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2016.02.20

水上悟志『戦国妖狐』第16巻 そして迎えたいくつもの決着

 長きに渡って人と闇(かたわら)、そして遠い過去からやってきた「無の民」との激闘を描いてきた『戦国妖狐』も、作者の言によれば本作は全17巻で完結――すなわち残すところはこの巻を含めてあと2巻となります。完結目前のこの巻では、いくつもの「決着」が描かれることとなります。

 自分たちの時代に迫る破滅を避けるため、千夜の強大な力を求める無の民。彼らの強力な術によって配下とされた無数の闇との戦いも、これまでの旅で培われてきた人と人、人と闇の繋がりによって、ようやく終わりが見えてきました。
 が、最後に残ったのは、無尽蔵な力を持つ雲の妖・万象王。悲しみを乗り越えて更なる力を得た千夜は、黒竜ムドに万象王を任せ、ただ一人――いや、己の身のうちの千の闇とともに、無の民と対峙するのでありました。

 ……というわけで、この巻の冒頭で描かれるのは千夜と無の民の最後の対決ですが、その場に加わったのが千本妖狐・山戸迅火の兄・猛。迅火の双子の兄の存在はこれまで予告されていた――というより設定上いなければならなかった――のですが、物語がここに及んで登場というのには驚かされます。
 しかも彼がここに至って提唱するのは、皆が幸せになる方法の話し合いだというのですから……

 そもそも、彼らの世界を襲う破滅の正体がこれまで語られてこなかった無の民。なるほど、その正体が明かされれば、あるいは千夜を犠牲にせずとも対策は取れるのかもしれません。そして確かに、その答えは示されるのですが――

 これまで、強大な力と力の激突を描きつつも、(特に第二部に入ってからは)決してその力の大きさだけが勝敗を決めるものではなく、力を用いる心の在り方こそが、それを決してきた本作。
 その意味では、ここで描かれるものは、実に本作らしい決着ではあるのですが……そこに残されるのは、大きな苦み。しかし、犠牲なしには得ることのできないものの重みと、その先にほのかに見える希望もまた、本作ならではの――いや、この作者の作品ならではのものでありましょう。


 ともかくも一つの戦いが決着した千夜たちですが、本当に彼らが決着をつけるべき相手は、暴走する迅火であり、彼を救うことこそが真の目的であります。そしてその準備は整った……と言いたいところですが、ここでもう一つ、千夜が決着をつけるべき相手の存在が示されることになります。

 それは、彼自身――彼の中に眠る強大すぎる力への恐れであり、そしてその力がもたらした彼にとっての「原罪」とも言うべき記憶であります。
 誰もが自分の中に抱える弱さや恐れ。それは地上では屈指の力を持つこととなった千夜においても変わることなく――いや、彼の力の源が、自分の中の無数の闇であるからこそ、より大きく感じられるのでしょう

 そしてそんな彼が何よりも恐れるものは何であったか――ここで描かれる「それ」は、あまりにも意外でありつつも、しかしやはり我々にもどこか馴染みのある想い。
 それだからこそ、その想いと対峙した千夜が――決して彼自身の力だけでなく、そしてそれだからこそ価値があるのですが――見つけた答え、彼自身がなりたかった自分の姿は、本当に、本当に感動的なものであります。

 ある意味、彼の旅はここで終わったのではないか――というのはいささか乱暴かもしれませんが、見事な決着であることだけは間違いないでしょう。

 そして、そんな彼だからこそつけられる、もう一つの決着があります。それは言うまでもなく、迅火との決着――すなわち、彼を救い出すこと。

 最終巻で描かれるであろうそれが如何なる形になるかはわかりません。しかしそれが間違いなく素晴らしいものであろうことは、この巻を読んだ今となっては、自信を持って言えるのであります。


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