちは過保護ですし、妖たちは賑やかですし、鳴家は可愛いし……そして彼らが出会う事件は皆、不可思議な謎とユーモアに満ち、そしてちょっぴりの現実の苦さという隠し味が用意されています。

 そもそも「なりたい」という気持ちがあるということは、今はそうではない、ということであります。
 そしてそれは同時に、自分の今いる「ここ」という現実とは異なる世界に――すなわち「ここではないどこか」に行きたいという望みに近しいものでありましょう。

 だとすれば、(時々比喩ではなく)此岸と彼岸の間に立つ若だんなこそは、その「なりたい」悩みを解決するのに相応しい人間なのでしょう。
 もっとも、その若だんなこそが、現世という「ここ」ではなく、来世に何になりたいか、という悩みを抱えているのは、皮肉という言葉では片づけられないような切なさがあるのですが……


 そしてその若だんなの答えは何なのか、神様たちの反応は――いかにも『しゃばけ』らしい結末が用意されていることだけは、言ってもよいでしょう。若だんなはここでも、どこでも、若だんななのだと……
(そしてここからあちらに繋がるのだな、とファンならニヤリとさせられるのですが)


『なりたい』(畠中恵 新潮社) Amazon
なりたい


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2015.10.15

蒲原二郎『真紅の人』 「人」たることを謳い上げた者たち

 鳶田の貧人村で育った佐助は、実はとある武将の忘れ形見だった。大坂の陣直前のある日、真田信繁の老臣・久蔵を救った彼は、それが縁で大坂城に入る。真田組に配属され、真田丸で父の仇・徳川軍を相手に奮戦する佐助は、ついに武士として名乗りを上げるのだが……

 『オカルトゼネコン富田林組』でデビューした作者が心機一転して発表した初の歴史小説であります。
 舞台となるのは大坂冬の陣、夏の陣。そして主人公は真田信繁の下で戦う少年・佐助……とくれば、ははあ、と早呑み込みしたくなりますが、さにあらず、幾つものの捻りと独創性に満ちた作品であります。

 関ヶ原の合戦で敗れて斬首されたさる武将の子として生まれ、徳川方についた叔父により、幼い頃に母を初めとする血縁者を皆殺しにされ、自らは辛くも逃げ延びた佐助。
 流れ流れて貧人村で死体の片付けなどで日銭を得ていた彼の運命は、ある晩、ならず者に襲われていた老人を助けたことで一変します。

 その老人こそは、真田信繁が幼い頃から傅育していた鉄砲の名人・掛居久蔵。それが縁で真田大助とも面識を得た佐助は、親友の少年・権太や村で読み書きを教えてくれた巨漢の僧・隆海とともに大坂城に入城することになります。
 さしたる武功もないことから、周囲の武将や配下からも低く見られていた信繁の軍、その中でも貧人出身ということでさらに低く見られていた佐助たちですが、冬の陣での真田丸での活躍で一転して周囲から一目置かれる存在となります。

 同じ久蔵の下に配属されたお調子者の富作や紀州の鉄砲組たちと親交を深めた佐助は、初陣でも活躍し、ついに武士として父の姓を名乗るのですが――しかし、情勢は真田組のみの活躍では覆せないほどに悪化。
 そして佐助も戦場の悲惨さを、これ以上はない残酷な形で突きつけられることに……


 ある意味戦国ものとしては鉄板の題材である――次の大河ドラマの題材ということもあり――大坂の陣における真田家の戦い。
 本作はその意味では題材の新味は薄いと言えるかもしれませんが、しかし時に過ぎるほどの丹念な史実描写と、何よりも新鮮かつ魅力的なキャラクターたちの造形で、なかなかに読ませる作品であります。

 もちろん、そのキャラクターたちの中心にいるのが佐助であることは言うまでもありません。
 冒頭に述べたとおり、真田もので佐助と言ったら……という定番を敢えて避け、さらに一種のダブルミーニングであるその名の設定も面白いのですが、一見清冽な若侍でありつつも、その中に清く純な部分と暗く濁った部分を共に抱えたキャラクターは、定番に一ひねり加えた感があって面白い。

 そして彼の周囲の人物の造形もさらにいい。どこまでも純朴な、それだけに大きな迷いを抱えた権太、佐助たちを時に暖かく時に厳しく見つめながらも、自身も暗く重い過去を背負う隆海、軽薄かつ脳天気な言動で、重い物語に明るい空気をもたらす富作……
 さらに、才気を内に秘めながらもどうにも貫禄がない(さらにつまらないギャグを連発する)信繁、低い身分の出ながら、その信繁とは固い絆で結ばれた久蔵など、登場人物それぞれのキャラクターが明確であるのは、本作のリーダビリティを大きく高めていると言えましょう。
(ちなみの本作ではほぼ一貫して「信繁」表記が用いられますが、では幸村はといえば、これが意外なところで登場するのもいい)

 しかし何よりも本作の魅力は、彼らが単に戦いに狂う阿修羅ではなく、あくまでも一人一人が喜怒哀楽を持った人間であることです。

 佐助と、彼らの周囲の人々に共通するもの……それは、いずれも重く悲しい過去を背負い、それに躓いたがために、周囲から一段低く見られ、蔑まれてきたことであります。
 そんな彼らが、戦いの中で自分たち自身を取り戻し、自分たちがあくまでも「人」であることを強く謳い上げる姿。それこそが本作の描く「真紅の人」であり、本作最大の魅力でありましょう。


 初めての歴史小説であるためか、史実に関する書き込みが過剰と感じられる点、キャラクターの主義主張がほとんど台詞でもって語られる点等、正直に申し上げて苦しい点はあります。
 それであっても、本作の描く「真紅の人」たちの姿は魅力的であり、そして決して悲しみに終わらない、未来に向けての力を与えてくれる物語であることだけは、まちがいありますまい。


『真紅の人』(蒲原二郎 角川書店) Amazon
真紅の人

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2015.10.14

奥山景布子『たらふくつるてん』 「笑い」で道を切り開いた男

 京で塗師をしていたうたつのあがらない男・武平は、武家の奥方殺しの濡れ衣を着せられ、命からがら江戸に逃げる。そこで話術の才能を見出された武兵衛は、鹿野武左衛門と名乗り、噺家として頭角を現していく。しかし、思わぬことから筆禍事件に巻き込まれた彼の運命は……

 落語というと、何となくずっと昔からあったような気持ちになってしまいますが、実は今のような形となったのは、17世紀も終わりに近づいた頃。
 そして京や大坂でも噺家が生まれる中、江戸で身振り手振りによる「仕方噺」を生み出し、江戸落語の祖と呼ばれるのが、本作の主人公・鹿野武左衛門であります。

 武左衛門の前半生については、大坂生まれであることや塗師であったこと程度しかわかっていないようですが、中年になって才能を開花させ、瞬く間に人気者となったようであります。
 その晩年は、筆禍事件に巻き込まれて伊豆大島に流刑となり、6年後に帰ってきたものの、その年に亡くなったという(当時の文人・芸人にまま見られるような)最期を遂げたと言われていますが……

 さて、わかっているようでわからない部分も多い武左衛門の一代記を、本人の噺に負けず劣らずユニークかつ波瀾万丈な物語として、本作は描き出します。

 何の取り柄もなく、うだつの上がらない男だった武平。人と話すのも苦手で、唯一の楽しみは芝居や噺など、芸事を見物することだったのですが、それが元で女房に愛想を尽かされて逃げられるような男だったのですが……
 その彼が何の因果か、武家の奥方殺しの濡れ衣を着せられて江戸に逃亡、そこである日出会った横柄な絵師・石川流宣に噺の才能を見出されたことから、彼の運命は大きく変わることになります。

