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2015.11.07

朝松健『魔道コンフィデンシャル』 邪神対邪神、人間対邪神、人間対人間

 1950年、日系人ながらマフィアの幹部にまで登り詰めたトウキョウ・ジョーこと衛藤健。最近自分を悩ます悪意ある視線の背後に、かつて出会った人に非ざる者の存在を感じ取った彼は、一人の助っ人を雇う。その名は神門帯刀――元日本陸軍特殊工作員だった。シカゴを舞台に、邪神の代理戦争が始まる!

 久々の創土社クトゥルー・ミュトス・ファイルの紹介は、ベテラン朝松健が満を持して発表した『魔道コンフィデンシャル』。第二次大戦の余燼冷めやらぬ1950年のシカゴを舞台にした、作者独自のクトゥルー・ギャングものとも言うべき作品であります。

 クトゥルー・ギャングものというのはいささか聞き慣れぬ言葉かと思いますが、文字通り、クトゥルー神話作品に、アメリカのギャングの世界を絡めた作品群。
(そもそもこの両者が結びつくきっかけは、ギャングが勢力を伸ばした禁酒法時代と、ラヴクラフトの活躍時期が――すなわちクトゥルーたちの誕生が――重なるゆえではないかと思いますが、それはさておき)

 若き日のエリオット・ネスが邪神の脅威に挑む『聖ジェームズ病院』、本作の主人公の一人である神門帯刀が奇怪な力を持つギャングのボスに挑む『ダッチ・シュルツの奇怪な事件』に続き、私の知る限り本作で作者のクトゥルー・ギャングものは、第三作目かと思います。

 それだけでも実にユニークですが、本作にはもう一つの趣向があります。それは、これも作者が得意としてきたナチ・クトゥルーもの――その成果は『邪神帝国』としてまとめられていますが――の系譜に連なる作品でもあること。
 そもそも、神門帯刀自体が、ナチ・クトゥルーものの一つ『ヨス=トラゴンの仮面』でデビューしたキャラクターですが、ある意味本作は、彼が里帰りした作品と言えるかもしれません。


 さて前置きが長くなりましたが、本作は、その神門帯刀が、日本人マフィアのトウキョウ・ジョーの抗争の助太刀を勤めることになります。が、もちろん、その抗争がただのギャングの争いであるわけがありません。
 ここで抗争を繰り広げるのは、邪神YOSとNYA――ヨス=トラゴンとニャルラトホテップ。邪神の代理戦争に、神門とジョーは巻き込まれるのであります。

 大戦中、日系人部隊の一員として欧州を転戦した際に、ドイツで奇怪な体験をしたジョー。おぞましい人体改造実験が繰り広げられていたナチスの収容所を強襲した彼の部隊は、その地下で、奇怪な存在に襲われ、次々に無惨な最期を遂げていったのであります。
 ただ一人残されたジョーの命も風前の灯火となった時、彼に語りかける声が。それは仲間たちを襲った怪物たちとは敵対関係にあるナイアルラトホテップ――彼(?)に命を救われる代わりに、ジョーはその代理人として、ヨス=トラゴンとその代理人と戦う運命を背負わされたのでした。

 そして数年後、シカゴでのし上がったジョーに迫るヨス=トラゴンの代理人。二柱の邪神の代理戦争の助太刀となった神門ですが、しかし敵方の代理人は、彼とも因縁のある人物で……


 とにかく本作の面白さは、まず何よりも、時間と空間を超越した邪神たちの戦争が、マフィアの抗争と重なるような形で描かれることでありましょう。
 しかしだからといって、この戦いが決して卑近なものやコミカルなもとして描かれるのではなく、超次元の邪悪と世俗の邪悪、二つの邪悪の重なり合いとしてオーバーラップして描かれるその視点の面白さは、クトゥルー・ギャングものならではのものでしょう。

 そしてそれと同時に感心させられるのは、人間と邪神のパワーバランス設定の巧みさであります。正面から戦っては到底人間が敵うはずもない邪神たち。その邪神たちに、如何に人間が戦い(仮初めとはいえども)勝利を収めるか?
 アクション色の強いクトゥルーものではこのバランス設定が非常に難しいのですが(邪神側が強すぎれば人間の勝利に説得力がなく、人間側が強ければ邪神の恐ろしさがない)、この辺りのさじ加減の絶妙さは、やはりベテランの技と唸るほかないのであります。


 さて、ひとまずは作中で終わりを告げる邪神同士の代理戦争、そして人間と邪神の、人間と人間の抗争。しかしもちろん、それで全ての戦いが終わるわけではありません。
 本作でちらりちらりと示された何とも魅力的な設定を踏まえた更なる快作の登場を、今から待ちたくなってしまうのであります。


『魔道コンフィデンシャル』(朝松健 創土社The Cthulhu Mythos Files) Amazon
魔道コンフィデンシャル (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)


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