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2016.02.05

小林薫『大奥怨霊絵巻』 霊媒姫君と霊感将軍、怨霊に挑む

 大河ドラマで堺雅人が活躍しているのを見ると、やはり思い出すのは『新選組!』の山南敬助ではありますが、『篤姫』の徳川家定も、その役どころから印象に残るキャラでした……と、いささか強引な前フリですが、その篤姫と家定を主人公とした、一風変わった時代伝奇ホラー漫画が本作であります。

 徳川十三代将軍の家定の正室として迎えられた篤姫。しかし彼女の前に現れた家定は、見目麗しくはあるものの、武士の頂点に立つとは思えぬようなだらしない格好をして、昼日中から遊びほうけているような一種の怪人物でありました。

 その頃大奥では、通常では考えられないような死に様を遂げた者が幾人も出るなど、奇怪な事件が続発。その背後に、大奥で数多く伝わる怨霊の存在を噂する者も少なくない状況でありました。

 と、生まれついての優れた霊感で、その怨霊たちと密かに渡り合っていたのが家定。将軍位を巡り、ある人物に命を狙われたことから暗愚を装っていたいた彼は、今また徳川家に仇なそうというその人物の企みで解き放たれた悪霊たちを封じるため、強力な修験者としての力を持つ将軍付御年寄・瀧山とともに戦い続けていたのであります。
 そんな家定の裏の(?)顔を知らぬ篤姫は、筋金入りのリアリストであったことから、怨霊の存在を真っ向から否定。しかし何と彼女が生まれついての強力な霊媒体質であったことから、家定の怨霊退治に巻き込まれることに……


 約250年にわたり、江戸城の中に存在した女の世界・大奥。その外部からはうかがい知れぬ世界では、数々の怪談・奇談が伝わっていたことは、様々な記録が記す通りであります。

 全5話(最終話は前後編)で構成される本作は、そんな「実際の」大奥の怪談・奇談を題材とした物語であります。
 天守閣跡で奇怪な死を遂げたという御末・あらし、徳川綱吉を殺害し自分も命を絶ったという正室・鷹司信子、大奥の井戸に身を投げた使番・染次、城内の乗り物部屋の駕籠の中から無惨な姿で見つかった祐筆・おりう(おりゅうとも)、そして天璋院でない方の篤姫の命で大奥の大火の中に消えた御中臈・こや(てやとも)――

 本作に描かれる全てのエピソードは、「実際に」大奥であったと「伝えられる」ものばかり。
 鷹司信子とあかずの間の逸話などは、あまりにセンセーショナルな内容ゆえに、様々な物語の題材となっている感もありますが、それ以外の逸話も、よくぞこれだけ集め、アレンジしてみせたものだと感心させられます


 もっとも本作の基本ラインは、ホラーといってもガチガチなものではなく、時に時代考証を(意図的にそして豪快に)無視したギャグも入る、コミカルなもの。
 真面目な方が読んだら怒り出しそうな描写もありますが、大奥の凄惨な陰の部分を描く物語を、いい意味で中和しているという印象があります。

 何よりも楽しいのは、あまりに破天荒な家定に反発を感じていた篤姫が、いつしか彼に惹かれ、その力になっていく様で――それはそれでお約束ではありますが、しかし世間知らずという点ではどっこいの二人はなかなかのお似合いで、何とも微笑ましいのであります。
(その篤姫が自分の想いを自覚する展開が、彼女が、取り憑かれた相手の記憶するら読み取れるという優れた霊媒であるという本作の設定を踏まえたものなのがまたうまい)

 ラストのとんでもない(本当にとんでもない!)オチも含めて、肩の力を入れずに読める本作。
 時代伝奇ホラーとしてそれが正しいかはわかりませんが、少なくとも本作の家定の脳天気な笑顔を見ていると、これはこれで……と思えてしまうのです。


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