 流宣や仲間の風流人たちの引きで、辻噺から座敷噺、小屋を掛けての噺へと、様々な場で己の作った噺を語る武平。とある出来事がきっかけで、鹿野武左衛門なる名を名乗ることとなった彼は、ひいき筋や仲間にも恵まれ、噺家として成長していきます。

 しかし気がかりは、自分を奥方の仇と信じ込んで探し回る侍の存在。さらに、自分を追ってくる後輩噺家の登場に、流宣との仲違いなど、楽しいことばかりではありません。
 そして何よりも、時の将軍・綱吉の、生類哀れみの令をはじめとする庶民への締め付けが、徐々に笑いの世界にも迫ってくることに……


 芸道ものの魅力の一つは、生まれや育ちに関係なく(というのはあくまでも理想ですが、その理想も魅力のうち)、主人公が己の才能と努力のみでもって、芸の道を切り開き、ただ一人で周囲の世界と対峙することができる――その点にあるのではないかと常々思っています。

 その意味では本作は、題材が題材だけにどこかユーモラスな空気は始終漂うものの、それだけに、「笑い」で以て、前代未聞の落語の世界を作り出していこうという武左衛門の想い――喜び、悩み、悲しみ、迷いが、より鮮烈に伝わってくるように感じます。

 そして芸道ものでは一つの定番とも言うべき、時の権力との対峙も、上で述べたとおり本作の重要な要素となるのですが……
 しかし、ほとんどの作品が、芸術の力を高らかに掲げ、一つの希望を見せるのに対し、本作の武左衛門のスタンスは、それとはまた異なる形で、一種開き直ったかのような形で示されるのはなかなか興味深い。

 個人的には別の描き方もあるのではないかな、と思いつつ、これはこれで一つのリアルであり――そして今の空気の一つを切り出したものではありましょう。


 さて、本作の主人公は実在の人物。その人生の結末は、冒頭に述べたとおり(と言われているの)ですが……さて、本作はそれにどのようなオチをつけてみせるのか。
 ある意味反則、ある意味お約束のオチかもしれませんが、しかし、やっぱりこうでなくっちゃ! と、喝采できるものであることは間違いない……というくらいは許されるでしょう。


『たらふくつるてん』(奥山景布子 中央公論新社) Amazon
たらふくつるてん

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2015.10.13

作品集成更新

 このブログ等で扱った作品のデータを収録した作品集成を更新しました。本年2月から本年8月までのデータを追加・修正しています。いやはや、こういうものはため込むものではないですね……反省。
 今回も更新にあたっては、EKAKIN'S SCRIBBLE PAGE様の私本管理Plusを利用させていただいております。
 シリーズ物や短編集については、次回大きく整理したいと思っています(前回更新時も似たようなことを書きましたが……)。



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2015.10.12

『コンクリート・レボルティオ 超人幻想』 第2話「『黒い霧』の中で」

 変身能力を持つイタズラ好きのオバケ・風郎太を捕まえた爾朗と輝子。その頃、永田町周辺に謎の黒い霧が発生、国会議事堂を閉じ込めてしまう。風郎太の言葉から黒い霧の正体を知り、対処に当たろうとする超人課だが、超人課に興味を持った風郎太は、単身黒い霧の中へ……

 オバケの風郎太紹介編である今回、タイトルの「黒い霧」でのけぞってしまうのですが、しかし本編の方は、ノスタルジックな切なさと、子供の持つ正義感の両義性を描く、実に濃厚な味わいのエピソードであります。

 神化41年、銀座のデパート屋上で売られていた見慣れぬ美しい甲虫を、鳥に変化して逃がした風郎太。しかし彼はその直後に現れた黒い霧にまかれ、その中で不思議な声から、この霧の中に潜むのがタルタロス蟲人なる存在だと教えられます。
 折しもこの黒い霧は各地に出没、ついには国会議事堂をも包み込み、公共保安隊の超人(こういう形で国の超人がいるのか、ということと、どこかで聞いたようなネーミングにニヤリ)も全滅させられた状態で、ようやく超人課にも出番が回ってくることとなります。

 一度は警察から逃げ出したところを爾朗たちに捕まった風郎太がタルタロス蟲人の名を口にしたことから、爾朗の養父であり(どこかで聞いたような名前×2の)秘境探検家・人吉孫竹を通じ、対抗手段を手にする超人課。
 それを知った風郎太は、興味を持った超人課に加わるため、その対抗手段を手に、黒い霧に飛び込んでいくのですが……

 風郎太の前に現れ、友達となった美少女・カムペは何者か。タルタロス蟲人の真意は。風郎太の行動の結果は。そして風郎太は超人課に入ることができるのか……物語の結末は、7年後の神化48年に明かされることとなります。


 タイトルの「黒い霧」のモデルは、神化ならぬ昭和41年に政界を騒がせ、衆議院解散に繋がった一連の政権与党の不祥事、「黒い霧事件」にあることは間違いないでしょう。
 このタイトルを見た時は、この事件をモチーフとした政界を舞台にした物語なのかな、と勝手に思いこんでいましたが、まさか文字通りの黒い霧が登場(不祥事が背景にあることは間違いないのですが)するとは意表を突かれました。

 それでは物語の中心にあるものはと言えば、その黒い霧に潜むものと、そこに飛び込んだもの――タルタロス蟲人と風郎太である、と言ってよいでしょう。

 遙かな昔、地球上で繁栄した昆虫の末裔である昆虫人類・タルタロス蟲人。ある理由で姿を消した彼らがどこに消え、そして何故「いま」姿を現したのか……それも面白いのですが、しかし何よりも興味深いのは、人間サイドの超人課による、彼らが「超人」か「侵略者」かの判断でしょう。

 地球の先住者たる者たちが――人類にとっては友好的とは言い難い形で――再び姿を現したとき、いかに対するべきか? あるいはさらに突っ込んでしまえば、侵略者と見える者にも理はないのか、全て滅ぼしてよいのか……
 かつて『ウルトラセブン』(S43年)や『海のトリトン』(S47年)で描かれた問いかけは、本作でもまた、形を変えて描かれることとなります。

 そして風郎太は、人間とも妖怪とも異なる(本作における妖怪は、人間とは別種の形態を取る知的種族を指す模様)オバケ。彼は子供たちと遊ぶことが大好きな存在であり、そのメンタリティーもまた子供と同様の存在ですが……しかしオバケが変わらない一方で、人間の子供はすぐに成長し、子供時代を捨て去っていくのです。

 神化48年に様々な形で描かれるのは、そのどうして大人に「ならないのだろう」という、変わらないことの切なさ、悲しさであり(その姿は、S41年に漫画連載を終了し、S48年に後日譚的な漫画、いや劇画が発表されたあるオバケを思わせます)――そしてもう一つ、幼い正義感の残酷さ、であります。

 正義と悪を割り切り、「正義の味方」超人課に加わるため、その代行者として振る舞った風郎太の行動が何をもたらしたか……今回のエピソードのラストで(今は超人課の敵となったという)爾朗は、それをほとんど容赦なく断罪します。
 しかし本作は同時に、決してその正義感を単純に否定しては終わりません。爾朗がかつて、風郎太の正義感の中に何を見ていたか、そして何を見ているか……神化41年と神化48年を通じ、人間とオバケと蟲人を結び、結末に語られる「それ」には唸らされるばかりなのです。

 それもまた、爾朗という人間の抱える、一つの超人幻想と言うべきでしょうか。


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 『コンクリート・レボルティオ 超人幻想』 第1話「東京の魔女」

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2015.10.11

『牙狼 紅蓮ノ月』 第1話「陰陽」

 物の怪・火羅(ホラー)の跳梁により人々が苦しめられていた平安の都に、人知れず火羅と戦う魔戒騎士・雷吼と魔戒法師・星明がいた。美しい仏を彫り上ることに執念を燃やす仏師・順慶は、火羅に取り憑かれて次々と女性を襲う。順慶が変化した仁王のような火羅・閻剛を、黄金騎士の刃が断つ。

