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2016.01.21

片倉出雲『女賞金稼ぎ 紅雀 閃刃篇』 人を、己を殺し続けた旅路の果てに

 本庄宿での死闘で、父母と弟の仇である高波六歌仙を二人まで討った紅雀。残る四人を追って上方に向かう紅雀だが、その前に六歌仙の配下たちが立ち塞がる。無数の敵との死闘、初めて出会った心を許せる男性の存在――そして旅の果て、ついに頭領の高波軍兵衛を追い詰めた紅雀が知る真実とは……

 帰ってきた謎の覆面作家・片倉出雲の新作『女賞金稼ぎ紅雀』の、二ヶ月連続刊行第二弾であります。賞金稼ぎに身をやつし、苛烈な復讐旅を続ける紅雀の戦いもいよいよ佳境、様々な人々の思惑が絡まり合う中、彼女の復讐の刃が全てを断ち切ります。

 高崎藩勘定吟味役の娘に生まれ、何不自由なく育ちながらも、凶賊・高波六歌仙一党の手によって、父を、母を、弟を喪い、復讐のため賞金稼ぎの老抜け忍・黒鳶に殺人術を学んだ紅雀。
 賞金稼ぎに身をやつしつつ仇を追う彼女は、ようやくその痕跡を掴んだ本庄宿では、死闘の末に六歌仙のうち二人と、彼らが集めた賞金稼ぎ三十人あまりをただ一人で壊滅させた――というのが前作『血風篇』のあらすじであります。

 本作では紅雀が残る四人の仇の跡を追うこととなるのですが、しかし六歌仙たちも独りで行動しているわけではありません。その部下たち――いずれも殺人術を修めた猛者たち、その総数(前作で倒された者も含めて)四十四人、合わせて五十人の外道と、彼女は単身戦う運命にあるのです。
 しかも悪辣な六歌仙は、各地に手を回し、紅雀を凶悪な賞金首に仕立て上げ、賞金稼ぎたちに彼女を狙わせるという悪辣な策を取ることに。

 さらに彼女を襲うのは不可解な現実。六歌仙の頭目である高波軍兵衛は、何と彼女の生まれた高崎藩の勘定方支配の座に、今は納まっているというではありませんか。
 果たしてそれはいかなる絡繰りによるものなのか。あるいは、彼女の家族が殺された一件とも関わりが……? 疑心暗鬼に囚われながらも、紅雀の孤闘は続くのですが……


 一つの宿場町の中、そして悪人が立て籠もった屋敷の中という、閉鎖空間での死闘が描かれた前作に対し、紅雀が仇の後を追い、西へ西へ旅を続ける本作は、いわばロードノベルのスタイル。スタイルは大きく異なりますが、しかし全編これ殺陣殺陣殺陣! と言うべき死闘で貫かれているのは、これは前作同様であります。

 いつでも、どこからでも襲いかかってくる敵を迎え撃つことを強いられる紅雀ですが、しかしその強さは尋常なものではありません。
 刀を、鎖を、両手両足を、三度笠や合羽までも武器として使う彼女は向かうところ敵なし――凡手がそれをやれば、それはそれで興ざめになりかねないところですが、アクション描写の見事さやシチュエーションの面白さ、ストーリーとの絡め方において、少しも飽きさせることなく展開される死闘の数々は、作者の地力というものを感じさせます。


 しかし、本作で描かれるのは戦いのみではありません。本作で描かれるもの――それは際限ない殺し旅の中で、もう一つ彼女が殺したもの、彼女自身の心であります。

 仇討ちに命を賭けると決めた時から、女であることを、いや人であることを捨てた紅雀(ちなみに本作、安易に紅雀が「女」を武器にするシーンが皆無なのが嬉しい)。
 しかしどれほど凄惨な過去を持ち、どれほど強固な復讐心を持ちながらも、本当に人は人であることを捨て去れるものなのか――

 ある意味これは、復讐を扱う作品には付きものの、定番の問いかけではありましょう。しかし物語のピースの一つとして織り交ぜられたそれは、描かれる死闘旅の連続が苛烈であればあるほど、より一層、不思議な輝きを放つのであります。


 人も己も殺し続けた復讐旅。その果てに何が待つのか――そしてその先に何があるのか。本作で描かれたものは、その一つの答えではありますが、しかし全てではありますまい。
 紅雀の旅の、その先を待ちたいと……そう感じます。


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