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2015.10.15

蒲原二郎『真紅の人』 「人」たることを謳い上げた者たち

 鳶田の貧人村で育った佐助は、実はとある武将の忘れ形見だった。大坂の陣直前のある日、真田信繁の老臣・久蔵を救った彼は、それが縁で大坂城に入る。真田組に配属され、真田丸で父の仇・徳川軍を相手に奮戦する佐助は、ついに武士として名乗りを上げるのだが……

 『オカルトゼネコン富田林組』でデビューした作者が心機一転して発表した初の歴史小説であります。
 舞台となるのは大坂冬の陣、夏の陣。そして主人公は真田信繁の下で戦う少年・佐助……とくれば、ははあ、と早呑み込みしたくなりますが、さにあらず、幾つものの捻りと独創性に満ちた作品であります。

 関ヶ原の合戦で敗れて斬首されたさる武将の子として生まれ、徳川方についた叔父により、幼い頃に母を初めとする血縁者を皆殺しにされ、自らは辛くも逃げ延びた佐助。
 流れ流れて貧人村で死体の片付けなどで日銭を得ていた彼の運命は、ある晩、ならず者に襲われていた老人を助けたことで一変します。

 その老人こそは、真田信繁が幼い頃から傅育していた鉄砲の名人・掛居久蔵。それが縁で真田大助とも面識を得た佐助は、親友の少年・権太や村で読み書きを教えてくれた巨漢の僧・隆海とともに大坂城に入城することになります。
 さしたる武功もないことから、周囲の武将や配下からも低く見られていた信繁の軍、その中でも貧人出身ということでさらに低く見られていた佐助たちですが、冬の陣での真田丸での活躍で一転して周囲から一目置かれる存在となります。

 同じ久蔵の下に配属されたお調子者の富作や紀州の鉄砲組たちと親交を深めた佐助は、初陣でも活躍し、ついに武士として父の姓を名乗るのですが――しかし、情勢は真田組のみの活躍では覆せないほどに悪化。
 そして佐助も戦場の悲惨さを、これ以上はない残酷な形で突きつけられることに……


 ある意味戦国ものとしては鉄板の題材である――次の大河ドラマの題材ということもあり――大坂の陣における真田家の戦い。
 本作はその意味では題材の新味は薄いと言えるかもしれませんが、しかし時に過ぎるほどの丹念な史実描写と、何よりも新鮮かつ魅力的なキャラクターたちの造形で、なかなかに読ませる作品であります。

 もちろん、そのキャラクターたちの中心にいるのが佐助であることは言うまでもありません。
 冒頭に述べたとおり、真田もので佐助と言ったら……という定番を敢えて避け、さらに一種のダブルミーニングであるその名の設定も面白いのですが、一見清冽な若侍でありつつも、その中に清く純な部分と暗く濁った部分を共に抱えたキャラクターは、定番に一ひねり加えた感があって面白い。

 そして彼の周囲の人物の造形もさらにいい。どこまでも純朴な、それだけに大きな迷いを抱えた権太、佐助たちを時に暖かく時に厳しく見つめながらも、自身も暗く重い過去を背負う隆海、軽薄かつ脳天気な言動で、重い物語に明るい空気をもたらす富作……
 さらに、才気を内に秘めながらもどうにも貫禄がない(さらにつまらないギャグを連発する)信繁、低い身分の出ながら、その信繁とは固い絆で結ばれた久蔵など、登場人物それぞれのキャラクターが明確であるのは、本作のリーダビリティを大きく高めていると言えましょう。
(ちなみの本作ではほぼ一貫して「信繁」表記が用いられますが、では幸村はといえば、これが意外なところで登場するのもいい)

 しかし何よりも本作の魅力は、彼らが単に戦いに狂う阿修羅ではなく、あくまでも一人一人が喜怒哀楽を持った人間であることです。

 佐助と、彼らの周囲の人々に共通するもの……それは、いずれも重く悲しい過去を背負い、それに躓いたがために、周囲から一段低く見られ、蔑まれてきたことであります。
 そんな彼らが、戦いの中で自分たち自身を取り戻し、自分たちがあくまでも「人」であることを強く謳い上げる姿。それこそが本作の描く「真紅の人」であり、本作最大の魅力でありましょう。


 初めての歴史小説であるためか、史実に関する書き込みが過剰と感じられる点、キャラクターの主義主張がほとんど台詞でもって語られる点等、正直に申し上げて苦しい点はあります。
 それであっても、本作の描く「真紅の人」たちの姿は魅力的であり、そして決して悲しみに終わらない、未来に向けての力を与えてくれる物語であることだけは、まちがいありますまい。


『真紅の人』(蒲原二郎 角川書店) Amazon
真紅の人

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コメント

素敵なご書評をありがとうございます。大坂陣は学者さんが何もしてこなかったせいで、素人の小生が史料をさがして新説をぶち上げたり、説明せざるをえない部分が多々ありました。おかげで少し煩わしくなってしまいました(苦笑)。申し訳ないです。今後ともよろしくお願いします。

投稿: 蒲原二郎 | 2015.10.19 21:40

先生ご自身に拙文をご覧いただき大変光栄かつ恐縮です。
道明寺の合戦の解釈等、感心いたしました。次回作も楽しみにしております。
こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。

投稿: 三田主水 | 2015.10.21 00:19

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