 魔界から現れ、人間の心のネガティブな部分・陰我に取り憑く魔物・ホラーと人知れず戦う、獣面の黄金の鎧をまとった戦士――魔戒騎士の戦いを描く『牙狼 GARO』。
 丁度10年前にスタートし、深夜特撮番組としては異例の長期展開となったシリーズの最新作はアニメ、それも平安時代(を思わせる世界)を舞台とした作品、それもシリーズ構成は會川昇と井上敏樹ということで、このブログ的にも見逃せないところであります。

 眩く輝く(本当に光っている)光宮を中心に貴族たちが華やかに暮らす一方で、夜になれば奇怪な物の怪・火羅の群れが出没し、様々な怪異が庶民を苦しめていた平安の都。
 そこで人知れず火羅を狩るのは、黄金の鎧を持つ若き魔戒騎士・雷吼(らいこう)と従者の金時、そして年齢不詳の美しき魔戒法師・星明(せいめい)でありました。

 修理中の羅城門を襲い、大工たちの精気を喰らう火羅の群れを一蹴した彼らが次に挑むは、夜歩く仁王像の怪であります。
 仁王像を鎮めようと都一の仏師・順慶が作った胎内仏も、像に収めた途端に崩れ落ちる有様、いやそれどころか、それをきっかけに美しい菩薩像を彫るという想いに取り憑かれた順慶が火羅化してしまうことに……


 というわけで、舞台を平安時代に移しても、やはり人の陰我を喰らって怪物化するホラーと、それを狩る黄金の騎士という牙狼の基本設定は健在の本作。
 その一方で、今回さらりと語られた、貴族たち身分の高き者は陰陽師によって守護(つまり陰陽師も火羅に対処できる)されているという、この時代ならではの設定が本作ならではの独自性かと感じます。

 その加護から漏れた人々を守る者こそが魔戒騎士たる雷吼の務め……となりますが、雷吼がまず間違いなく源頼光をモデルにしていると思えば、彼と史実の上で上下関係にあった藤原道長が、貴族サイドのトップ――庶民を切り捨てる側として――存在しているのも、興味深いところではあります。
(しかし雷吼や星明といったネーミングは、いかにも牙狼らしくちょっと楽しい)

 また、『牙狼』の物語としては、冒頭で黄金の魔戒騎士ガロの名は絶えて久しいはずと言われている点や、ガロの変身アイテムであり相棒でもあるはずの魔導輪ザルバが普段石化しており、星明に封印が解かれた時のみ復活できる(変身できる)点も気になります。


 と、本作ならではの面白さはもちろんあるのですが、第1話を見た限りでは、もう少し平安らしさ、時代ものらしさを前面に出していくか、さもなければもっとはじけた描写に振っても良かったかな、という印象があったのも事実。

 もちろん、個人的には前者に振れて欲しいところではありますが……雷吼の屋敷のヴィジュアルなど観ると、その辺りは心配になりますし、さらに言ってしまえば雷吼と星明の戦闘スタイルのコスチュームデザインも、牙狼らしいといえばそのとおりなのですが、平安ものとしては……という印象があります。
(雷吼の普段のコスチュームなどはかなり良いのですが……)

 と、この辺りは野暮な時代もの好きのツッコミでしょう。最近の深夜アニメとしては比較的長めとなる2クールの間、本作で何が描かれるかは、素直に楽しみにしたいと思います。



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2015.10.10

熊谷敬太郎『華舫』 舫い合う船と船、結びつく人と人

 新河岸(川越)の回漕問屋・旭屋の船頭・平蔵は、隅田川で半死半生で漂っていた少女・おみつを救い、彼女を旭屋に伴う。同じ頃、川蒸気の路線を花川戸から新河岸まで引くという計画を持った男・川北が現れ、町の問屋から出資を募っていた。親方に戒められながらも、川蒸気に憧れる平蔵だが……

 川越は、小江戸と呼ばれ、今でも観光地として賑やかな土地ではありますが、時代ものとの関わりで言うと、領国としていた松平伊豆守や柳沢吉保、あるいは喜多院の春日局といった人々との関わりで言及されるのが大半という印象があります。
 本作はその川越――それも明治初期の――を舞台に、それも川越の水運業を中心とした視点から描かれる、ユニークな物語です。

 本作の中心人物の一人・平蔵は、元々は武士の家に生まれながらも、幕末の混乱の中で家族を全て失い、下新河岸の回漕問屋(いわゆる廻船問屋、船問屋)・旭屋で育てられた青年であります。
 そんな彼が、東京からの帰りに隅田川で出くわしたのは、半死半生で漂う美しい少女・おみつ。深川芸者だった彼女は、政府の役人と屋形船に乗った際、何者かに襲われ、川に飛び込んだのでした。

 行く当てもなく、平蔵に伴われて旭屋を訪れたおみつですが、実は旭屋の主・政兵衛は彼女を小さい頃から知る人物。彼女と共にいた役人が殺されたことを知った政兵衛は、彼女を店に匿うこととなります。

 このおみつを巡る事件が本作の横糸だとすれば、縦糸になるのは、川越に訪れた川蒸気(蒸気船)フィーバーです。
 おみつの事件とほぼ同じ頃、川越に現れた日本橋の通運会社の代表を名乗る洋装の男・川北と秘書の野島。彼らは、旭屋とはライバルの回漕問屋・綿貫の主に言葉巧みに取り入り、川越への川蒸気就航への投資を持ちかけたのであります。

 なるほど、時は陸蒸気が開通してまもない、頃。そして江戸の頃より、新河岸が、江戸との間の水運で栄えてきたことを思えば、川蒸気就航は時節に適った話ではあります。
 政兵衛は川北に疑いの目を向ける一方で、平蔵は新河岸に現れた川北の川蒸気・飛鳥丸に夢中。政兵衛に頭を下げて、飛鳥丸に乗り込むのですが……


 最初に述べたとおり、川越という舞台が特色の本作ですが、もう一つの特色は、水運の世界を題材としていることであることは間違いありません。
 江戸が水の街としての側面を持っていたことからもわかるように、江戸時代の重要な輸送手段だった水運。それは時代が変わり、明治となっても変わることなく……いや、蒸気機関という手段により、より力を増したとも言えましょう。

 本作はこれまであまり光の当てられてこなかった、しかし決してその存在を軽く見るべきでない題材を、上で述べた二つの事件を足がかりに描き出す物語と申せましょう。

 しかし本作の特色は、もう一つ存在します。それはこの舞台、この物語に登場する人々の織りなす人間模様、複雑に絡み合った因縁の糸であります。

 興を削がない程度に申し上げれば、本作に登場する人々は、政兵衛がおみつの幼い頃をよく知っていたように、その多くが、意外な結びつきをもっております。
 誰と誰が、どのように結びついているのか――それは裏返せば、その人物がこれまで送ってきた人生の現れ、縮図と言えるでしょう。

 人の人生と人生が思わぬところで関係し、物語を紡ぎ出す……本作のそんな性格は、正直なところ、人によっては偶然が過ぎると感じるかもしれません。
 しかし作者がその人々の結びつきの連鎖を敢えて描いていることは、本作の題名を見れば明らかでしょう。

 作中で語られているように、高野長英の門人・高野隆仙の書にある「華舫」という言葉。それは、本作においては政兵衛の座右の銘として――舫い合った船のように、結びつく人と人の関係を指すものとして語られるのですから……
 そしてその言葉が示すとおり、完全な悪人がほとんど登場しない本作においては、その人と人との結びつきが、何よりも心地よく感じられます。


