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2016.02.07

畠中恵『うずら大名』 悪人退治の「快」さの向こうの現実の「痛」み

 これは全くの個人的な印象ですが、『○○大名』というタイトルの作品には、痛快な物語が多いように思います。個性的な特徴(それが○○の中身)を持った、大名としては破格の主人公が、弱きを助け強きを挫く――そんな内容の。本作はまさにそんな作品、鶉を連れた大名と泣き虫の名主が活躍する物語です。

 本作の主人公の「自称」大名・有月は、見目麗しく頭の回転も速く、そしてかなりの剣の達人。自分の家で育てている鶉のうち、勇猛果敢で賢い白鶉・佐久夜を巾着に入れて連れ歩くという、なるほど「うずら大名」であります。
 本作はこのうずら大名・有月をいわばホームズ役に、そして泣き虫で東豊島村の名主の豪農・吉之助をワトスン役にして展開する物語なのです。

 大名と名主というのは一見不思議な取り合わせですが、実はこの二人は剣術道場の同門。三男坊や四男坊、家にも町にも居場所のない冷や飯食いばかりが集まる道場で、まさにその冷や飯食いだった二人は汗を流していたのです。
 しかし運命は不思議なもの、十数年経ってみれば、どちらも当主が亡くなったことで家を継ぎ、それぞれ家族や下の者を背負う立場になっていて……と、そんな二人が再会したことから、この物語は始まります。

 舞台となるのは江戸時代もだいぶ経った、太平の世の中で武士が埋没し、産業の進歩から、商人・農民が力を蓄えていった頃。武士は食わねど……とはいかず、大名が豪商・豪農に金を借り(大名貸し、というやつであります)、時には身分を与えていた時代です。

 しかし近頃江戸近辺で相次ぐのは、そんな豪農の不審死。豪農とはいえたかが百姓と言うなかれ、大名貸しをしていた豪農が死ねば、そこに金を借りていた大名家は金を借りる宛がなくなる=藩の財政破綻というわけで、大名たちにとっても一大事です。
 そしてまさにその豪農である吉之助も、命を狙われたことをきっかけに有月と再会し、ある事情から一連の不審死の背後を探ることになった有月とともに、数々の事件に巻き込まれるのでありました。


 『しゃばけ』シリーズをはじめとして、作者が得意とするのは、個性的なキャラが登場する、ユーモラスでミステリタッチの連作物語ですが、本作もまさにそれに当たります。

 一見非の打ち所のない好漢でありつつも、時にひどく人の悪いところを見せる有月、危ない目に遭ったりするたびにすぐ涙を見せる吉之助。そして気性が荒く、「御吉兆ーっ」という鳴き声とともに飛び出してくる巾着鶉の佐久夜……
 マスコットキャラまできっちり設定されたキャラ配置に加え、物語展開も個性的。先に述べたとおり武士が金の力の前に屈しつつある時代、それを象徴する豪農、大名貸しという存在を中心にした物語は、よそではなかなか見られないものでありましょう。

 特に物語が徐々に進むにつれて明らかになる大陰謀は、一見地味なようでいて、実は徳川幕府の前提を根幹から揺るがしかねぬもの。「江戸は天下分け目の合戦の時!」という帯の文句が決して大げさではない展開に繋がっていくのには、ただ驚かされるばかりでした。


 しかし本作のさらに見事な点は、そのユニークな物語の趣向が、かつて冷や飯食いだった有月と吉之助の存在と重なっていく点でありましょう。

 明日の自分に全く希望の持てず、ひりつくような想いを抱えて暮らしていたものが、ある日突然、皮肉な運命の変転で、全く異なる立場になった二人。
 そんな彼らの姿は――吉之助が有月の家の大名貸しとなるのも含めて――作中において様々な形で描かれる身分の変転の象徴とも言うべきものでありましょう。

 そしてその一方で、彼らのようになれなかった者の存在をも、物語は描き出します。何が彼らを分かったのか、他に道はなかったのか……その答えを誰よりも知るのは、有月であり、吉之助でありましょう。

 冒頭で私は、本作を痛快な物語と述べました。それは決して嘘ではありませんが、しかし本作に描かれるのは、ヒーローが悪人を退治する「快」さだけではありません。同時に描かれるのは、ままならぬ現実の「痛」み――そしてその二つの組み合わせは、作者の作品全てに通底するものであります。

 やはり作者ならではの作品と申し上げるべきでありましょう。


『うずら大名』(畠中恵 集英社) Amazon
うずら大名

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コメント

いつもながら楽しく読みました。
やりとりがすごくよかったです。
今後の作品も楽しみです。

投稿: 藍色 | 2017.02.10 12:09

藍色様:
ちょっと難しいかもしれませんが、続編も読んでみたいですね

投稿: 三田主水 | 2017.02.13 00:10

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