和田はつ子『鬼の大江戸ふしぎ帖 鬼が飛ぶ』 鬼と人、鬼と鬼の間で
人に紛れて無数の鬼が暮らす江戸で、鬼狩りの四天王の血に目覚めた同心・渡辺源時の活躍を描く極めてユニークな時代ファンタジー『鬼の大江戸ふしぎ帖』の続編が登場しました。今回もこの世界観ならではの奇妙な事件が続発する中、源時は人と鬼、鬼と鬼の間に立って奔走することになります。
裕福な唐物屋の生まれながら、故あって同心株を買い、定町廻り同心となった源時。ある時、急に人に入り混じった人ならざるものたち――鬼を見るようになった彼は、やがて自分が古より鬼と戦ってきた「四天王」の血を引くことを知ります。
実は江戸は、人よりも多くの鬼が住む地。蚊蜻蛉鬼、狐鬼、狼鬼、鼠鬼……様々な種族に分かれた鬼たちは、人の中に混じり、人の顔をして暮らしてきたのでありました。
しかし鬼だからといって、邪悪で凶暴というわけではありません。そして人だからといって、善良で温厚なわけでもありません。鬼狩りとして、町方同心として――江戸の平和を守るため、源時は人と鬼にまたがる事件解決のため、奮闘することになります。
というシリーズ設定を受けて展開される本作は、全4話の連作スタイルであります。
据物斬り師を営む虎(猫)鬼の副業である人肝から作られた薬を巡る怪事件を描く「鬼薬」。鼠鬼の老婆が殺され、下手人として疑われた源時が奔走する「鬼が飛ぶ」。富裕な狐鬼たちの残酷な成年の儀式が、思わぬ惨劇を招く「鬼の呪縛」。江戸中で狼鬼が悪者扱いされる中、源時たちが人狼となった青年と出会う「鬼が怖い、人が怖い」……
先に正直に申し上げれば、妖怪時代小説として食い足りない部分はあります。源時にとっては(そしてもちろん我々読者にとっても)未知である鬼の能力が、時に秘伝の巻物で、時に手下の蚊蜻蛉鬼の花吉らの解説であっさりと語られてしまうのは、厳しい言い方をすれば、興醒めの印象は否めません。
しかしその一方で、本作の世界観ならではの個性的かつ魅力的なエピソードも描かれているのもまた事実。特に第3話の「鬼の呪縛」には唸らされました。
かつて先祖たちが野山で獲物を狩っていた時の名残として、店の跡を継ぐ際に、鼠鬼の娘を攫って弄ぶという非道な儀式を行っていた狐鬼の商人たち。その事実を知った源時がそれを止めようと苦心する中、儀式を待ち望んでいた狐鬼の若者が何者かに食い殺されることに……
人ならぬ鬼ならではの残酷な風習(しかし狐鬼は富裕な商人が、鼠鬼は庶民が多いという設定には考えさせられるものがありますが)という状況を踏まえて展開するストーリーは、まさに本作ならではのものであります。
しかしそれに留まらず、事件を引き起こした者にもまた、ある意味止むに止まれぬ事情が――それもやはり本作ならではの――あって、というのが実に面白いのです。
(その中でも、やはり先に述べた通りの欠点はあるのですが……)
そしてその中で浮かび上がるのは、人であり、鬼狩りでありつつも、鬼たちもまた江戸の住人としてその平和を守ろうとし、そして一口に鬼と言っても様々な種族が存在する中で、その目的のために鬼たち同士の架け橋ともなろうとする源時の存在感であります。
それが鬼狩りとして正しい姿であるかどうか――それはわかりませんが、しかし彼の姿は、人として、町方同心として、大いに納得できるものでありましょう。
そしてこの第3話では、新たなる鬼狩りの四天王が登場。これがまた非常にユニークな、一筋縄ではいかないようなキャラクターである上に、さらにこの先の世界観の広がりにも繋がってくるのではないか……というところがあるのも興味深い。
独特の世界観とそこで繰り広げられる物語がどこまで行くのか……気になってまいりました。
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