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2016.01.20

睦月ムンク『陰陽師 瀧夜叉姫』第7巻・第8巻 「静」から「動」へ……大長編完結!

 およそ四年近くに渡って描かれてきた漫画版の『陰陽師 瀧夜叉姫』もいよいよ同時発売の第7巻、第8巻によってついに完結であります。複雑に入り乱れた因縁はついに一つに結び合わさり、物語は解決編とも活劇編とも言うべき展開に突入。まさにクライマックスに相応しい盛り上がりであります。

 京を舞台に次々と起こる怪事件――その怪事件とそれに巻き込まれた人々が、いずれも20年前の平将門の乱と関わっていること、そしてその背後に恐るべき企てが隠されていることはわかりましたが、未だ謎は数多く残されております。
 果たして将門の右手はどこに消えたのか、暗躍する謎の美女・瀧夜叉姫の正体は。奇怪な瘡に取り憑かれた平貞盛の言動に隠されたものは……

 晴明が、博雅が、道満が、保憲が、秀郷が――一連の事件に関わり、その謎を追ってきた人々の前で、意外な事実が語られ、そして意外な人物がついにその正体を顕すこととなります。


 前の巻の紹介では、物語の面白さは感心しつつも、しかし漫画として見た場合は、あまりに「静」の展開が多いことに、不満を抱いた記憶もある本作。しかしこれまでの謎と秘密、秘められた過去を丹念に積み重ねる展開は前の巻(正確には第7巻の前半)まで、であります。
 物語は一気呵成に動き始め、これまで抑えていたものが一気に爆発した感すらある展開の気持ちよさは、これまでの溜めがあってこそ。そして、二巻まとめての刊行も、この「動」を一気に楽しませてくれる、心憎いやり方と申せましょう。

 これまでの物語において、いや、『陰陽師』という作品においては「静」のイメージを具現化したような晴明が、ここにおいては本当に珍しいことに声を荒げ、アクティブに活躍するというだけでも、その特別さがわかろうというもの。
 もちろん、もとより「動」の人である秀郷も、年を感じさせぬ(いやそれどころか……)な大活躍でありますし、最強の鬼札あるいは道化師と言うべき道満も、実に格好良くも「らしい」言動を見せてくれるのも、大長編の締めくくりとしてたまらぬものがあります。


 しかし、そんな物語において描かれるものは、あくまでもこの世に生きる者が背負ってしまう業とも言うべきものであるのが、素晴らしい。

 将門という巨人が背負い、その身を鬼と変えることとなった哀しみ。ここで明かされるその哀しみの存在は、いかにも本作らしい残酷さに満ちたものではありますが、しかしそれでいて我々の胸にも突き刺さる、一種普遍的な――人であるからこそ感じられる想いでありましょう。
 そしてその想いが過剰に高まった時、人は鬼となる……というのは、これは『陰陽師』シリーズを貫く則とも言うべきものであり、シリーズの中では破格とも言うべき内容の本作においても、それが明確に貫かれているのも面白い。

 そして、そんな展開を経ながらも、事件の黒幕が語る「人」であることの意味が、極めて皮肉なものであり、そして同時に別の意味で強烈な業を感じさせるものであることもまた、強く印象に残るのですが……


 しかし、ここで原作既読者としては、大いに不満に感じてしまう点が、実はあります。
 それは、この黒幕の業の発露に対して、原作において博雅がかけた言葉――人が人であることを、自分が自分であることを肯定してみせたその言葉が、この漫画版では完全にオミットされていることであります。

 『陰陽師』という物語においては基本的に傍観者でありつつも、時に無自覚なままに、その素直な感性でもって真実に触れ、そしてそれが大きな動きをもたらす博雅。
 原作のその言葉は、実にその博雅の博雅たる所以とも言うべき言葉であり――これは正直に申し上げれば、この漫画版でその場面がどのように描かれるのか、私はずっと楽しみにしてきたのですが……いや残念。

 冷静に考えてみれば、(この漫画版がそうであるように)なければないで話は通じるものでありますし、物語自身の価値がそれで変わるわけではないのですが――
 しかし期待が大きかっただけに、そしてこの漫画版がこれまでそれに応えるだけのポテンシャルを示していただけに、個人的には最後の最後で、何とも勿体なく感じてしまった……まことに申し訳ありませんが、それが正直な印象であります。


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