 惹句にあるような歴史ミステリ(あとがきを読めば、それも決して間違いではないのですが)とはいささか印象が異なるかと思います、しかし爽やかで――そして本作ならではの味わいを持つ物語であることは間違いありません。


『華舫』(熊谷敬太郎 NHK出版) Amazon
華舫

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2015.10.09

『仮面の忍者赤影』 第3話「逆襲蟇法師」

 金目教を拒否する山村出身の老爺たちと出会い同行する青影と白影。だが村に現れた蟇に白影が敗れ、囚われの身に。一方、傀儡甚内を捕らえた赤影は、甚内と引き替えに白影を救出。蟇の襲撃に苦戦するものの、青影が弱点のしびれ草を燃やしたことで逆転、蟇が逃げ込んだ洞窟を三人は爆破するのだった。

 タイトルどおり蟇法師が再登場する今回、冒頭から金目教を信じようとしない山村を千年蟇の大暴れから始まります。

 その頃、三人で一見暢気に川下りしていた赤影一行ですが、そこに襲いかかるは傀儡甚内率いる下忍軍団。いきなり抱え大筒をぶっ放して舟を爆破しますが、もちろん三人に効くはずもなく、下忍たちを散々に倒してどこかに消えるのでした。

 うち、青影と白影は、件の山村出身の老爺と孫娘と出会い(甚内が老爺たちを問い詰めている間、影の中に隠れていた二人)、山村に同行することに。
 一方、無駄足を踏んで戻ってきた甚内を待ち構えていたのは赤影。大木を舞台に重力を無視した(要するにカメラを横にしているだけなのですがこれはこれで楽しい)決闘の末、甚内は赤影の金縛りに倒され、またもグルグル巻きにされて吊されるのでした。
(ここで甚内が余計なことをしないよう、ためらいもなく顎を外してしまう赤影は、正義の味方とはいえやはり忍者だと思います)

 さて、村を訪れた白影と青影ですが、その晩再び千年蟇が出現。老爺たちを助けて逃げる二人は近くの洞窟に逃げ込みますが、奥の水たまりには蟇の子供たちが……どうやらここは蟇法師による蟇の養殖場だった模様です。
 蟇法師に連れられて現れた千年蟇に対し、三人を逃がして単身立ち向かう白影ですが、狭い洞窟の中の戦いは逆に不利。あえなく気絶した白影は、囚われの身となるのでした。

 そして赤影のもとに届けられる、白影と甚内の人質交換を申し出る幻妖斎の手紙。もちろんあっさり交換させてくれるはずもなく、待ち伏せが仕掛けられているわけですが、あっさりと裏をかいて白影を救出し、二人は下忍を蹴散らすのですが、そこに現れたのは千年蟇と蟇法師であります。

 赤影が仮面の額の宝石に刀をかざして発射する光線(忍法流れ星)をさりげなく初めて繰り出すも通じず、圧倒的な蟇のパワーの前に窮地に陥る二人ですが、そこに駆けつけたのは青影(と老爺と孫娘)。
 老爺の言葉から、蟇の弱点がしびれ草と知った青影は、草を大量に集めていたのであります。ちょっと驚くくらいの分量の草に火をつけ、玉転がしの要領で転がせば、なるほど大いに苦しむ千年蟇。

 ここでこれまた初登場の赤影の飛騨忍法「影一文字」――刀を構えて一直線に大ジャンプした赤影の一撃は見事に蟇の左目に突き刺さり、さらに赤影と白影の渾身の一撃が足を貫きます。
 これはたまらんとあの洞窟に逃げ込んだ千年蟇と、その後を追う蟇法師……その姿が洞窟に消えるや、赤影たちが三人揃って爆薬を投げ込んだことにより洞窟は崩落、蟇法師も千年蟇も蟇の子供たちも――皆瓦礫の下に消えるのでした。


 というわけで、第1話に登場した蟇法師……というより千年蟇との決着編である今回。実はほとんどストーリー的には進展はなかったわけですが、赤影たち三人にそれぞれ見せ場もあり、それなりに楽しめる回でした。

 しかし蟇法師は(第1話でもそうでしたが)歌舞伎調のオーバーな台詞回しが実に楽しいキャラ。どこかユーモラスな所作の千年蟇ともども、物語のスタートを盛り上げてくれた名脇役であり、ここで退場となるのはいささか勿体なく感じます(……と思いきや、実はもう少し後の回に何となく再登場するのですが)。


<今回の忍者・怪忍獣>
蟇法師
 鳥のような音の笛で千年蟇を操る怪老人。千年蟇で赤影たちを襲い、あわやというところまで追い詰める。

千年蟇
 蟇法師の操る巨大な蟇。巨体と口からの炎、強靱な皮膚で赤影たちを苦しめるが、弱点のしびれ草の煙に苦しんだところに反撃を喰らい、最後は洞窟の中で生き埋めとなった。


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2015.10.08

玉井雪雄『ケダマメ』第4巻 そして「二人」の向かうべき「未来」

 一人の少女の血筋を守るため、時代を超えて現れ、戦う男・ケダマメを描く本作もついに最終巻。鎌倉時代での戦いを終え、次に描かれるのは昭和初期の玉の井での物語。そこで示される意外な真実を踏まえ、物語は最終章である近未来に繋がっていくこととなります。

 遺伝子の暴走により、人類と他の種との遺伝子の混淆が始まり、人類という種が危機に陥った未来。
 本作の主人公・ケダマメは、その状況を打開すべく、オリジン種と呼ばれる純粋な遺伝子を持ち帰るために過去に飛ぶ者たち――ゲノムハンターの一人であることが、これまでの物語で語られました。

 そして、鎌倉での戦いでオリジン種である少女・まゆを救ったケダマメの物語の次なる舞台は、昭和初期――戦前の私娼街・玉の井。そこで育った少女・まゆみを巡り、ケダマメと彼を先輩と呼ぶ男・サワダの対決が描かれることになります。
 かつて――江戸時代、やはりオリジン種を持つ一人の遊女を巡り、因縁持つケダマメとサワダ。ケダマメに復讐すべくまゆみに近づいた彼は、巧みにケダマメをおびき出すのですが……しかし、二人の対決は、思わぬ方向に転がっていくこととなります。

 ケダマメとの戦いの中でサワダが語る未来の真実――それはケダマメのこれまでの戦いを根底から覆すもの。
 そしてそれは同時に、彼が悠久の時の中で守ってきたオリジン種を持つ少女の存在の意味……すなわち、彼女たちが生きる意味をも百八十度反転させるものであります。

 それを知ってなお、ケダマメは戦えるのか。そもそも、彼は何のために戦うのか……それは、昭和編の次に語られる未来編にて描かれることとなります。
 21世紀も終わりに近づいた頃、未来の希望もなく、老いた祖母と妹を抱えて生きるまゆかの前に現れたケダマメ。彼が彼女に与えた選択肢とは……


 奇怪な能力を持つ時代活劇と見せつつ、その背後に人類の未来をかけた壮大かつ壮絶な物語を描き出して見せた本作。
 その掉尾を飾るこの第4巻のエピソードは、しかし、駆け足であった感は否めません。

 未来の真実と、それがケダマメにもたらすもの。そしてそれを踏まえてなおも強い意志を持って前に進もうとするケダマメの姿と、彼が守る少女たちの選択。そして最後の最後に暗示される、一種の巨大な運命の逆転とも言うべき真実――
 それら一つ一つが実に印象的かつ魅力的であるだけに、実際の作品では一種説明的に語られてしまうのが、残念でなりません。

 せめてあともう1巻分あれば、というのは素人考えではありますが、もう少しこの辺りを描くのに分量的な余裕が欲しかった……というのは、正直な気持ちであります。
(昭和編で言及される歴史上の事件との絡みも実に興味深いだけになおさら……)

