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2016.02.25

『大帝の剣 5 聖魔地獄編』 決着! 「いま」この星に在る者として

 のんびりしている間に、全4巻(?)の文庫版刊行がスタートしてしまった『大帝の剣』の最終章であります。前の巻において、とてつもないスケールの世界観を提示してみせた物語は、飛騨高山に全ての登場人物が集結、全ての因縁に終止符が打たれる大団円を迎えることとなります。

 飛騨で待ち受けていた怪僧・祥雲と激突することとなった万源九郎と牡丹。それぞれが手にした三種の神器が激突した時、謎の力で消えた源九郎が転移した先――そこはタクラマカン砂漠に眠る巨大な宇宙船の内部であり、そこに待ち受けていたのはかつてイエスを導いた者・ガブリエルと、彼と敵対するゴータマ・シッダールタなのでした……!


 と、あまりの大風呂敷に、失礼ながら不安になってしまうのですが、しかし彼らの口から語られるのは、これまでの物語の背景に潜んでいた、そして源九郎や牡丹たちの思惑を遙かに超えたところで蠢く、この宇宙の命運に関わる物語であります。
 意志を持ち、全てを食らう大暗黒に抗しようとする者と、彼がもたらしたおりはるこん。遙か太古から「いま」に至るまで、それこそ人類の歴史すら左右するその企て――更なる宇宙からの来訪者までも巻き込んだその戦いの渦中に、源九郎たちはあったのであります。

 その一方、日本での戦いは続き、伊賀では土蜘蛛衆の思わぬ由来が語られたと思えば、その彼らの忍法も及ばぬ奇怪な次元でのバトルが展開。そして高山城ではついに武蔵と小次郎の「再戦」が始まり、それがまた新たな死闘に繋がっていくことになります。
 そしてついにそこに源九郎も加わり……


 いやはや、あまりにとてつもない方向に物語が向かった時にはどうなることかと思いましたが、物語は再び日本に戻り、全ての役者が集結しての決戦に突入。
 そしてそれにとどまらず、その先も展開は二転三転、これまたどこに向かうかとハラハラしたところで、物語は一つの着地を見せることになります。

 正直に申し上げれば、この長大な物語が始まった時の、剣豪vs忍者vs妖術師vs宇宙人の得体の知れぬ迫力は、物語の構造が見えてくるにつれ、薄れた感は否めません。
 当初の構想から異なり、タクラマカン砂漠に向かうことなく(一度は行ったことは行きましたが)終わった点に不満を持つ向きもあるでしょう。

 何よりも、これまで散々触れてきましたが、物語の根元にあるものが、半村良の『妖星伝』の影響をあまりに受けすぎているのは、個人的にはどうかと思われた点ではあります。


 しかし――それでもなお、私は本作を読み終えて、「ああ、面白かった!」と感じることができます。

 確かに物語が始まった時のバトルロイヤルの興奮は、(文字通り)その内に潜むものが見えてきた時点で一端冷めたものの、この巻で繰り広げられた一種変則的なバトルの面白さは、その構造が見えてこそ描けるものでありましょう。
 また、タクラマカン砂漠については、むしろそこに向かう旅路を描かなかったことで、あくまでも「時代劇」の枠内で本作を終えることに成功したと――もちろんその中にはとてつもない飛躍があるのですが、しかし結末がこの国の中であったことは大きい――感じるのです。

 そして迎える物語の結末において源九郎が、牡丹が抱く想い――それはこの特異な物語ならではのものであると同時に、源九郎が、牡丹が、彼らのオリジンがあってこそ導かれるものであるのが嬉しい。
 そしてその果てに源九郎が至る境地とその描写は、作者ならではのものであることは間違いありますまい。


 命が異常なまでに満ちあふれた星に生まれた人の存在を、ある意味極めて悲観的に描いた『妖星伝』に対し、その価値判断には立ち入らぬまでも、「いま」そこに在る人々の力強い姿を描いた本作(それは、ある意味人類の存在を全肯定した『虚無戦史MIROKU』とはまた異なる本歌取りでありましょう……というのは蛇足ですが)。

 終わってみれば呆気ない(背景はともかく、第1巻冒頭からはごく短い期間の物語であるわけで)印象もありますが、まさに源九郎のような豪腕で一気に振り抜いた感覚は、どこか爽快でありました。


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