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2015.11.08

たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』第4巻 史実と虚構の狭間の因縁

 文永の役での蒙古の九州襲来、その中でも対馬で行われた死闘をを独自の視点から描く本作。これまで幾多の犠牲を払ってきた対馬での攻防戦はこの巻でもまだまだ続きますが――同時にこの巻で描かれるのは、朽井迅三郎の過去に何が起きたかの物語。そしてついにあの御方が登場することとなります。

 ついに始まった蒙古の侵略。日本の武士とは全く異なる戦術と武器を持つ蒙古軍の前に、対馬を治める宗助国をはじめとする武士の多くが討たれ、残されたのは助国の娘・輝日姫らごくわずか。
 そこで姫を支え、蒙古軍に挑むは、対馬に流されてきた流人たち。その中でも歴戦の元御家人・朽井迅三郎だったのですが……しかし圧倒的な蒙古軍に対し、それも非戦闘員を抱えて彼らは撤退を余儀なくされます。

 そんな彼らを追うのは、モンゴルの若き将軍ウリヤンエデイ。大軍に対し、地の利を生かしての撤退戦を挑む迅三郎たちですが、相手は多勢の上に火薬という未知の兵器を持った相手。徐々に追い詰められていく対馬勢の運命は……


 と、果てしなく続くかのように感じられる蒙古軍との戦い。しかしこの巻の後半では、これまで大いに気にかかっていた、迅三郎の過去が語られることとなります。

 父の代から、北条氏の一門・名越時章と交流のあった迅三郎。しかし時章は突然に謀反の疑いをかけられ、討伐の兵を差し向けられることとなります。
 本来は自分とは無関係の戦ながら、時章を見捨てるわけにはいかぬと助太刀に加わる迅三郎ですが、奮戦空しく時章は討たれることに。後になって時章の無実が判明し、その名誉は回復されたものの、迅三郎は幕府の兵に刃向かった咎で、流罪に処されたのであります。

 ……実はこの事件は(迅三郎の件を除けば)、「二月騒動」と呼ばれる歴史上の出来事なのですが、ここで迅三郎が対馬に流される原因としてこの事件を持ってきた本作のセンスには唸らされます。

 というのもこの二月騒動で殺された名越時章は、筑後・大隅・肥後といった九州の守護を務めていた人物。その時章が殺されたことで、時の執権・北条時宗の腹心である安達泰盛らにこれらの地の守護職は移されたのであります。
 仮に時章が守護である時に蒙古が来襲すれば、彼は九州の御家人を束ねる立場となり、その結果、彼の幕府内での発言力が高まるかもしれない。それ故に時章は、側杖を食う形で殺されたのではないか……そのような見方もあるのです。

 本作の時宗像は、明らかにそのような思惑で描かれているのが見て取れますが、蒙古襲来を前提とした陰謀に巻き込まれた迅三郎が、蒙古と戦うことになったのは、因縁と言うべきか、はたまた皮肉と言うべきでありましょうか。


 そしてこの巻のラストでは、その迅三郎の前に、ついにあの人物が現れます。かつて壇ノ浦に沈んだと伝えられる安徳天皇が……
 その真偽はさておき、迅三郎は義経流の兵法を修めた男。そして義経といえば、ある意味、安徳天皇を「海の底」に追いやった人物であり、そこにも不思議な因縁が感じられるのですが……

 果たしてこの出会いが、蒙古との戦いにおいて何らかの意味を持つのか。いずれにせよ、史実と虚構の狭間に生まれる因縁が、本作をさらに面白くしていることは、間違いありません。


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