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2015.11.01

真藤いつき『青志郎秘拳帖 夢の仇路』 拳術使いの明朗時代小説

 五島列島のはずれの島で、母の手一つで育てられた青志郎。武士の子として厳しく育てられた彼は、ある日、山の中で猿田彦と名乗る奇妙な老人と出会い、獣拳道なる武術の手ほどきを受ける。やがて病で亡くなった母の遺言――自分の夢を探すことを決意した青志郎は、旅先で謎の女と出会うのだが……

 9月の白泉社招き猫文庫の新刊のうち、タイトルの時点で非常に気になっていた作品が本作であります。
 タイトルからすると、何やらハードな武術アクションを想像させる本作ですが、蓋を開けてみれば実は明朗時代小説とも言うべき内容。拳法の達人ながらまだまだ人生は未熟な青年の物語です。

 時は寛政の改革の後の時代、場所は五島列島のはずれの小さな島・星島。顔は知らぬものの、武士である父と、島の女性である母の間に生まれた青志郎は、幼い頃から母の手一つで育てられた青年。
 父が武士であること、そして青志郎も武士として生きるべきことを子供の頃から叩き込まれた青志郎は、それ故に島の子供たちからは孤立し、寂しい少年時代を送っていたのですが……そんな彼が出会ったのは、物の怪めいた老人・猿田彦でありました。

 得体は知れぬものの、青志郎を手もなくあしらう猿田彦に、武士はまず強くなければならぬと考えた青志郎は入門し、老人の操る獣拳道なるどこかで聞いたような武術を学ぶことになります。

 ちなみに獣拳道はその名から想像できるとおり、獣を真似た動きと技の武術。
 あまり武士らしくはないのですが、そこは「心に棚を作れ」というどこかで聞いたような教えで青志郎は乗り越えるのですが……

 やがて流行病となり、自分の夢を探せという言葉を遺して亡くなった青志郎の母。気を紛らわせるように猿田彦の下で一層の修行に励む青志郎は、いつしか自分が、顔も知らぬ女性とともに自分に似た子供を見守るという夢を見るようになります。
 それをきっかけに、母の遺言を果たせと師に背中を押された青志郎は、島を離れて九州本土に渡るのですが……


 腕は立つものの世間知らずの青年が、旅に出て様々な人々、様々な事件と出会い、人間として成長していく様を爽やかに描く――冒頭で述べたとおり、本作は一種の明朗時代小説とも言うべき作品であります。

 青志郎が旅立つまでを描く前半に続き、その彼がある女性と出会うことで奇妙な事件に巻き込まれる様が描かれる後半部分。
 記憶喪失ながら敵討ちが目的(のはず)と語るヒロインと旅することとなった青志郎の冒険は、どこかすっとぼけた、陽性の空気で、なかなかに気持ちよいものがあります。

 が……それでも、やはり勇ましいタイトルとのギャップは感じてしまうのは正直なところ。それはそれでまあ良いとしても、主人公がその技を振るう場面も少ないのは気になります。
 獣の動きを使う無手の武術というのは、時代小説ではかなりの変わり種であり、その特異性は大きな武器となると思うのですが……厳しいことを申し上げれば、主人公がこの特異な技を使う必然性があまり感じられないように思えてしまったのは残念なところであります。

 先に述べたとおり、物語を包む空気の暖かさは良いので、そことこの点ががっちり噛み合えば、言うことなしだと感じるのですが……


 そしてもう一つ、こういったことは滅多に申し上げないのですが、やはり表紙イラストはさすがに如何なものかなあ……というのも、正直な気持ちであります。


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青志郎秘拳帖 夢の仇路 (招き猫文庫)

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