 しかしそれでもなお、同時に、本作は描くべきものはギリギリまで描ききったという印象は確かにあります。

 人類という種のためという、マクロな大義名分のために行動しながら、いつしか一人の少女を生を守るという、ある意味極めてミクロな目的のために命を賭けるケダマメ。そして彼の想いを受けて、苦しく孤独な生の中で、己の存在する意味をを見つめ直す少女――
 その両者の運命の絡み合いの行き着く先を、本作は最後まで描いてみせたと感じるのです。

 あるいは当初はもっと別の時代を舞台とした物語が構想されていたかもしれません。特に(これは明確に描かれるべきかはわかりませんが)この巻で言及された現代を舞台とした物語は見てみたかったという気持ちは強くあります。
 それでもなお――「二人」の向かうべき「未来」を提示してみせた本作は、それなりに美しい結末を迎えたと、私は感じるのであります。


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2015.10.07

谷津矢車『曽呂利! 秀吉を手玉に取った男』 「善」に抗する者の名

 デビュー以来、ほとんど同じジャンルはないと言いたくなるほどバラエティに富んだ作品を発表してきた作者による本作は、タイトルから察せられるとおり、頓知で知られる曽呂利新左衛門を主人公とした物語。しかしこれまでの作者の作品とは少々異なるベクトルでひねりの入った、何とも奇怪な作品です。

 曽呂利新左衛門といえば、天下統一を成し遂げた頃の豊臣秀吉に御伽衆の一人。元は鞘師の出身で、作った鞘に刀を収めれば「そろり」と音も立てずに入ったことから曽呂利とも言われる人物であります。
 その才能は多岐にわたり、茶道や香道、和歌に通じていたとのことですが、何よりも優れていたのはそのユーモアに満ちた話術であり、晩年の気難しくなった秀吉と変わらず接することができたというだけでも、その腕の冴えが感じられます。

 もっともこれはあくまでも伝説に近いもの、何よりも彼の名が広まったのは講談の中で、機知に満ちたやりとりで権威権力を笑い飛ばす姿が、大衆の心を掴んだゆえと言えるでしょう。(私が以前読んだ講談本では、イヤミな権威主義の千利休をコテンコテンにやっつける役回りでした)

 さて、本作の曽呂利もまた、その曽呂利像から大きく変わるものではありません。いわば道化として自分を含めて周囲を笑い飛ばしながらも、時にヒヤリとさせるほど鋭い冴えを見せて(あくまでも自分は道化のままで)権力者を振り回し、やりこめてみせる……そんな曽呂利像が、お馴染みの逸話や人物とともに語られていくこととなります。
 ……表面上は。

 本作の曽呂利は、しかし道化の仮面の下に、悪魔の素顔を隠しているようにも感じられる人物。
 あくまでも本人は瓢げた言動を繰り返す中で、彼の、いや秀吉の周囲の人物――蜂須賀小六、千利休、石川五右衛門、豊臣秀次、石田三成らは、一歩一歩破滅へと歩んでいくのであります。

 彼らにしてみれば、それは、あくまでも自分たち自身の意志で行動していたものが、ふとした掛け違いがもとで思わぬ方向に進んでいったものであります。表面上は、曽呂利は彼らの周囲で普段通りに振る舞っているに過ぎません。
 しかし……冒頭と終盤に至るまで、ほとんど全くその心中を明かさずに語られる物語の中で、曽呂利は不気味な存在感を膨らませていくのであります。

 そしてそれと共に確実に傾き、奈落へと向かっていくのは、彼の仕える主たる豊臣秀吉自身の運命。
 晩年の秀吉が、それまでの英雄児ぶりとは打って変わった老醜を晒したのは歴史の示すところではありますが、あるいは彼の周囲にそれを止める、あるいは中和する人物がいれば、その後の歴史は全く変わったものとなっていたのではありますまいか。

 そして本作は中盤辺りから、石田三成と彼に密偵として仕える策伝(笑話集『醒睡笑』の編者であり、時に曽呂利と同一人物視される人物)が、豊臣家を崩壊に向かわせる犯人――いわば獅子身中の虫なのかを探る展開となっていきます。
 もちろん、その第一容疑者が曽呂利であることは間違いありませんが、しかしそれは彼自身の意志なのか。背後にさらに何者かが存在するのではないか。そして、獅子身中の虫の真の意図とは何なのか。二転三転する中でついに語られた曽呂利の真意とは……


 その真意は、あるいは曽呂利の出自を考えれば、ある程度までは想像できるものかもしれません。しかしその想いを支えたもの、そして何よりも、その想いを生み出したものの存在を考えれば、粛然とした想いを抱かざるを得ません。

 戦国という、誰もが明日の命の保証すらない時代。その殺伐とした時代を終え、多くの人々が平和に暮らせる泰平の世をもたらす――それは「善」と言うべき行いでしょう。
 しかしその「善」に代償があるとすれば、その代償を背負わされる者がいたとすれば。それに抗することは何と呼ぶべきでしょうか……?

 本作で描かれるのは、そんな善悪を超えた(あるいはその手前にある)問いかけであり……そして半ば必然的に、その答えは万人を納得させるものではなく、我々の心の中に小さな棘を残すのです。

 もちろんそれは、作者の計算の上のもの。
 そして、そのやり切れなさに、ついにそれを仕掛けた者自身が取り込まれる結末には、何とも言えぬもの悲しさと……同時に、どこか不思議な安堵感を与えられるのであります。


『曽呂利! 秀吉を手玉に取った男』(谷津矢車 実業之日本社) Amazon
曽呂利!

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2015.10.06

北崎拓『ますらお 秘本義経記 波弦、屋島』第1巻 もう一人の「義経」、もう一人のますらお登場

 『ますらお 秘本義経記』の19年ぶりの続編の単行本第1巻であります。本作で描かれるのは、そのサブタイトルにあるとおり、「屋島の合戦」。屋島の合戦といえば、有名なのは那須与一が扇の的を射落としたエピソードですが、本作に登場する与一の人物像とは……

 悲劇の英雄・源義経を、美しくも、巨大な歪みを内に抱えた若者として描く『ますらお』。19年前の本編では、彼の幼少期から、同族の木曾義仲との宇治川の合戦、さらに強敵・平知盛らとの一ノ谷の合戦までが描かれました。
 昨年刊行された『大姫哀想歌』は、義仲の子・義高と頼朝の子・大姫の悲恋を描く、番外編にして旧作と新作の間を繋ぐ性質の作品でしたが、本作は旧作の終了直後から開始される物語であります。

 一ノ谷の合戦で平氏を破り、そして静と再会した義経。気心の知れた仲間たちと最愛の人と――一時の安らぎを得たかに見えた義経ですが、彼の周りでは奥州の、平氏の、そして源氏内部の複雑な思惑が絡み合い、再び彼を戦いに誘うこととなります。

 かつての自分自身を思わせる義高が斬られたことを知り、虚無の淵に沈んだまま、憑かれたように平氏残党の蜂起(三日平氏の乱)の掃討に当たる義経。
 しかし、その義経の大将首を狙い、単身迫る武士の影が。その名は那須与一――そう、あの与一であります。


 実はこの巻の多くを費やして描かれるのは、この与一の物語。下野国の豪族・那須家の出身ということ以外不明なことが多い――というより実在すら証明されていない――与一を、本作は全く新しい姿で描き出します。

 人・動物を問わず、相手の心の在処と中身を知ることが出来る異形の右目を持ち、優れた弓矢の腕を持つ少年・捨丸。
 彼が出会ったのは、自らを「与一」と、男として生まれれば名乗っていた名で呼ぶ少女・日々子姫でありました。

