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2016.02.26

鎌谷悠希『ぶっしのぶっしん 鎌倉半分仏師録』第4巻 合身! 人と仏と神の間で

 思わぬことから互いの半身を共有することとなってしまった少年仏師・想運と明星菩薩が、地神ミズチを操る平家残党と戦いを繰り広げる姿を、時にシリアスに、大部分コミカルに描く『ぶっしのぶっしん』の第4巻であります。平等院鳳凰堂に仕掛けられた鏡の迷宮に囚われた想運たちの運命は……

 平家復興を目論み、ミズチを操る平教経が京に潜み、何事かを企んでいることを、半人半狐の妖僧・命蓮から教えられた想運。
 兄弟子で運慶の長男・湛慶、伎楽アイドル、実は僧兵の茶経と桜とともに旅立った彼の前に立ちふさがったのは、しかし命蓮その人(?)でした。

 平等院鳳凰堂に作り出された鏡の迷宮に囚われた想運/明星・茶経と、分断されて取り残された湛慶・桜。無数の分身を産み出し、相手の攻撃を反射する鏡の迷宮に苦しめられる一行ですが、しかし迷宮の真の恐ろしさは、別にありました。

 それはあたかも浄玻璃の鏡のごとく、囚われた者の真実の心を暴くこと。脳天気という点で裏表のない想運はさておき、ここで暴かれた茶経の真実とは――
 それは、仏を斬ることに快感を覚える、一種のヤンデレとも言うべき狂気の貌でありました。

 嬉々として自分(明星)に刃を向ける茶経を、傷つけずに抑えることができるか。それは明星にとっては、仏として、自らを害せんとする者をも――もちろん傷つけることなく――救うのか、救うことができるのかという問い掛けと同義であります。
 そして悩み苦しんだ末に、想運と明星がたどり着いた答えは……


 様々に極めてユニークな要素を持つ本作において、まず第一に挙げられるのは、想運と明星の一心同体ぶりでありましょう。

 物語の冒頭で共にミズチによって体を縦に真っ二つにされ、生身と木製の仏身とが接合してしまった。想運と明星。
 姿は想運なれど、心の中は想運と明星の二人に分かれた彼らの存在は、人と仏が奇妙な形で共存する――人の世界に仏が奇妙な形で顕れる――本作を、ある意味象徴する存在と言えるでしょう。

 しかし基本的に対立することはないものの、二人は異なる人格(仏格?)の持ち主。その想いが完全に合一することはなかった二人が、しかし共に一つの想いを抱いた時――奇跡は起こります。
 それを言葉で表せば合体と変身……合身ということになりましょうか。

 ……いや、いきなり何を言っているのだと起こられそうですが、この巻の冒頭で描かれた二人の姿はまさにそれとしか言いようがありません。
 ヒーローの合体とは、変身とは、果たして如何なるもので、何のために行われるものか。それは異なる心を持つ者たちが一つの想いの下に体を合わせ、そしてその想いは変えぬまま、力を求めて現し身の有り様を変えることでありましょう。

 ここで描かれたものはまさにそれであり――そしてそれが、人と仏が共に在る姿の一つの理想を示すのには、大いに唸らされ、心打たれたところであります。


 この巻の後半で描かれるように、本作の敵役たる平教経が目指すのは、仏と人が共存するのではなく、神の力を借りて人が人の上に君臨する世界であります。
 そしてまた、その教経が倒さんとする頼朝が目指すのは――まだその詳細は明らかではないものの――人の世と仏界を一つに重ね合わせる総来迎。

 人を挟んで神と仏が全く相反する――しかしどちらも、己の意を叶えるために人ならざる者の力を借りんとしている点で共通なのですが――立場を取る二人の思想は、しかしここで示された想運と明星の関係とは、また異なるものがあります。

 おそらくはこの先で描かれるのは、この三者の思想の対立でありましょう。
 そしてこの三者が(想運はまあ、微妙かもしれませんが)、その周りの者たちが、突き詰めればそれぞれに救いを求めていることを考えれば、そこにやり切れぬ人の業を感じるのであり、想運と明星の在り方に、希望を見出したくなるのです。


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