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2016.01.30

滝沢聖峰『ガンズ&ブレイズ』 この時のこの土地にいた、誰かの生き様

 戊辰戦争において旧幕府軍側で戦ってきた末、箱館にやってきた伝習歩兵・早川伝次と遊撃隊士・佐々木清四郎。陥落目前の五稜郭を脱出した二人は、新政府軍の残党狩りを逃れ、「脱走」としてあてどもなく広大な大地を彷徨う。伝次の銃と清四郎の刀のみを頼りにして――

 旧日本軍を題材としたミリタリーもので知られる滝沢聖峰は、その一方で数は多くはないものの、時代もの漫画を手がけています。その一つである本作は、明治時代の初頭の北海道(蝦夷地)を舞台としたユニークな作品。負け組の脱走兵二人が、江戸に帰るために放浪を続ける連作スタイルの物語であります。

 生粋の武士で彰義隊にも参加した佐々木清四郎と、元・火消し人足で伝習歩兵となった早川伝次――武士と町人、堅物と遊び人、刀と銃と、ある意味水と油の二人は、新政府軍相手に連戦(連敗)を続ける中で意気投合、いわゆる戦友という間柄。
 そして流れ流れてついに箱館は五稜郭まで来てしまった二人が、もはやこれまでと陥落寸前の五稜郭を脱走したのが、この物語の始まりであります。

 脱走してはみたものの、彼らにとって蝦夷地は未知の国。彼らの故郷たる江戸に帰ろうにも、薩摩藩の脱走軍取り締まり方・古賀武四郎が、彼らを脱走兵としてしつこく追いかけてくる中、彼らは居場所を転々と変えながら、逃亡生活を続けることになります。
 そんな中、彼らはかの土方歳三の愛刀を入手、そこには土方の遺骸の埋葬場所を記した地図が隠されていて……


 とくれば、なるほど、この遺骸を巡る冒険が物語の中心となるのか、と考えるのがある意味当然かと思いますが、しかし二人はこれをあっさりスルー。そんなものに構っていられないと逃亡生活を続けるのが、むしろ逆に痛快ですらあります。
 そう、本作は架空のヒーローの活躍譚ではありません。本作で描かれるのは、あくまでもこの当時のこの土地にいたかもしれない誰かの生き様。そしてそれを通じて描かれる蝦夷地の姿なのです。

 脱走兵に新政府の役人や開拓民、地回りに娼館、漁師に猟師、そしてもちろんアイヌ。さらには外国商人……伝次と清史郎が放浪の中で出会う人々もまた、この蝦夷地を表す一側面。
 決して格好良くない二人(何しろ途中で日雇いや用心棒はおろか、強盗にまで身を堕とすのですから……)が見た世界は、そのままこの当時の、この土地のリアルな有り様と言ってよいでしょう。


 しかし、そんな二人の旅にも、やがて終わりの日が訪れます。思わぬ歴史上の事件に巻き込まれた二人が、その果てに選んだ道とは……
 どこかもの悲しくも、しかし強い生命力を感じさせる彼らが行く道は、現代の我々にまで繋がる――そう考えるのは、決してセンチメンタリズムではありますまい。


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