 彼女に気に入られて、那須家に仕え、熊王丸の名を与えられた少年。成長する中で那須家最強の弓の使い手となった彼は、姫と淡い想いを抱き合うのですが……しかし(半ば予想通りと申しましょうか)二人は悲劇的な形で引き裂かれることとなります。

 那須家の養子になった熊王丸に対し、自らの「与一」の名を与えて去る姫。そして那須家の縁で平氏方に参陣し、武士として「与一」の名を挙げんとする与一――その彼が狙ったのが、義経だったのであります。


 以前私は、旧作の紹介をした際に、本作は歴史の流れにより運命を狂わされた者たち――「義経」たちを描いた物語であり、そして彼らこそが「ますらお」なのだと述べました。
 その伝でいけば、本作における那須与一は、まさしくもう一人の「義経」であり、「ますらお」であると申せましょう。

 その「義経」と「義経」との対決の行方は、そして与一がいかなる想いを胸に、この先の合戦に参加するのか……本作ならではの人物像、物語展開には唸らされるばかりなのであります。
(ちなみに那須与一が射た扇は、平家の女房が持ったものでしたが、この巻の裏表紙を見れば、それは……)


 なお、義経ものではほとんどの場合、奸佞な悪役として描かれる梶原景時ですが、この巻においては、「むしろ常軌を逸した天才である義経の本質とその危険性を本質的に見抜く人物として描かれているのが面白い。
 あるいは「ますらお」に対する常人サイドの人物として描かれるのか……こちらも気になるところです。


『ますらお 秘本義経記 波弦、屋島』第1巻(北崎拓 少年画報社YKコミックス) Amazon
ますらお 秘本義経記 波弦、屋島 1巻 (コミック(YKコミックス))


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2015.10.05

『コンクリート・レボルティオ 超人幻想』 第1話「東京の魔女」

 超人たちが活動する神化41年、喫茶店でウェイトレスとして働く魔女っ子・星野輝子の前に、「超人課」の青年・人吉爾朗が現れる。彼に頼まれ、店で行われるある取引を妨害する輝子だが、客の一人がS遊星人の正体を現す。さらに正義の巨大超人グロスオーゲンまでもが出現、超人同士の戦いが始まる……

 先日紹介した小説『超人幻想 神化三六年』と世界観を一にする……というよりこちらが本編と言うべきアニメ『コンクリート・レボルティオ 超人幻想』がスタートしました。
 舞台となるのは様々なタイプの超人たちが実際に存在する「神化」40年代の日本――すなわちパラレルワールドの物語。
 しかしそこで描かれるのは、あくまでも現実の、なかんずく「昭和」という時代の合わせ鏡……というのは以前『神化三六年』の雑誌掲載時の紹介で述べましたが、それゆえこのブログでも本作を紹介させていただく次第です。

 さて、その第1話である今回ですが、内容的にはかなり盛りだくさんな印象。
 レギュラーキャラ(特に爾朗と輝子)と基本設定の紹介、地球侵略を狙うS遊星人の陰謀、巨大超人グロスオーゲンの謎、今後の物語全体に通じる謎の提示……と、ざっとこれほどの要素が投入されているわけですが、それを1話の30分弱の中に綺麗に収めて提示されるのは、これはさすがというべきでしょう。

 もっとも、見ようによっては一点目――特に本作ならではの特異な世界観の提示は、特に言葉にして描かれることはほぼなく、あっさり目に見えるかもしれません。
 しかし、例えば「様々な超人たちが存在する世界」という点では、今回だけで巨大宇宙人二種、魔女っ子、妖怪変化、変形ロボと盛りだくさん。さらにそれらが「現実」の街中に出現しても、さまで驚くわけではない人々の姿に、世界観は如実に現れていると言えるでしょう。

 そしてもう一つの「昭和」と言うべき神化の世界観については、時折、昭和生まれの私にとっては懐かしいランドマーク――今回で言えば渋谷五島のプラネタリウム――や、当時の流行曲をさらりと出すことで提示。
 全体的なビジュアルは非常にポップな印象を受ける本作ですが、それがノスタルジーをいい意味で中和して、近過去、かつてあったかもしれない過去をうまくビジュアライズしていたと感じます。

 そして物語の方は、鳥人的フォルムの巨大ヒーロー・グロスオーゲンと、人間に化けてある意図を秘め科学者に接近するS遊星人との対決がメインとなるのですが、これが物語展開や動き、BGMまで含めて、実に「らしい」内容となっているのが楽しい。
(かのウルトラマンが、企画段階ではより怪物めいた、鳥人的デザインであったことをご存じな方も多いと思います)

 そこに魔女っ子たる輝子や、爾朗が操る変形ロボ・エクウス(このメカだけあまりに未来的なデザインなのは少々違和感は感じますが)が乱入してのアクションも本作ならではのものではありますが、しかしそこからさらに、本作ならではの一捻りが待っています。

 主人公たる爾朗が属する政府機関「超人課」。その任務は、正義の超人を助けて悪の超人を倒す――今回のグロスオーゲンとS遊星人のように――のではなく、超人の確保と保護となります。
 それでは爾朗が保護する相手は、というのが今回のキモかと思いますが、正直なところ、いきなり最終回的な展開に驚かされつつも、そこに爾朗なりの超人への、正義への想いが透けて見える……というのは考えすぎでしょうか。

 そしてもう一つ最大の捻りは、本作が、少なくとも今回は、二つの時制を行き来して物語が描かれることでしょう。メインとなるのは、爾朗と輝子が出会った神化41年――しかしそれと並行して描かれるのは、その5年後、神化46年の二人の姿であります。

 5年間のうちに二人に、爾朗に何があったのか……ある意味結末を先に見せての物語は、我々視聴者に、一定の着地点を見せて一種の安心感のようなものを与えつつ、「そこ」に至るまでの経緯で興味を大いにそそるもの。
 本作のような何が飛び出してくるかわからない物語においては、このスタイルは、なるほど想像以上に似合うように思います。

 個人的にはこの未来はある程度想像がつくものではありましたが、しかし先に述べたとおり、爾朗の心に超人への、正義への想いが生き続けていることを思えば、それまでの経緯が大いに気になるところ。
 これからいかなる超人を、超人が存在する世界を、そしてそれを通じた「現実」像が描かれるのか、期待しましょう。


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2015.10.04

犬飼六岐『鷹ノ目』 戦国デッド・オア・アライブ 己の道を行く

 信長と足利義昭の対立が決定的となった頃、お尋ね者にかけられた勧賞(賞金)目当てに各地を旅する流れ者たちがいた。その一人・渡辺条四郎は、短弓を扱わせれば右に出る者がいない凄腕、人呼んで「鷹ノ目」――故あって賞金稼ぎとなった彼は、おかしな痩せ馬を相棒に、今日も旅を続ける。

 次々とユニークな時代小説を発表してきた作者の最新作は、これまた実にユニークな連作短編集。
 第1話のタイトル「生死を問わず」、すなわちデッド・オア・アライブを見れば察しがつくように、本作の題材は賞金稼ぎなのであります。

 賞金稼ぎという職業が果たして過去の日本においてどれだけポピュラーなものであったかはわかりませんが、誰かが誰かに対して賞金をかけるという行為が古今東西を問わずあったであろうことを考えれば、いつの時代にいたとしてもあまり不思議はないのかもしれません。
 時代ものにおいても『無用ノ介』を筆頭に、賞金稼ぎものはいくつか存在しますが……本作はそんな中でも舞台設定の妙と、独特の空気感が印象的な作品であります。

