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2015.10.04

犬飼六岐『鷹ノ目』 戦国デッド・オア・アライブ 己の道を行く

 信長と足利義昭の対立が決定的となった頃、お尋ね者にかけられた勧賞(賞金)目当てに各地を旅する流れ者たちがいた。その一人・渡辺条四郎は、短弓を扱わせれば右に出る者がいない凄腕、人呼んで「鷹ノ目」――故あって賞金稼ぎとなった彼は、おかしな痩せ馬を相棒に、今日も旅を続ける。

 次々とユニークな時代小説を発表してきた作者の最新作は、これまた実にユニークな連作短編集。
 第1話のタイトル「生死を問わず」、すなわちデッド・オア・アライブを見れば察しがつくように、本作の題材は賞金稼ぎなのであります。

 賞金稼ぎという職業が果たして過去の日本においてどれだけポピュラーなものであったかはわかりませんが、誰かが誰かに対して賞金をかけるという行為が古今東西を問わずあったであろうことを考えれば、いつの時代にいたとしてもあまり不思議はないのかもしれません。
 時代ものにおいても『無用ノ介』を筆頭に、賞金稼ぎものはいくつか存在しますが……本作はそんな中でも舞台設定の妙と、独特の空気感が印象的な作品であります。

 本作の舞台は、足利義昭による信長包囲網が、武田信玄の突然の死によって瓦解し、信長の報復により京が焼かれた頃……天下の趨勢は信長に向かいつつも、まだ歴史の渦中にある人間にとっては、先行きは不透明だった時代。
 そんな殺伐とした時代においては、武士のみならず寺院や町民、農民も、自分たちの生活を守るために苛烈な手段に出るのが自然であり――そしてそこから逃亡した者を追い、捕らえるのが本作の主人公・渡辺条四郎をはじめとする賞金稼ぎなのです。

 その条四郎、姓を見ると察せられるように、かの英雄・渡辺綱の血を引く男。綱以来、名が代々一文字であることから「一文字の輩」と呼ばれる名家の出身であります。
 しかし分家の、それも長男ではないとはいえ条四郎が、何故家を離れ、賞金稼ぎなどという危険な稼業に身を投じているのか……

 本作は、徐々に明かされていく条四郎の旅の目的を縦糸に、彼が各地で出会う様々な事件を横糸に、全七話で構成された物語。
 賞金稼ぎといえば、どうしても殺伐とした、ハードボイルドな世界を想像させますが、どこか人の良い条四郎と、彼の旅の相棒となる、気儘な上に降りて歩いた方が早いような足取りの痩せ馬のキャラクターが面白く、どこかすっとぼけた空気を感じさせるのがなかなかに楽しいのであります。


 そして本作ならではの独自性は、舞台が戦国時代である点でしょう。
 江戸時代に比べれば司法制度に穴が大きい――というより全国共通の法があるわけでもなく――この時代は、考えてみれば賞金稼ぎが活躍する余地が大きいとも言えますが、面白いのはそれだけではありません。

 戦国時代も後半戦とはいえ、農民と武士の境目もまだ曖昧だった――というより、農民もそれなりの武装を行っていた――時代。そんな中で旅をするのは、賞金稼ぎの側にとっても危険が数多く存在していたと言えましょう。
 事実、条四郎は旅の中で幾度も農民相手に取り巻かれてピンチに……という場面が幾度も登場するのですが、そんな一筋ではいかないシチュエーションが設定できるのは、この時代ならではであります。

 もっとも、その分、時代が時代だけに期待される戦国武将の出番は少な目になっているという面はあり、それを不満に思う向きもいらっしゃるかとは思いますが、むしろこの多様性こそに、本作の魅力があると、私は感じます。

 ただし、雑誌連載の短編ゆえか、各話の後味があっさり目なところが、時に物足りなく思われるところではありますが……


 さて、本作のラストでひとまずの目的を果たした条四郎ではありますが、まだまだ旅を終えるわけにはいかないようにも感じられます。
 武士も農民も、それぞれの形で懸命に生き、戦っていたこの時代――その中をただ一人(と一匹)、武士も農民も関係なしに己の道を行くヒーローというのは実に魅力的であり、彼の旅はまだまだ続いてほしいと感じるのです。


『鷹ノ目』(犬飼六岐 文藝春秋) Amazon
鷹ノ目

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