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2015.11.14

『鬼神の如く 黒田叛臣伝』(その二) 叛臣か忠臣か、鬼神か聖者か

 葉室麟が、黒田騒動をユニークな視点から描いた『鬼神の如く 黒田叛臣伝』の紹介のその二です。御家騒動ものに留まらない、本作独自の要素、一つ目はキリスト教の存在でした。そしてその他の要素とは……

 物語を彩る二つ目の要素、それは剣豪たちであります。
 冒頭から夢想権之介とその弟子たちが登場することは既に述べましたが、本作に登場する剣豪たちは、彼らだけではありません。

 そう、夢想権之介といえば宮本武蔵。武蔵はこの時期、九州探題的な役割を果たしていた細川家と何かと縁のある人物であり、そして細川家の後に豊前を治めた小笠原家には養子の伊織が仕えており……と、彼がこの時期に九州におり、権之介と、そして彼が協力する大膳と対峙することになるのは、さまで突飛なことではないのです。

 そしてまた――この当時、幕府において家光に仕え、隠然たる力を持っていた人物といえば柳生宗矩。家光の意を受けて外様大名潰しを遂行する者として宗矩が、そしてその子・十兵衛もまた、大膳たちの敵に回るのであります。
 黒田騒動がまさか剣豪たちのプチトーナメントの様相を呈するとは、これは思わぬ――そして実にうれしい展開です。

 そして三番目、これは最初の要素と密接に関わるものでありますが、幕府の海外政策が、本作においては大きな意味を持つこととなります。
 既に幕府が当時鎖国を行っていたことは言うまでもありませんが、その網をくぐり抜けて潜入していたのが宣教師たち。そのアジアにおける本拠地たるマニラを、幕府が――そして、将軍になったばかりで己の手元の力を振るいたくてたまらぬ家光が――攻略しようとしていたとしたら……

 とてつもないifではありますが、しかし後に鄭成功による援兵の依頼があった際、これに応じようという声もあった(この時は幕府側が反対したのではありますが)とを考えれば、全くあり得ないということではありますまい。

 しかし、この幕府の海外政策、いや海外派兵が、黒田騒動に絡むのでしょうか。それが絡むのですから実に面白い。
 詳細は述べませんが、クライマックスにおいて家光と対峙した大膳が容赦なく叩きつける言葉の数々は、実に痛快であると同時に、いつかどこかの国にも向けられた、存外に骨っぽいものであるように感じられたのは、私の考えすぎでありましょうか。


 キリスト教、剣豪、海外政策……一見、お家騒動とは関係のなさそうな要素を惜しげもなく投入し、極めてユニークかつ意外性に富んだ物語を構築してみせた本作。
 それは一面では、あまりにバラエティに富みすぎたために物語がまとまりを欠くことに繋がっているかもしれませんし、作者のこれまでの作品とは異なる味わいに違和感を感じる方もいるかもしれません。

 しかし本作が物語の中心に栗山大膳という、一種得体の知れない巨人を配置することで、不思議な求心力を発生させているのは事実。
 果たして叛臣なのか忠臣なのか、鬼神なのか聖者なのか――そのどれでもなく、どれでもある大膳という人物の存在が、本作を一個の物語として見事に成立させていることも、間違いありますまい。そしてその大膳に、武士としての一種の超人性と、同時に不思議な人間くささが備わっているのもまた……

 異色のようでいて、やはり作者でなければ描けない――そんな、作者の業前が光る作品でありましょう。


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鬼神の如く: 黒田叛臣伝

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