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2015.11.29

友野詳『風穴屋旋次郎』 旋風児、初のお目見え

 白泉社招き猫文庫は相変わらず執筆陣がユニークかつ新鮮な顔ぶれですが、そこにまた一人、友野詳が加わりました。時は天保、水野忠邦の改革の頃、悩み苦しむ人々の窮状に、己の拳を以て風穴を開けることを生業にする「風穴屋」の青年・旋次郎の活躍を描く活劇であります。

 「風穴屋」とは聞き慣れぬ言葉ですが、簡単に言ってしまえばトラブルシューター。揉め事に行く手を遮られ、困っている人間に成り代わり、その揉め事に風穴を開ける――解決するのがその役目であります。
 そしてその風穴屋の風間旋次郎は、歴とした旗本の家に生まれながらも家を飛び出し、比喩ではなく己の拳一つで、揉め事に風穴を開けてきた青年。その性格はどこまでも真っ直ぐ――道行くときもただ真っ直ぐ一直線という男なのです。

 さて、今回彼が開けることとなった風穴は呉服店・高田屋を襲った揉め事。高田屋の娘・お里穂が、道で老婆と突き当たったことをきっかけに、その非を声高に言い立てる、お天道組なる連中――今の言葉で表せばクレーマーが毎日店の前で騒ぎ立てるようになったのであります。

 頭領は岡っ引きというのがまたややこしいこのお天道組を向こうに回して一歩も引かず、痛快極まりないやり方で風穴を開けてみせるのですが、しかしお里穂を巡る事件はこれで終わったわけではなく、旋次郎は次なる風穴を開けるために奔走することに。
 そして一連の事件の陰には、思いも寄らぬ陰謀の陰が……


 本作の舞台となっているのは、冒頭に述べたとおり、天保の改革の頃。江戸時代の改革は大抵そうですが、緊縮財政と風紀引き締めによって、庶民の暮らしまで息苦しくなった時代であります。
 そんな時代に、人々の悩みと苦しみを一手に引き受け、解決する主人公を「風穴屋」の名で登場させてみせた、その基本設定の時点で、本作はある意味勝利を収めていると言えるでしょう。

 それも単純に力任せではなく、様々な調査・下準備を踏まえた策によって、八方丸く――少なくとも、依頼人に対して後腐れがないような形に――収めてみせるというのがいい。
 旋次郎だけでなく、客との繋ぎ役から仕掛けの細工まで何でもござれの砂平、情報収集にかけては右に出る者なしの弥々香と、ちょっと得体の知れない、しかし頼もしい仲間たちと風穴を開けるために動くという、裏家業のチームもの的要素があるのも楽しいところであります。

 そして幾度か触れたとおり、旋次郎の使うのが己の拳のみ、というのもまた魅力でありましょう。
 如何に知恵を巡らしたとしても、それでも立ちふさがる連中。それを相手にするに刃傷沙汰は風穴屋の名が泣く。そこで振るわれるのが旋次郎の拳でありますが、力任せではなく、至近距離から紙をぶち抜くというその技前もまた、彼のイメージにあったものでありましょう。


 このように、設定もキャラクターも実にいい本作ですが……しかし正直に申し上げれば、その旋次郎のデビュー戦とするには、いささか物語が重かった、という印象があります。
 詳細には触れませんが、作中で展開される陰謀は、彼が相手にするにはあまりに陰険で、かつ血生臭いもの。その陰謀を企む者たちを向こうに回して、旋次郎も知恵だけで凌ぐわけにはいかず、拳を以ての戦いを――それも死闘を繰り広げることとなります。

 その陰謀の内容や、アクション描写自体はよいのですが、しかしそれが「風穴屋」という本作のコンセプトに合ったものか、こちらの期待するものであったかと言えば……第一話の展開が良かっただけに、もう少しこの路線の話を見たかった、と感じます。
(特にかなり重く特殊な旋次郎周りの設定は、今回語っておかなくても良かったのでは、とも感じます)

 敵が実はほとんど皆○○というのも、話の重さ、ウエットさに拍車をかけた感があり、本作でちらりと名前が出た(それ自体はまことに嬉しいサービスなのですが)ある人物のシリーズを連想してしまったところです。


 と、かなり厳しいことを書いてしまいましたが、それは「風穴屋」への期待の裏返しゆえ。時代に風穴を開ける理屈抜きに痛快な旋風児の活躍を、この先も読みたいという気持ちも、偽らざる気持ちなのであります。


『風穴屋旋次郎』(友野詳 白泉社招き猫文庫) Amazon
風穴屋旋次郎 (招き猫文庫)

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