 本作の舞台は、足利義昭による信長包囲網が、武田信玄の突然の死によって瓦解し、信長の報復により京が焼かれた頃……天下の趨勢は信長に向かいつつも、まだ歴史の渦中にある人間にとっては、先行きは不透明だった時代。
 そんな殺伐とした時代においては、武士のみならず寺院や町民、農民も、自分たちの生活を守るために苛烈な手段に出るのが自然であり――そしてそこから逃亡した者を追い、捕らえるのが本作の主人公・渡辺条四郎をはじめとする賞金稼ぎなのです。

 その条四郎、姓を見ると察せられるように、かの英雄・渡辺綱の血を引く男。綱以来、名が代々一文字であることから「一文字の輩」と呼ばれる名家の出身であります。
 しかし分家の、それも長男ではないとはいえ条四郎が、何故家を離れ、賞金稼ぎなどという危険な稼業に身を投じているのか……

 本作は、徐々に明かされていく条四郎の旅の目的を縦糸に、彼が各地で出会う様々な事件を横糸に、全七話で構成された物語。
 賞金稼ぎといえば、どうしても殺伐とした、ハードボイルドな世界を想像させますが、どこか人の良い条四郎と、彼の旅の相棒となる、気儘な上に降りて歩いた方が早いような足取りの痩せ馬のキャラクターが面白く、どこかすっとぼけた空気を感じさせるのがなかなかに楽しいのであります。


 そして本作ならではの独自性は、舞台が戦国時代である点でしょう。
 江戸時代に比べれば司法制度に穴が大きい――というより全国共通の法があるわけでもなく――この時代は、考えてみれば賞金稼ぎが活躍する余地が大きいとも言えますが、面白いのはそれだけではありません。

 戦国時代も後半戦とはいえ、農民と武士の境目もまだ曖昧だった――というより、農民もそれなりの武装を行っていた――時代。そんな中で旅をするのは、賞金稼ぎの側にとっても危険が数多く存在していたと言えましょう。
 事実、条四郎は旅の中で幾度も農民相手に取り巻かれてピンチに……という場面が幾度も登場するのですが、そんな一筋ではいかないシチュエーションが設定できるのは、この時代ならではであります。

 もっとも、その分、時代が時代だけに期待される戦国武将の出番は少な目になっているという面はあり、それを不満に思う向きもいらっしゃるかとは思いますが、むしろこの多様性こそに、本作の魅力があると、私は感じます。

 ただし、雑誌連載の短編ゆえか、各話の後味があっさり目なところが、時に物足りなく思われるところではありますが……


 さて、本作のラストでひとまずの目的を果たした条四郎ではありますが、まだまだ旅を終えるわけにはいかないようにも感じられます。
 武士も農民も、それぞれの形で懸命に生き、戦っていたこの時代――その中をただ一人(と一匹)、武士も農民も関係なしに己の道を行くヒーローというのは実に魅力的であり、彼の旅はまだまだ続いてほしいと感じるのです。


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鷹ノ目

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2015.10.03

谷津矢車『ふたり十兵衛 柳生剣法帖』 唯一無二の複数十兵衛!

 将軍から勘気を被り、小田原で謹慎中の柳生十兵衛。剣を手にすることもなく日がな読書ばかりの十兵衛に対し、小田原城主・阿部備中守は、城下の不逞浪人の調査を依頼。やむなく、隻眼で剣の達人の従者・一兵衛と探索を始めた十兵衛の前に現れたのは、奇怪な武器を操る剣士たちだった……

 二ヶ月連続で角川文庫から刊行された谷津矢車の書き下ろし時代小説。その第一弾『からくり同心 景』は先日紹介しましたが、続く本作は、ある意味より破格の作品。何しろあの柳生十兵衛が、まったく刀を握らない、握れないのですから……

 そもそも本作のタイトルは『ふたり十兵衛』。タイトルだけ見れば、柳生十兵衛二人(複数人)説を扱った作品に見えます。

 十兵衛複数人説は、要するにあの十兵衛に、影武者や替え玉がいた……という話ですが、実はフィクションの世界ではもの凄く珍しいというわけではない題材ではあります。
 おそらくは、隻眼で諸国を漫遊した剣士という虚構の十兵衛と、特に隻眼という記録もない史実の十兵衛のギャップを埋めるために生まれた説かと思いますが、十兵衛が隠密として活動する上で、より目立つ隻眼の替え玉を作っていた……というのは、過去の作品にも散見される趣向ではあります。

 しかし、そうした作品と本作がはっきり異なるのは、本作の十兵衛本人は、麒麟児と言われた過去はどこへやら、今は剣を手放し、眼鏡姿のちょっと俺様入った読書男子として暮らす毎日なのであります。
 そしてその十兵衛に代わって剣を振るうは、十兵衛の従者にして乳兄弟、筋骨隆々の剣の達人にして隻眼の青年・速水一兵衛――

 本作は、真の(?)、しかし剣はからっきしの十兵衛と、ビジュアルは従来の十兵衛のイメージそのままの一兵衛(とあと一人)が、小田原藩で何やら不穏な動きを見せる謎の一団と死闘を繰り広げる物語。
 小田原ということで、気付く方はすぐに気付くかとは思いますが、しかし「彼ら」に留まらず、二人の前に立ちふさがるのは謎の○○○剣法(しかも宗矩の代からの因縁つき!)なのも、伝奇ファン、剣豪ものファンにはたまらないのであります。


 かくて繰り広げられる、様々な剣法武術、権謀術数入り乱れての大活劇ですが……忘れてはならないのは、その活劇のの舞台となる時代のことでしょう。
 時はすでに三代将軍家光の治世、天下は既に泰平となり、小田原城主の阿部備中守のような戦場往来の荒武者は過去の存在となりつつある時代……いわば剣よりも政が(語呂を合わせれば権が)ものを言う時代なのであります。

 そんな時代において、いち早く時代の流れを見切り、剣から権へと身の置き所を変えたのが柳生宗矩以下の一門でありますが、しかしもちろん、そう割り切れるものたちばかりではありません。
 本作で十兵衛と一兵衛の前に立ちふさがるのは、そんな時代の趨勢に逆らい、なおも剣にしがみつく者たちなのであります。

 ……が、それでは十兵衛と一兵衛は剣と権、どちらを取るのか? 特に、実際に剣を取って戦う一兵衛は格別、剣を持たぬ十兵衛は?
 その彼らの選択は、本作の結末で示されることになりますが、その根底に、本作ならではのふたり十兵衛像があることは間違いありません。

 幼い頃から共に剣の腕を磨きながら、過去のある事件がもとで隻眼という大きなハンデを負った一兵衛。それと同時に十兵衛は剣を手放すのですが――しかし彼は剣を捨てたわけではありません。
 彼の目は、頭脳は、一兵衛のそれを補い、いわば二人で一人の十兵衛としてともに戦うのですから。


 そう、本作は二人の十兵衛ではなく、二人で一人の十兵衛を描く物語。そこにこそ本作の独自性と魅力があるのです。
 柳生十兵衛を描く作品が無数に、十兵衛複数人説を説く作品もいくつかある中で、唯一無二の二人十兵衛――これは先を楽しみにするなというのが無理でありましょう。

(ただ、うるさいことを言えば、この展開であれば味方サイドはこの二人だけで良かったのではないか……という気はするのですが)


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柳生剣法帖 ふたり十兵衛 (角川文庫)

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2015.10.02

『仮面の忍者赤影』 第2話「甲賀の悪童子」

 信長からの使者に化けて藤吉郎暗殺を狙う傀儡甚内。青影の活躍で甚内を追い詰めるが、悪童子の登場で逆に青影が捕らえられてしまう。青影を救うため、湖上に仕掛けられた罠の中に飛び込む赤影だが、大凧で宙を舞う悪童子に苦戦。しかしそこに駆けつけた白影が空中戦の末、悪童子を倒すのだった。

