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2015.12.08

『牙狼 紅蓮ノ月』 第8話「兄弟」

 夜の橋の上で女に化けた炎羅の片腕を斬り落とし、持ち帰った渡辺綱。しかし腕は源頼信の父・多田新発意の屋敷で無数に増殖、新発意を襲う。事態を案じた頼信は星明に対応を依頼するが、戸惑う彼女の代わりに雷吼が屋敷に向かう。しかし雷吼の顔を見た綱は、彼を炎羅と呼び襲いかかってくる……

 前回、星明の過去が描かれた本作ですが、今回描かれるのは雷吼の過去。雷吼が母ともども都を追われ、無数の炎羅に襲われる中で牙狼の鎧をまとったことは以前語られましたが、彼の出自と、彼が都を追われた真の理由が語られます。

 事の発端は、渡辺綱が鬼の腕を落とすというお馴染みのエピソード。原典では鬼が腕を取り返しにあの手この手で襲いかかることになりますが、本作では腕が増殖――しかも腕には無数の目がついているのが気持ち悪い――して、彼の主(主の父?)の多田新発意(源満仲)に襲いかかることとなります。
(ここで、意気揚々と鬼の腕を担いで持ち帰り、武勇談を酒の肴にしようとする脳筋ぶりはちょっと微笑ましい)

 父を襲う炎羅に手を焼いた頼信は、その対応を依頼する――という口実で星明に近づく――ためにやってきますが、何故か星明と金時は言を左右にしてそれを拒否。しかし雷吼がそれを引き受けると、かえって慌てた顔を見せることになります。
 というのも、以前ちらりと語られたように、雷吼こそは満仲の長子・頼光。すなわち雷吼と頼信は実は兄弟であり……そして御曹司として育てられている頼信に対し、雷吼は家を追われ、死を望まれた身なのですから。

 そんな彼の境遇を示すかのように、雷吼の顔を見るや血相を変える綱と貞光、季武の四天王-1。ことに綱は、頼光が生きているはずはない、これは炎羅に違いないといきなり殴る蹴るの狼藉であります。

 そんな中、頼信は、父に頼光の存在について問いただします。魔戒騎士の家柄でありながらも自分には黄金の鎧をまとう素質がなかったという満仲は、自分の子供にそれを期待したものの、そこで彼に妹を娶せると言い出したのが藤原保昌。
 黄金の鎧を藤原の血を引く者に着せようと目論む道長の意を受けた保昌は、既に生まれていた頼光を暗に殺せと圧力をかけて――そして以前語られた悲劇に繋がることとなったのであります。

 そしてなおも雷吼に暴行を働く綱の前に現れる金時(今まで言及はありませんでしたが、やはり元は綱たちと同僚の四天王だった様子)。彼の力で正体を現した炎羅は……綱!
 かつて幼い頼光を屋敷から追い出される際に手を下した綱。その罪の意識が生んだ陰我に炎羅が取り憑いていたのであります。

 しかし綱が罪の意識を抱き――それと裏返しに頼光が自分たちを恨んでいることを恐れていた一方で、頼光/雷吼の胸中にあったのは、怨念でも羨望でもなく、ただ人々を護るための力になりたいという純粋な思い……
 そう、少年時代、実は満仲の屋敷に忍び込んだ雷吼は、幼い頼信が両親とともに無心に笑う姿に、自分の守るべきものを見出していたのであります。

 そこに前回の葛子姫牛車(?)に乗って乱入してきた星明の助けを借り、雷吼は一撃で綱炎羅を粉砕するのでありました。
 そして真実を知り、雷吼を兄と呼ぶ頼信。自分に代わり家を継いで欲しいという頼信に、俺は全ての命を護る、お前は清和源氏の家を護れと告げ、雷吼は去るのでありました。


 というわけで、雷吼の過去回であると同時に、雷吼がヒーローとなった理由の再確認、そして兄弟の因縁の精算という盛り沢山の内容を、道長の暗躍というこの時代ならではの要素を絡めて巧みにまとめた今回。
 一歩間違えるとお人好し過ぎる雷吼の想いの根幹に、幼い子供の――それが頼信というのがまた泣かせる――笑顔という、誰もが納得せざるを得ないものを設定してみせるのにはただ唸らされました。

 憎まれ口を叩きつつも、ある意味自分と同様の存在である雷吼を見守り、信頼する星明との距離感も良く、やるせない結末の多い本作において、実に爽やかなエピソードとして成立しておりました。
(四天王は本当に一名欠員となってしまいましたが……)


 なお、シリーズ構成を担当した會川昇はこの回で脚本から降板とのこと。今回は共同名義のため、どの程度の割合を氏が担当しているかはわかりませんが、複雑な要素をキャラクターの在り方に絡めて捌く見せ方、そして何よりも雷吼のヒロイズムは、まさに氏の持ち味であったと感じます。
 降板は真に残念ですが、その点も含めて、第一部完という印象のある好編でありました。



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関連サイト
 公式サイト

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