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2015.12.04

高嶋哲夫『乱神』上巻 十字軍騎士、時宗と遭う

 高嶋哲夫といえば、自然災害パニックものや、原発サスペンスものを得意とする作家という印象があります。その作者が元寇を題材とした本作は、しかしその日本と元の戦いを、ある意味第三者であるイギリス人騎士の視点から描くという、極めてユニークな作品であります。

 物語は元軍が九州に襲来した文永の役から2年後の1276年、主人公たるエドワード・ガウェイン率いる一団の乗った船が、博多に漂着したことから始まります。
 勇躍十字軍に参加したものの、途中で友軍に見捨てられ、放浪の末にようやく帰国のための船に乗ったエドワード一行。しかしその船は激しい嵐に襲われ、漂流の果てに、彼らにとっては異世界同然の日本に流れ着いたのであります。

 しかしエドワード一行が異世界の住人のように見えたのは博多の人々も同様。いや、わずか2年前に元軍に蹂躙された人々にとっては、エドワードたちも侵略者のように映ってしまうのも無理もない話であります。
 幸いと言うべきか、肥後の守護代であり、時の執権・北条時宗の重臣・安達泰盛の子である盛宗に保護されたエドワードたち。彼らは密かに日本に潜入していた元の兵士の手から盛宗を守ったこともあり、徐々に打ち解けていくことになります。

 やがて鎌倉に連行されることとなったエドワードたちは、彼の地で時宗と対面。自分とあまり変わらぬ年齢ながら、武士たちを束ねる時宗に感心したエドワードは、時宗の求めるままに海の向こうのことどもを語ります。
 そして元軍が再び襲来することを知った時宗は、西洋の戦術を武士たちに伝授するよう、エドワードに依頼するのですが……


 武士と騎士――似ているようで似ていない、しかし重なる部分が多々ある存在。それだけにそんな両者が交わるのは魅力的ということでしょうか、それぞれの住まう国を離れ、相手の国で活躍するという物語は、数多く存在します。
 本作もその系譜に属する作品かとは思いますが、やはり面白いのは、ある意味彼らにとっては第三者である元の再来を背景とした物語であるということでしょう。

 本作の主人公たるエドワードは、上で述べたとおり十字軍に参加していた人物。この十字軍は、年代的に最後の十字軍となった第8回(場合によっては第9回とも)かと思いますが、信仰のためにイスラム圏に攻め入った騎士であります。
 それが流れ流れて日本にたどり着き、「何故か」縁もゆかりもない国のために元と戦うというシチュエーションは、何とも興味深いものがあります。

 そしてその「何故」が物語の中心にあることは言うまでもありません。

 日本は(そして元も)エドワードにとってはイスラム圏よりもさらに縁遠い異国。彼が日本に留まるのは、そのように強いられているからであり、そして生き延びるためにやむを得ず幕府に協力しているに過ぎません。
 しかし、それだけではないことが――いや、それだけではなくなってきたことが、物語が進む中で少しずつ描かれていくこととなります。

 幼い頃から騎士として修行し、そして長じて後は神のため祖国のために十字軍に加わったエドワード。しかし戦場で待っていたものは、彼が夢見てきた栄光に満ちたものではなく、暴力と虐殺の場に過ぎませんでした。
 そこで自分の手を血に染め、己の戦う意味に、己の存在に密かに疑問を抱いてきた彼が、全くそれまでの己とは縁のない――そして、理不尽な暴力に晒されようとしている――世界に暮らすうちに、彼は少しずつ変わり始めるのであります。


 この上巻で描かれるは、まだ元の再来――後世に言う弘安の役に至る前の時期。それ故、エドワードの「何故」が完全に描かれるわけではありません。
 しかし、日本で暮らすうちに、時宗――時に容赦なく策略と武力を用いつつも、しかし拭えない孤独を抱え、エドワードと共鳴する人物像がいい――と言葉を交わす中に、その芽生えは確かに見て取れます。

 そしていよいよ始まる死闘の中で、エドワードたち西洋騎士が如何に戦い、何を見るのか。下巻も近日中に紹介いたしましょう。


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乱神(上) (幻冬舎文庫 た 49-1)

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