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2015.12.20

武内涼『吉野太平記』の解説を担当しました

 先日発売された『この時代小説がすごい! 2016年版』の文庫書き下ろし部門において第一位を獲得した武内涼。それとほぼ時を同じくして刊行された最新作『吉野太平記』の解説を執筆いたしました。混沌たる室町時代を舞台に、忍者たちが激闘を繰り広げる、この作者ならではの大作です。

 これはファンの方には言うまでもないことですが、作者はデビュー以来、矢継ぎ早に忍者ものを、それもワンアンドオンリーの快作を発表してきた作家であります。
 漫画、ゲーム、特撮と、今なお人気の存在でありつつも、小説の分野においては、実はここ数年、想像以上に扱われることが少ない忍者。その忍者を主たる題材にしてきた作者は、まさに当代切っての忍者小説の第一人者と言えましょう。
(尤も、冒頭に述べた『妖草師』が忍者小説ではなく、忍者もののみが作者の才能ではないことは言うまでもありません)。

 そして本作は紛れもなく、そんな作者の、量・質ともに現時点における最高傑作であると、断言できます。


 と、恐縮ですがあまり長々と書いてしまうと、解説の内容と重なってしまいますので、ここでは本作のあらすじを簡単に紹介するに留めましょう。

 後南朝一党が禁裏に乱入し、神器を奪うという前代未聞の事件・禁闕の変から14年――南朝正統の血を引く自天王を奉じ、吉野山中で天下を二分する大乱の準備を着々と進める楠木流の上忍・楠木不雪。かつて禁闕の変で対峙した禁裏の忍び・村雲党の本拠を襲撃、大打撃を与えるなど、着々と乱の布石を打つ不雪ら後南朝に対し、禁裏は一つの反撃の策を講じることになります。

 それは、後南朝の本拠たる吉野に信頼の置ける人物を送り込み、後南朝内部の和平派を見つけ出した上で彼らと結び、後南朝を内側から瓦解させること――
 その潜入役として選ばれたのが、かつて南朝方についた日野家の縁戚であり、そして将軍義政の正室・日野富子の妹である幸子。そしてその幸子を守る警護の士として選ばれたのは、一族最強の腕を持ちながらも、故あって放逐されていた村雲兵庫でありました。

 かくて、幸子を守り、吉野に潜入せんとする兵庫ら村雲忍者ですが、後南朝の本陣に至るには、吉野山中に潜む一騎当千の遣い手たる三人の番人を見つけだし、そのテストをクリアする必要があったのです。
 果たして、自分たちの素性と任務を隠しつつ、番人たちのテストをクリアできるか。そしてできたとして、本当にいるかもわからない和平派を見つけだし、彼らと結ぶことができるか……困難というも生温い不可能ミッションに、兵庫と幸子は挑むのです。


 魅力的な人物・事件が目白押しでありながらも、しかしそのあまりに混沌とした状況故か、フィクションの題材となることが――戦国時代を含めなければ――相当に少ない室町時代。
 本作は、そんな味わい深くも扱いの難しい材料を、その持ち味を殺すことなく、ありのままの姿を描き出しつつも、同時に血沸き肉躍る活劇として成立させています。

 そんな離れ業を可能としたのは、作者の得意とする「忍者」という題材であることは言うまでもありません。そしてその忍者である兵庫と同時に、聡明でありつつもごく普通の少女である幸子を主人公とすることで、本作は物語に更なる深みを与えることに成功しているのです。
 それは政の、それを為す者の真の役目――人々が幸せに暮らすために果たすべきものは何かという問いかけであり、戦いを避けるための、戦いをさせぬための戦いを描く本作に相応しい問いであり、答えなのであります。


 あらすじを簡単にと言いつつ、色々と述べてしまいましたが、それに足るものを確かに持つ本作。
 これは私が解説を書いたから言うわけではなく、作者の作品の大ファンとして申し上げるのですが、少しでも多くの方に読んでいただきたい作品であり――作者が『この時代小説がすごい! 2016年版』第一位を得たのは、ある意味当然の結果であることを、確認できる作品でもあります。

 是非、ご一読を。


『吉野太平記』(武内涼 角川春樹事務所時代小説文庫 全2巻) 上巻 Amazon/ 下巻 Amazon
吉野太平記〈上〉 (時代小説文庫)吉野太平記〈下〉 (時代小説文庫)

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