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2016.01.14

『決戦! 本能寺』(その二) 死線に燃え尽きた者と復讐の情にのたうつ者

 講談社の豪華作家陣による戦国アンソロジーシリーズ第三弾『決戦! 本能寺』の紹介その二であります。今回ご紹介するのは、森蘭丸と細川幽斎――本能寺の変に全く異なるスタンスで関わった二人を、全く異なるスタイルで描いた二作品です。

『焔の首級』(矢野隆)
 命を賭けた戦いの中でこそ己の生を輝かせる男たちを一貫して描いてきた作者が本書で題材に描いたのは、意外にもと言うべきか森乱成利。戦いとはほとんど無縁に見える彼も、しかし作者の手に掛かれば、熱い武人として生まれ変わるのであります。

 信長に忠実に仕え、「子を生まぬ側室」という陰口を自分でも認めつつも、しかし同時に武人としての熱い血のたぎりを抑えられずにいた本作の成利。一見意外にも感じられますが、しかしその父の、そしてその兄の武名を思えば、それはむしろ当然と言うべきかもしれぬその欲求は、思わぬところで満たされることとなります。そう、本能寺に明智の軍勢が押し寄せたことで――

 かくて本作で描かれるのは、ただ血のたぎりの赴くまま、嬉々として槍を振るう武人・森成利(と弟二人)の勇姿。もちろん歴史の示すとおり多勢に無勢ではありますが、しかし彼にとっては戦場で愛する主君を支え、屍山血河を作り出すことが武人の誉れであり――そしてその想いは、ここで存分に報いられることとなります。

 もちろんそれはあくまでも一瞬の光芒、彼と弟たち、そして信長を待つのは無惨な滅びの運命なのですが、しかしそれだからこそ輝く成利の生を描ききった本作は、やはり作者ならではのバトル歴史時代小説と言うべきでしょう。

 ちなみに作者の描く信長としては、やはり彼の生み出す「戦い」に翻弄される人々を通じて覇王の貌が浮き彫りとなる『覇王の贄』が必見であります。


『幽斎の悪采』(木下昌輝)
 『宇喜多の捨て嫁』で、血膿にまみれた宇喜多秀家の姿を描き出した作者が題材としたのは、タイトルにあるとおり細川幽斎(藤孝)。はじめは幕府に、次いで信長に仕えた藤孝は、明智光秀とは密接な関係にありつつも、変の際には彼に与せず、独自の動きを見せた人物ですが……本作はその彼の心中を、息苦しいまでに抉り出すのです。

 兄・藤英との賽による賭けの結果、実家である三淵家を出て細川家の養子となった藤孝。戦国乱世に翻弄されるまま、やがて信長に仕えることとなった彼は、敵に回った兄を一度は救ったものの、信長と光秀の手により無惨に奪い取られることとなります。
 配下に人の心を殺すことを強いて、意のままに操らんとする信長、強烈な上昇志向を持ち、かつての食客の身分から立場が逆転した光秀――この二人に挟まれた藤孝は、やがて兄の死の真相を知り、二人に復讐するため、そして自らが生き延びるために、周到に計画を練り始めることに……

 信長殺しは光秀ではない、ではないにせよ、その背後に他者の意志の存在を描く作品は少なくありません(冒頭の『覇王の血』もその一つでしょう)。しかし、信長と光秀の二人に恨みを持つ者が、自らが権力を握るためではなく、復讐のために計画を立てたという作品は珍しいのではありますまいか。
 そしてその主犯たる藤孝――あまりにブラックな主君に翻弄されるうちに己の心を殺し、冷徹な復讐鬼と化した彼の姿は、同様の運命を辿ったもう一人の秀家として感じられます。

 が、本作の真に唸らされる点は、結末間際に、本当に己の心を殺していたのが誰であったかが、藤孝のみにわかる形で描かれることでしょう。それにに気付いてしまった時、彼の心に去来するものが何であったか……
 目を覆わんばかりの人間地獄を展開しつつも、その中で人の人たる所以とも言うべき正の「情」の存在を描き出す(そしてそれがさらなる地獄を生み出すのですが)作者らしさが溢れる一編であります。


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