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2015.11.23

小松エメルほか『宵越し猫語り 書き下ろし時代小説集』 猫時代小説アンソロジーふたたび

 ある意味当たり前かもしれませんが、そのレーベルのタイトルほどには、猫を題材とした作品は多くない白泉社招き猫文庫。しかし、その中でも猫を題材とした作品ばかりを集めたアンソロジーがあります。以前刊行された『手のひら猫語り』に続く、本書『宵越し猫語り』がそれであります。

 本書に収録されているのは、女性作家ばかりによる書き下ろしの短編時代小説。
 同様のアンソロジーであった『手のひら猫語り』(こちらは一名、男性作家が含まれておりましたが)は、収録作の多くが後にシリーズ化されたほどの名品揃いでしたが、クオリティの点では本作も勝るとも劣りません。
(内容的にシリーズ化は難しい作品が多いのですが、それは方向性の違でありましょう)

 収録されているのは、以下の五編であります。

 ふとした刃傷沙汰で夫を失った口入れ屋の女の前に、猫になって帰ってきた夫。廃業を進める彼の真意とは『風来屋の猫』(小松エメル)
 材木問屋の若旦那が、猫の目の細さで時間を知る時計を発明したという寺子屋の師匠に振り回される『猫の目時計』(佐々木禎子)
 蕎麦屋の女と、両国橋の橋番の男、親子ほども年の離れた二人のふれあいを描く『両国橋物語』(宮本紀子)
 両親と娘一人で営む夜逃げ寸前の宿屋にやってきたわけありの侍が引いた富籤が思わぬ結末を招く『こねきねま 『宿屋の富』余話』(森川成美)
 箱入りで育てられた大店の娘が、仲良くなった従姉妹の少女と、伊勢参りしてきたという猫の真偽を賭けた顛末『旅猫』(近藤史恵)

 愛情あり、人情あり、笑いあり――作家の顔ぶれも含めて、なかなかにバラエティに富んだ内容ですが、そのクオリティの高さも印象的。どれをとっても外れがない……物語の趣向の好みはあるとしても、物語の出来としては、甲乙つけがたいものがあります。


 その中で特に二作品を上げるとすれば、『猫の目時計』と『こねきねま 『宿屋の富』余話』でしょうか(どちらも笑いに傾いた作品で恐縮ですが……)。

 『猫の目時計』は、物知りで熱意はあるものの、どこかズレた寺子屋の師匠・冬月先生と、かつて彼の生徒だったしっかり者で強面の若旦那・徳太郎が繰り広げるドタバタコメディであります。
 猫の瞳が時間……というより日の光の強さでその細さを変えるのは有名ですが、冬月先生はこれを実用化すると燃えているものの、どうも頼りない人物。実験は成功しないのに何故か猫には好かれて、長屋の部屋は至る所に猫だらけ、という設定だけでも笑いが出ます。

 そんな冬月先生が、水争いで交流が途絶えそうな二つの村の少女に頼まれ、勇躍「猫の目時計」で揉め事を収めようとするのですが……というわけで、本書の中でも猫の登場度合いという点では一番の本作ですが、最大の魅力は冬月先生と徳太郎のやりとり。
 一口に言ってしまえばボケとツッコミなのですが、冬月先生の怪人物ぶりと、徳太郎の善人ぶりが噛み合って、二人の会話だけで楽しくなります。

 本書の収録作の中で、おそらくは唯一シリーズ化できる作品かと思いますが、ぜひお願いしたいところです。

 そして『こねきねま 『宿屋の富』余話』は、タイトルにあるとおり、落語『宿屋の富』をアレンジした作品。
 江戸に出てきてはやらない宿屋に泊まった口先だけは達者な男が、宿屋の副業の富籤を買わされたところ、それが……というのが原典のあらすじですが、本作では宿屋に泊まったのがわけありの青年武士、宿屋には年頃の娘が、という形でアレンジされています。

 お話的には、原典を知らずとも途中で結末は見えてしまうのですが、しかしそこに至るまでの引っ張り方、盛り上げ方が実に良いのが本作。
 特に、思わぬ形で出会い、ある意味極限状態に置かれてしまった二人の感情が、富籤を挟んでどんどん高まっていくくだりの描写が何とも巧みで、まさに「読まされた」という印象があります。

 実はタイトルの「こねきねま」(まねきねこの逆で、不吉な猫のこと)があまりうまく機能しているとは言い難いのですが、それも小さなことと思える快作です。


 先に述べたとおり、その他の三作品も水準以上の本書、読む人の数だけお気に入りの作品がありそうな……そんな一冊であります。


『宵越し猫語り 書き下ろし時代小説集』(小松エメルほか 白泉社招き猫文庫) Amazon
宵越し猫語り 書き下ろし時代小説集 (招き猫文庫)


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