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2016.01.24

上田秀人『御広敷用人大奥記録 9 典雅の闇』 雲の上と地の底と、二つの闇

 巻数二桁の大台を目前としてなおも続く御広敷用人・水城聡四郎の苦闘は、いつ果てるともなく続きます。いよいよ竹姫を継室にする決意を固めた吉宗の命を受け、京に赴くこととなった聡四郎。しかし京に潜む公家たちは手強く、そして仇敵が思わぬ力を得て迫ることとなります。

 苛烈な大奥改革に取り組む最中、大奥で忘れ去られたように暮らしていた竹姫に恋した吉宗。その命で竹姫付きの用人となった聡四郎は、大奥の勢力を二分してきた天英院と月光院を向こうに回し、馴れない女の世界で苦闘を強いられてきたのですが……

 竹姫の身にまで危難が及ぶに至り、ついに竹姫を御台所に迎えることを決意した吉宗。しかし一般庶民でも結婚にはそれなりの手続きが必要なもの、ましてや竹姫は権大納言・清閑寺熈定の娘であります。
 竹姫を御台所とするには、京の公家たち、特に五摂家を説得する必要がある――というわけで、聡四郎はその使者として京に向かうこととなります。

 頼もしい家士である大宮玄馬に加え、新たに山里伊賀者の山崎伊織を仲間とした聡四郎は、途中、幾度目かの襲撃を仕掛けてきた元御広敷伊賀者組頭・藤川を撃退し、ようやく京に入ったのですが……しかし江戸を出たことのない聡四郎にとって、京は、いや公家の世界は得体の知れない魔境とも言うべき世界でありました。
 京都所司代の手を借りて何とか関係の公家と対面する聡四郎ですが、自分の感情をなかなか表に出さぬ公家相手に四苦八苦することに……

 一方、全てのつてを無くし、盗賊を働くまでとなった藤川は、しかし京の闇を司る者――殺しなど荒事を生業とする顔役の一人に思わぬ形で見込まれ、力を借りることに。かくて藤川に雇われた殺し屋たちの群れが、次々と聡四郎一行を襲うことになるのであります。


 と、これまでと全く異なる場で展開する本作ですが、正直に申し上げて物語の起伏としては控え目の印象。新しい舞台はなかなかに新鮮でありますが、聡四郎自身の行動はお使いミッションに終始し、これまで以上に状況に振り回されて終わった感があります。

 その一方で――こちらも振り回されたといえばそうなのですが――もう一人の主役と言ってよいような存在感があったのが藤川。
 身から出た錆とはいえ、打つ手が全て裏目に出て伊賀組を追われ、もはや伊賀の里に助力を請うことすらできなくなった彼は、完全に「終わった」存在と思われたのですが……ここで裏社会の顔役と結びつくことになるとは。

 藤川は元公務員とはいえ、考えてみればどちらも闇の世界の住人、なかなか面白い組み合わせとなったものですが、さてこれが今後の物語に関わることとなるのか。
 作中で伊織に軽くツッコまれていたように、次から次へと敵を作ることでは誰にも負けない(?)聡四郎ですが、新たな敵の存在は、舞台が京を離れても彼の戦いに陰を落とすことになるのでありましょう。

 公家と裏社会と――雲の上と地の底と、全く正反対の形で存在する京の闇を描いた本作。先に述べたとおり転章的なエピソードですが、しかしこれまで以上にユニークな内容であることは間違いありません。

 そしてラストでは史実が示す結末への伏線らしきものも描かれ、不穏な空気が流れた一方で、聡四郎には新たな行き先と任務が与えられることとなります。
 この様子では、次の巻も大奥とは離れた場での物語となりそうですが――吉宗とこの人物がここで繋がるか、という意外性もあり――先が読めない展開というのは、やはり楽しいものであります。


『御広敷用人大奥記録 9 典雅の闇』(上田秀人 光文社文庫) Amazon
典雅の闇: 御広敷用人 大奥記録(九) (光文社時代小説文庫)


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