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2016.01.05

高嶋哲夫『乱神』下巻 そして彼の見つけた神

 日本に漂着した十字軍騎士たちが、鎌倉武士たちとともに再び日本に襲来する元軍と対峙する奇想天外な物語の下巻であります。思わぬことから日本で生活することとなったエドワード・ガウェインら騎士たちと、北条時宗ら武士たち……果たして彼らは、あまりに強大な元軍によく抗し得るのでしょうか。

 十字軍としてイスラム圏に攻め入ったものの、主君と友軍に見捨てられ、放浪と漂流の果てに、文永の役から2年後の博多に漂着したエドワード一行。幕府重臣である安達盛宗を救ったこともあり、辛うじて命長らえた彼らは、しかし鎌倉に連行され、そこで暮らすことを余儀なくされます。
 やがて、時の執権・北条時宗と、友情とも何ともつかぬ、不思議な交流を重ねることとなったエドワードは、来るべき元の再来に向け、軍事顧問的な役割を与えられることとなるのですが……

 エドワード一行の日本到着と、彼らが日本に馴染んでいく様が描かれた上巻に対し、下巻で描かれるのは、元軍との激突に向け、エドワードらと鎌倉武士が防備を進める姿と、ついに来襲した元軍との壮絶な死闘という一大クライマックスであります。
 しかし防備と言っても、いまだ日本の武士、特に文永の役の戦場から遠くに暮らす鎌倉の武士にとっては、危機感は薄い状態。さらに鎌倉武士の特色たる御恩と奉公の関係が、エドワードが進めんとする戦の準備を妨げます。

 というのも、当時の武士たちにとっては、戦は相手の領地を攻め取り、その結果として得られる恩賞を目当てに行われるものであって、国を「守る」という意識に乏しいのが現実。そしてそのためであれば抜け駆けなどは当たり前という状況なのですから……
 個々の兵の練度や武装では劣らぬ日本の武士たちが元軍に苦戦を強いられたのは、この戦に対する態度であり、集団戦への態度の違いだったわけですが――いわばその意識改革のために、エドワードは必死の努力を重ねることとなります。

 さらに、武士たちに「守る」という意識が薄い以上、守られるべき民たちに対しても、エドワードは武器を手にして戦うことを求めるのですが、それは武士たちと民たち、双方を戸惑わせ、反発させることに……


 上巻においても、東西の文化の違いが浮き彫りとなった本作ではありますが、しかし決戦を間近にしてもなお、いやそれだからこそより鮮明に浮かび上がるその隔たり。
 その隔たりを埋めることができるのか、それもタイムリミットが定められた中で――ある程度先の展開は予想できるものの、しかし文化の摩擦という普遍的なテーマを、緊迫感をもって描き出す手法はなかなかに見事であります。

 そしてそのサスペンスの中で同時に描かれるのは――そして本作の中心に描かれるべきものは――エドワードが何故この国のために戦うか、ということであります。

 いかに時宗に信任されたとはいえ、愛し合う女性が出来たとはいえ、所詮この国はエドワードにとっては異邦の地。もちろん鎌倉に半ば囚われに近い身であったとはいえ、戦のために九州に渡れば、大陸まではあと一歩――船を奪うなどして日本を脱出することも不可能ではありますまい。
 それが何故、彼をして、いや彼と彼の仲間をして、元と戦わしめたのか――それは、彼が、彼らが経験してきた戦いの姿と無縁ではありません。

 十字軍として、神の名の下に異教徒たちと戦ってきたエドワードたち。その死して後に神の国に迎え入れられるための戦いは、しかしその実、平和に暮らしてきた他国の人々を蹂躙し、その命を奪うことにほかならなかったのであります。
 日本に来なければ、あるいはそのことに目を瞑り、神のために(と己を言い聞かせて)戦ったであろうエドワード。しかしこの国で、かつての自分たちが行ってきたことが、元の手によって行われようとしたとき――彼が、彼らが立ち上がる姿は、時代を超えた人の姿として、ストレートに我々の胸に響くものがあります。

 そして同時に、そんなこの国の人間ではない、第三者たる彼らの目を通して描くことにより、一歩間違えると非常に「カッコいい」展開となりかねない物語に、一定の歯止めが加えられているのも、大いに評価できるところであります。


 神はどこにおわすのか。いや、神は本当にこの世界におわすのか――それはある意味、古今東西の多くの人々が抱く、普遍的な問いかけでありましょう。
 理不尽な侵略という極限の中で、エドワードの見つけた神はどこにいたのか。本当に神はいたのか……その答えは、本作の結末にあることは、言うまでもないのであります。


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