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2015.11.19

北崎拓『天そぞろ』第1巻 すれ違う二人を繋ぐもの

 復活した『ますらお』など、最近時代ものづいている北崎拓が、『御用絵師一丸』で時代小説家としてデビューしたあかほり悟(さとる)原作で送る本作は、やはり時代もの。幕末を舞台に、売れない浮世絵師の青年と、千里眼を持つという謎の女性の運命が交錯する物語であります。

 時は安政七年、腕は確かながらもムラっ気で、己の内から湧き上がる力の向けどころを探している「そぞろもん」の浮世絵師・源吾が聞きつけた噂話……それは、千里眼の力で傾きかけた大店を甦らせたという謎の女性の存在でありました。
 好奇心からその店に押し掛けた源吾ですが、何とその女性・楓は彼の名を知り、彼にある絵の執筆を依頼します。。

 彼女の美しさに惹かれ、完成の暁には彼女を抱くことを条件に引き受けた源吾ですが、彼女の依頼とは、この後に桜田門外で起こる事件を絵にすること――
 そう、彼女は、源吾に井伊直弼の暗殺事件、あの桜田門外の変が起きることを予め知り、それを描くように求めていたのであります!


 というわけで、未来を知る楓の正体とは……というところですが、この点は物語の冒頭にほぼ明示されています。
 実は楓は現代の女性――雑誌の取材で訪れた先で、大英博物館の倉庫奥から発見された謎の浮世絵と出会った彼女は、いかなる理由によるものかそこで幕末にタイムスリップしてしまったのであります。

 そしてそこから、彼女が源吾に絵を書かせようとした理由も想像できます。そう、彼女と幕末を結びつけるものは、あの浮世絵――
 源吾の名が記され、桜田門外の変を描いた浮世絵のみ。だとすれば、源吾がその絵を描けば現代と幕末が繋がり、自分は現代に帰れるはずなのですから。
(……と書いたところで、むしろタイムスリップのきっかけとなった絵がない方が、歴史的になかったことにできるのでは、という気がしないでもないですがそれはさておき)

 さて、過去へのタイムスリップものといえば、如何に過去の時代で生き抜くかということと、それ以上に如何に現代に帰るかということが、最大のポイントでありましょう。
 しかし本作においては、その最大のポイントが早々に明示されている(前者についてもほぼ記されている)のであり、その点がいささか興味深いところであります。

 この第1巻を読んだ限りでは、楓の帰還以上に本作の力点が置かれているのは、源吾の存在――タイトルのとおり、自分の力を持て余し、自分が何をしたいのか、何ができるのかわからないでいる彼の向かう先こそが、本作の主題なのかもしれない……そう感じます。

 作中で幾度か描写があるように、実は彼の実家は武家、それもそれなりの家である様子。そこから何故彼が飛び出し、絵師を志したのか、むしろそちらの方が物語の中心となるのかもしれません。


 ただ、この第1巻の正直な印象で言えば、楓と源吾と、それぞれのドラマがすれ違う……というか別方向に向かっていることで、物語の焦点がぼやけてしまったかな、という気はいたします。
 特に、先に述べたとおり、物語の中心である源吾のドラマ以上に楓の方にインパクトがあり、それでいてそのゴールが早々に見えてしまっているのが、アンバランスに感じられるのです。

 もちろん、この二人を繋ぐものがあの浮世絵であり、そしてその絵が何故大英博物館で眠ることとなったのか、それはまだまだこれから描かれるべきことでありましょう。
(そう考えると、浮世絵の題材が桜田門外の変というのは、非常によくできた設定であると感じます)

 そしてまた、終盤には若き日の土方歳三が登場したように、まだまだ幕末の有名人との出会いもありましょう。
 現時点では向かう先が見えているようで見えていないような印象の本作ですが、それを楽しみと見ておくべきなのかもしれません。


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