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2015.10.20

岡田秀文『海妖丸事件』 今回も揺さぶられるミステリの前提

 上海に出張することとなった杉山は、親友の探偵・月輪龍太郎が、助手の氷川蘭子との新婚旅行で、偶然同じ豪華客船「海妖丸」に乗ることを知る。しかし横浜港の待合室には殺人をほのめかす予告状が届き、果たしてその晩の仮面舞踏会の直後、殺人事件が。さらに次々と起こる怪事件に月輪の推理は……

 大日本帝国憲法制定直前に起きた密室殺人事件を描く『伊藤博文邸の怪事件』、山縣有朋の金庫番の惨殺を皮切りにおぞましい連続殺人が続く『黒龍荘の惨劇』に続く、名探偵月輪シリーズの第3弾であります。

 黒龍荘事件の無惨な幕切れに、もう探偵はこりごりと本業である役所の仕事に打ち込む語り手の杉山。上海に出張することになった彼は、いかなる手違いか、自分が乗るのが豪華客船「海妖丸」の一等客室であることを知るのですが……しかもそこには月輪の姿が。 何と助手の才媛・氷川蘭子と結婚したという彼は、新婚旅行で同じ海妖丸の一等に乗るというではありませんか。

 しかし横浜港の一等客室専用の待合室で、政商たちの殺害を予告する奇怪な予告状が見つかり、その晩の仮面舞踏会の直後、客の一人の実業家が自室で殺害されているのが発見されることに。
 新婚旅行にもかかわらず、蘭子と大喧嘩の挙げ句杉山の客室に転がり込んでいた月輪は、早速調杉山をお供に捜査を開始しますが、しかし決め手はないまま、船は次の寄港地である神戸へ……

 神戸から乗船してきた刑事という思わぬライバルの出現に燃える月輪ですが、しかしさらに船内では宝石の盗難事件をはじめ、次々と事件が発生。そして上海到着を目前とした晩、衆人環視のもとに最後の事件が……


 毎回、驚天動地のトリックで驚かせてくれる本シリーズ、前2作はいわば密室もの、館ものでしたが、今回は密室もの……というよりクローズド・サークルものと言うべき内容であります。
(それも完全な孤立状態ではなく、横浜から上海までの間に、神戸・長崎と途中に寄港地があるのがまた面白いのです)

 しかし物語から受けるのは、特に前作に比較するとだいぶ異なり、一言で言えば「端正なミステリ」という印象。派手さはなく、むしろ古典的な本格ミステリを、丁寧に、丹念に描写を積み重ねて描き出している印象があります。

 その一方で、このシリーズらしい奇想ももちろん用意されているのは言うまでもありません。
 内容が内容ゆえ、はっきりとここで申し上げることはできないのですが、前2作に共通する、「ミステリが成立する上で当然普遍・不変のものとして存在する前提」を敢えて揺さぶってみせるというギミックは、本作でも健在……とだけは申し上げても良いでしょう。(そしてそれがこのクローズド・サークルにぴったりと嵌まるのが……というのはさすがに言いすぎかな)


 しかし、そんな本作ならではの面白さがある一方で、終盤に明かされるあるトリックは、あまりにも無理がある――どころか、本作の前提を悪い意味で破壊しかねない――のは本当に残念なところであります。

 また、これは前作にも感じたところですが、明治を舞台とする必然性が(舞台設定に必要となるテクノロジーレベルの点以外では)薄いのも、個人的には気になったところではあります。
 とくにこの点については、作者がデビュー以来、『太閤暗殺』『秀頼、西へ』等、優れた歴史ミステリを発表しているだけにどうしても期待してしまうのですが……

 と、最後の最後で点が辛くなりましたが、語り手のみならず読者まで深刻な精神的ダメージを与えた前作とはうって変わった読後感も良く、安心して読めるミステリであることは間違いない本作。
 やはり次回作にも大いに期待してしまうのであります。


『海妖丸事件』(岡田秀文 光文社) Amazon
海妖丸事件


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