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2016.01.27

吉橋通夫『真田幸村と忍者サスケ』 戦国の世に少年少女が背負ったもの

 先日来、大河ドラマ効果で刊行されている(であろう)様々な児童向け真田ものを紹介しておりますが、本作もその一つ――これまでなかなか紹介する機会がありませんでしたが、『凛九郎』や『風の海峡』等、時代ものを中心に活躍している作者による、少年時代の幸村とサスケを描いた作品であります。

 大坂の陣開戦前夜、成長した幸村とサスケが、自分たちが出会った頃を振り返るという形式で描かれる本作。
 その出会いの時期は、真田家が上田城を築城していた頃――武田家が滅び、真田家が生き残りのために周囲の大大名と必死の駆け引きを繰り広げていた頃であります。

 その真田家の家臣・矢沢三十郎が訪れたのは、忍びの世界に名を轟かす、信濃は戸隠の飛雲一族(というより一家)の里。何者かの妨害により、上田城の築城が遅々として進まぬ中、上杉方の前線基地とも言うべき海津城探索の依頼を携えての来訪であります。
 そして、一族を支える父と兄は別の依頼――というより、それがほかならぬ上田城築城の妨害なのですが――で不在であったため、サスケがその任務を請け負い、忍びとしての初仕事をすることになったのであります。

 その任務の最中、三十郎が仕える幸村と出会ったサスケは、年齢が近く、どこか似通った風貌だったこともあって意気投合、互いの名を呼び捨てする仲に。さらに、修行と称して飛雲一族の里に現れた伊賀の少女忍者・ほのかを加え、三人は以後も様々な形で、真田家と上杉家の争いに関わっていくこととなります。

 サスケの奇策により、上杉との争いはひとまず収まり、一時の平穏が訪れた真田家。しかし沼田の地を巡り真田家は徳川家と対立、徳川の大軍が上田城に押し寄せることとなります。そして寄せ手の中には、思わぬ人物の顔が……


 (特にフィクションの世界では)真田家が戦国の世に最初に名を轟かせることとなった第一次上田合戦。本作のクライマックスもこの合戦が舞台となりますが、しかし実質的な物語の始まりが、真田と上杉の小競り合いの時期――ある意味「地味」な時期であるのがなかなかに面白く、そして本作の特色が表れているように感じられます。

 というのも、サスケの属する飛雲一族は、優れた腕を持ちながらも、決して人を殺めないことをモットーとする忍びたち。それ故に暗殺や戦場働きは引き受けず、情報収集や後方での攪乱を専らとする存在なのであります。
 それ故にサスケの活躍もそうした場に限られ、合戦に関わったとしても、後方での働きが中心。裏方としての忍びの姿が、本作では主として描かれるのです。

 それにしても、人を殺めない忍者というのは、いかにも絵空事と感じる向きもあるかもしれません。
 そしてそれは、我々読者だけでなく、本作の登場人物――幸村や、ほのかも感じること。この戦国乱世に、たとえ忍者ではなくとも、人を殺めずに生きていけるはずもない……と、彼らはサスケにその困難さを語るのであります。

 確かにそうかもしれません。しかし、それであれば、人が人を殺すのが当然の世界とは何なのか……サスケの、飛雲一族の思いは、この時代においては異端と言うほかないが故に、この時代の姿を、一種逆説的に浮き彫りにするのです。

 しかしそれでもサスケは、それが飛雲一族に生まれた自分の生き方と信じ、それを貫こうとします。そして背負うものは違えど、幸村も、ほのかもまた、己の背負ったものとともに、歩み始めるのです。
 それが正しいことなのか、それしか彼らには選べないのか……その答えをあえて決めつけず、あるがままに描くのは、本来の想定読者層に対する一種の問いかけでもありましょう。この辺りは、さすがにベテランの呼吸と申せましょう。


 さて、冒頭に述べたとおり、本作は大坂の陣を前にしての回想というスタイルで描かれます。だとすれば、本作で描かれた時代から、「いま」に至るまでには、まだまだ様々な出来事を、サスケが、幸村が、ほのかが経験してきたはず。
 果たしてその中で、それぞれがそれぞれらしく生きることができたのか……それを見てみたい、という気持ちが強くあります。


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