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2016.02.11

畠中恵『明治・金色キタン』 文明開化に消えたモノ、それを語るモノ

 築地の甫峠寺跡へ出向くお偉方の護衛をすることとなった銀座の派出所の巡査、滝と原田。しかしそこには祟りの噂があり、果たして二人は思わぬ騒動に巻き込まれてしまう。廃仏毀釈の最中に寺が、仏が、僧が消えたという甫峠寺村を巡る数々の事件に、滝と原口、仲間たちは否応なしに関わることに……

 明治も20年を過ぎ、江戸から東京と名前を変えてもなおも闇深い街を舞台とし、その闇の中で蠢く人ならざるものたちの姿を描くシリーズの第2弾であります。

 物語の中心となるのは、銀座の掘っ建て小屋のような交番に勤め、日夜事件や揉め事の解決に奔走する滝と原田の巡査コンビ。見かけによらずどちらもかなりの熱血漢である二人は、街の住人――特にその裏側で暮らす者たちに、時に恐れられ、時に敬われながら、忙しい日々を送っております。

 しかしこの滝と原田は――そして彼らの友人である牛鍋屋の百賢と妹のみずは、煙草商の赤手、三味線の師匠のお高は、いずれもごく普通にこの東京に暮らしつつも、時折どこか普通の人間とは異なった部分を見せます。
 それもそのはず、実は彼らは……

 というわけで、文明開化を迎え、妖たちがどこかへ消えてしまった――そして人間たちからも否定され、笑い飛ばされたかに見える時代に生きる「彼ら」を描く本シリーズ。
 前作は個々のエピソードは基本的に独立した短編集でしたが、本作はやはり短編の積み重ねでありつつも、それらに通じる太い柱が存在する連作スタイルであります。

 その柱とは、廃仏毀釈――ここでその内容を説明するまでもない有名な史実の背後に潜んだ謎が、滝と原田たちを翻弄することになります。
 江戸時代は菜種油の産地として江戸でも知られ、今は筑摩県(現代の長野県+飛騨地方)に組み入れられた甫峠村。かつてこの地にあった五つの甫峠寺は、廃仏毀釈の嵐の中で廃され、それぞれの本尊も行方不明になったというこの村では、五つの仏が揃った時、祟りにより村は無くなるという不気味な言い伝えがありました。

 同様に祟りが噂される、築地にあった甫峠寺の別院跡に出向くという甫峠村出身の内務省のお偉方・阿住の警護を押しつけられた滝と原田。彼らはそこで、何故か赤手と出くわすのですが、突然仏塔が倒壊し、その騒ぎの中で赤手が行方不明に……

 そんな事件に始まり、新興宗教めいた互助会の解散騒動や、女学生の写真から始まった人気投票騒ぎ、阿住の隠し子だという青年の登場、上野競馬場で起きた華族の狙撃事件と、次々起きる厄介な事件。
 主に阿住に振り回される形で首を突っ込む羽目になる滝と原田(特に滝)ですが、事件のたびに彼らの前にちらつくのは、あの五つの仏の影で……


 前作では、明治の東京に潜む妖の姿以上に、彼らの存在を信じず、あるいは利用すらしようとする人間たちの姿が描かれましたが、本作ではこの「祟り」の存在が中心にあることで、より妖サイドに引き寄せられた印象のある本作。
(この辺り、前作で、ある程度レギュラー陣の「本性」が描かれたことも大きいでしょう)

 その意味では、ある意味、より作者らしい雰囲気となったという気もいたしますが、人間の心の、この社会の陰の部分を描き出す――それはもちろん、他の作品にも存在しますが、本シリーズはそれがより色濃い――苦さ重たさ、そしてどこかもやもやとしたものが残る不気味さは、健在であります。

 そしてその中心にあるのは先に述べたとおり、廃仏毀釈。
 冷静に考えれば、国全体で時にとんでもない蛮行を伴って行われたこの強制的な変革の陰には、確かに様々な犠牲が存在したのであり――それはある意味、明治維新、文明開化といった時代の荒波に消えたモノたちの象徴とも言えるものでありましょう。

 しかし、それを描き出すのに、声高にその負の部分を訴えるのではなく、その消えたモノ自身に語らせるというのは、まさに本作でなければできない芸当であり――それこそが本作の、本シリーズの楽しさ、そして独自性に繋がるものと言うべきと感じたところです。


『明治・金色キタン』(畠中恵 朝日新聞出版) Amazon
明治・金色キタン


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