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2016.02.12

風野真知雄『女が、さむらい』 伝奇とラブと……二重のromance見参

 北辰一刀流千葉道場の筆頭剣士の秋月七緒は、偶然、何者かに毒殺されかけた男・猫神創四郎を助け、彼が奪われた刀を取り返すが、その刀は徳川家に仇なすという村正だった。時を同じくして江戸に次々現れる村正。実は村正に関する密命を受けてた御庭番であった猫神とともに、七緒は事件の渦中へ……

 これだけの作品を刊行しながら、まだまだ新しいアイディアに満ちた作品を発表してくる風野真知雄の新作は、やはり作者ならではの極めてユニークな活劇の開幕篇であります。

 時は江戸時代後期、北辰一刀流・千葉周作の玄武館、鏡新明智流・桃井春蔵の士学館、神道無念流・斎藤弥九郎の練兵館と、いわゆる江戸三大道場が隆盛を極めていた頃。
 ……が、泰平の世に慣れすぎたのか、男たちは軟弱というかゆとりというかさとりというか、とにかく無気力。女を口説く気力もない男たちに替わりというべきか、主人公の秋月七緒は、千葉周作門下は目下筆頭の腕前になってしまったという状況であります。

 その七緒、やっぱりと言うべきか、色恋にはほとんど興味がなかったものが、長州藩邸用人の父に無理矢理押しつけられて、薩摩藩の重職の息子(で七緒の追っかけ)とお見合いする羽目になるのですが……その会場の料理屋の隣の座敷で騒動が起こります。
 何者かに毒を飲まされ、刀を奪われたという客の男・猫神創四郎。刀を奪った一味を追いかけた七緒は敵の群れを蹴散らし、刀を取り返すのですが……


 正直なところ、舞台設定だけを見ると(現代社会の風刺が効き過ぎて)もはやファンタジーのような印象もありますが、ここから展開していく物語は、実に伝奇テイストで面白いのであります。

 実は創四郎の正体は御庭番。西国の某藩が集めているという村正を奪う命を与えられた彼は、首尾良くその一本・月光村正を手に入れたものの、毒の後遺症で、命は取り留めたものの戦うのはおぼつかない身になってしまったのでした。
 そんな中、江戸には第二・第三の村正が出現。その存在を巡り、薩摩藩・尾張藩が暗躍し、さらに刀狩りをはたらく女剣士や、武器マニアのイケメン音曲師などの怪人物も登場、猫神の属する御庭番も、二派に分かれて暗闘を繰り広げるという状況であります。

 そしてなりゆきから創四郎を救い、次々と起きる事件に共に巻き込まれる中、いつしか創四郎に惹かれるようになった七緒。二人の運命は……


 というわけで、タイトルからうかがえるとおり、内容に直接の関係は(今のところ)ないものの、『妻は、くノ一』『姫は、三十一』の流れを汲んだ、伝奇活劇+ラブロマンスという、二重の意味でromanceな本作。

 先に述べた通り、舞台設定はちょっと首をかしげるところがありますが(まあ、女性上位社会を皮肉りながら、マチズモも否定するのは作者らしいところ)、独特の緩さと苦さの中で、個性的なキャラクターが入り乱れる楽しさは、やはり作者ならではのものでしょう。
 そして伝奇ものの王道とも言うべき秘宝(この場合は村正)争奪戦に、江戸三大道場+αの剣士たちが絡むという構図はやはり大いに盛り上がるところです。

 果たして物語がどちらに転がっていくか、今の時点では全くわからないところではありますが、しかしこれまで同様、安心して楽しめるシリーズになるであろうことは、間違いない……そんな感触であります。


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