北崎拓『天そぞろ』第2巻 自分が自分であることを示すための戦いへ
北崎拓とあかほり悟が、幕末の江戸にタイムスリップしてしまった女性編集者・楓と、屈託を抱えた浮世絵師の青年・源吾の数奇な運命を描く『天そぞろ』の第2巻であります。現代に戻るため、源吾に桜田門外の変の浮世絵を描かせた楓ですが、絵が失われたことで、二人の運命は大きく動くことに……
武士の実家を飛び出し、市井で浮世絵師となった源吾。自分の中にあるものを持て余す「そぞろもん」の彼が出会ったのは、千里眼の力を持ち、さる大店を甦らせたという楓でした。
実は楓は現代の漫画編集者。謎の浮世絵の取材をしていた彼女は、如何なる理由によるものか、幕末にタイムスリップしてしまったのであります。
そしてその浮世絵の作者こそは源吾――楓は彼を焚き付け、浮世絵を――この時代においては決して許されぬ題材である桜田門外の変を描いた絵を――描かせ、後世に残すことで、幕末と現代を繋げ、現代に帰ろうとしていたのですが……
という第1巻の展開を読んだ時には、楓が現れて早々にタイムスリップものの定番である元の時代への帰還の試みが描かれてしまい、少なからず驚かされたのですが、どうやら本作はそれが失敗した、ここからが本番という印象。
現代に帰れなくなってしまった楓は、せめて自分がこの時代にいた証を残そうと、源吾の浮世絵を、あるやり方でプロモート。現代人でなければ知り得ないある情報を元にしたその手法は大成功、源吾の絵は一躍江戸中で知られることに……
というわけで、ここで物語は、一種の業界ものに装いを変えた感があります。
その転換――もちろんこれはあらかじめ企図されたものかと思いますが――の原動力となったのは、楓のキャラクターがこの巻において掘り下げられたことでしょう。
第1巻では幕末人である源吾の視点から描かれていた物語は、この巻においてかなりの部分、(第1巻の時点では)謎の女性であった楓の視点に切り替えて描かれることになり、それによって物語の向かう先が、見えてきたように感じられるのです。
源吾と楓と――その背負った事情は全く異なるものの、考えてみれば二人が抱えるのは、ともに「自分が自分であることをこの世界に(この時代に)」示したいという想い。
もちろん深刻さは異なるわけですが、しかしその共通点を持つ二人が、どのようにこの先自分たちの道を切り開いていくのか……その舞台であり手段として、業界ものがチョイスされたというのは、なかなか興味深く感じます。
そして、自己実現への渇望にも似た想いを抱くのは、二人だけではありません。二人と同じくらい、いや後世に残るという点では遙かに強くその想いを抱く男、土方歳三の存在もまた、魅力的なのであります。
本作時点の歳三は、まだ何者にもなれていない中途半端な男。しかし楓は、その彼がこの先に為すことを知っているわけで――やはり有名人がいると盛り上がりが違う、というのは失礼な言い方かもしれませんが、主役二人とは別のアングルから物語を描く存在として、やはり気になる存在です。
しかし、物語の方向性は見えたとしても、その行き着く先はまだまだ全く見えないのが正直なところ。果たしてここから先、この物語で何が描かれることとなるのか……
それは時代もの、タイムスリップものという枠の中で、本作がどこまで自由な世界を描けるか、ということと繋がってくるのかもしれません。
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