 横山城の藤吉郎のもとに向かう信長の使者の前に突如現れた竜巻。それに巻き込まれて意識を失った使者の前に現れたのは、怪しげな黒い紗(というかストッキング的なもの)を被った黒装束の男・傀儡甚内であります。

 念力なのか、身振りだけで刀を奪い取り、使者を打ち据えると、使者の顔を地面に押しつけ、今度は自分の顔を押しつける甚内。そして何と自分の顔の周りに小刀で切れ目を入れるとベリリと剥いで……その下から現れたのは使者の顔。これぞ忍法顔盗み!
 まんまと甚内は使者として横山城に潜入するのですが……しかし本物を生かしておいたため、その場を通りかかった青影に助けられてしまったのは間抜けであります。

 一方、城に潜入した甚内は、夜中に起き出して懐から出した数本の木の棒(?)に念を送ると……奇怪な黒覆面の怪人に変身。この忍法傀儡変化で城内を攪乱すると、寝所に忍び込んだ甚内は、寝ている藤吉郎刀をブスリ!
 と思いきや、そこにいたのは身代わりを務めていた青影。本物の使者と対峙し、この期に及んで自分が本物と白を切る甚内ですが、藤吉郎を殺しかけておいてそれはありません。

 結局、傀儡を皆蹴散らした青影に追い詰められ、外に飛び出そうとしたところを鎖で宙づりにされるのですが……助けを呼ぶ甚内の声に応えるように空から響く怪音。上から降ってきたビニール膜のようなものに囚われた青影は、そのまま宙に消えるのでした。

 その翌日か、編み笠姿で旅をしていた赤影に襲いかかるのは、旅の娘を装って彼と共に旅をしていた闇姫と甚内。ぱっとその場から消えた赤影に右往左往する二人を前に「さよう、お目当ての赤影が現れてはご迷惑かな」と呵々大笑する赤影は実に颯爽として格好良いのですが、七人衆も負けてはいません。
 連獅子の如く黒髪を振り回すことで嵐を、竜巻を引き起こす忍法髪あらしの前には、さすがの赤影も意識を失うのでした。

 と、赤影が目を覚ませば、そこは湖のほとり。そして湖上では、爆弾とともに小舟に乗せられた青影の姿が……もちろん見捨ててはおけぬと、小舟と陸に綱を張り、綱渡りの要領で小舟に向かう赤影。
 水中から飛び出してくる下忍たちは次々と叩き斬っていく赤影ですが、しかしその時ローター音とともに(!)空中から現れたのは、大凧に乗った怪人・悪童子であります。

 アヒャヒャともウホホともつかぬ奇声とともに上空から火矢を降らし、油でも撒いてあったか湖面を炎に包む悪童子。さすがの赤影も上空からの攻撃には手が出せず、赤影と青影の命も風前の灯火……というその時!
 高らかなサイレン音(?)とともに流れる主題歌3番に乗って登場したのは、第三の影、白影! 白の大凧に乗って駆けつけた白影は、爆薬で湖面の炎を消し飛ばすと、悪童子の火矢に凧を焼かれつつも果敢に突撃、叩き落とされた凧もろとも悪童子は爆死、赤影は無事青影を助け出したのでありました。


 というわけで、クライマックスに派手な登場を飾った白影が印象に残ると同時に、それとともに、いよいよ派手な忍法合戦が繰り広げられるのが楽しい今回。特に甚内の顔盗みは、ある意味定番の忍法をビジュアルできっちり見せてくれたのが嬉しいところです。
 その一方で甚内を圧倒した青影の活躍も印象的で、単なるマスコットキャラではない、チームの一員であることを描いてくれているのが嬉しいのであります。


<今回の忍者>
傀儡甚内
 黒い覆面で顔を覆った霞谷七人衆の一人。相手と同じ顔に変じる顔盗み、黒装束の傀儡を操る傀儡変化などの忍法を使い、念力めいた技も操る。

傀儡変化
 甚内の忍法傀儡変化によって木の棒から生み出された等身大の傀儡。人形らしくぎこちない動きで歩き回る。

闇姫
 霞谷七人衆の紅一点。長い髪を振り乱し竜巻を起こす忍法髪あらしの遣い手。

悪童子
 西洋道化師の服を着たカッパのような姿の霞谷七人衆。ほとんど言葉を喋らず、奇声を発する。宙を舞う大凧からの攻撃を行うが、白影に敗れて墜落、七人衆最初の死者となった。


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2015.10.01

『絵でみる江戸の妖怪図巻』 ある意味オーバースペックながら楽しい一冊

 最近、文庫やペーパーバック等で妖怪のガイドブックをよく見かけます。妖怪好きとしては大いに気になりつつ、なかなかチェックできずにいたのですが、「時代小説のお供に」と銘打たれていたら見逃すわけにはいきません。そして手に取ってみれば、これがなかなかにユニークかつ充実の内容であります。

 「時代小説のお供に」シリーズは、廣済堂が新書サイズで刊行しているガイドブックシリーズ。
 これまで『イラスト・図説でよくわかる江戸の用語辞典』『絵でみる江戸の町とくらし図鑑』『絵でみる江戸の人物事典』『絵でみる江戸の女子図鑑』となど刊行されてきたところで、今回、妖怪が登場ということになります。

 さてその本書ですが……これまで妖怪時代小説についてはかなり読んできた私の立場から申し上げさせていただければ、これはいい意味でオーバースペックの一冊。
 ここまでの知識を必要とさせる妖怪時代小説はほとんどまったく存在しないと申しましょうか……つまり言い換えれば、本書がそれだけ充実した内容ということであります。

 本書に収録されているのは、妖怪1237種・異名384種。ページ数は三百数十ページですので、一項目辺りはかなり小さいのですが、とにかく数を盛り込もうというその意気や良し。
 特に、亜種(とここでは便宜上申し上げますが)が多い妖怪――小豆洗い、天邪鬼、海坊主、鬼、怪火、河童、木魅、座敷童、天狗、人魚、化け狐、化け狸、化け猫、船幽霊、蛇・龍などは、それらを一カ所にまとめて掲載しているのも、楽しいの嬉しいのです。

 そのほか、本州だけでなく、アイヌ伝承や琉球の妖怪にかなりの項目数を割いているのも、個人的にはありがたいところでした。

 しかし本書の最大の特徴は、ほとんど全項目に付されたイラストでしょう。全てカラーなのには驚かされますが、どこか緩さを感じさせるテイストが実にいい。

 元々は「概念」に名前を与えることによって生まれた存在が多くの妖怪の発祥かと思いますが、そこにビジュアルを与えたことで、一種のキャラクター化が為され、大いに普及することになったことは言うまでもありません。
 それを思えば、妖怪本にビジュアルは必要不可欠な要素ですが、その点でも本書は十分魅力的と感じます。


 もっとも、本書をはじめとする妖怪ガイドブックは、同じような底本を参考にしていることがほとんど。本書の解説やイラストも、正直に申し上げれば、どこかで見たものが大半ではあります。
 その意味では、妖怪マニアの方には不満が残るかとは思いますが、とっかかりとしては、なかなか面白い一冊ではないかと思います。

 ただ個人的に勿体ないと思ったのは、「時代小説のお供に」と謳いつつ、具体的に時代小説に絡めた解説記事等がなかったことでしょうか。
 もちろんあくまでも本書は時代小説の参考に妖怪を紹介する本であって、時代小説そのものを紹介するコンセプトではない、ということかと思いますが、類書へのアドバンテージになる要素にもなったのではないかな、とは感じました。
(妖怪基本用語集や江戸時代の国境といった企画ページはそれなりに面白かっただけに……)


『絵でみる江戸の妖怪図巻』(善養寺ススム 廣済堂出版) Amazon
絵でみる 江戸の妖怪図巻

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