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2016.03.02

『エージェント・カーター』シーズン1 喪失と希望の先に

 隙をみてはアメコミネタをブッ込む本ブログですが、本作は終戦直後の時代を描いた、それも非常にクオリティの高い作品ゆえご勘弁下さい。敏腕女性エージェントが活躍するスパイアクションにして、『キャプテン・アメリカ ザ・ファーストアベンジャー』のその後の世界を描く連続ドラマであります。

 第二次世界大戦末期、超人兵士キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースが、人類を救って氷の海に消えて数年後の1946年。スティーブの戦友であり恋人であったペギー・カーターは、米国の秘密諜報機関SSR(戦略科学予備軍)のエージェントとなったものの、男社会の中では彼女は相手にされず、仕事といえばコーヒーを淹れたり書類を整理を整理したりという毎日でありました。
 そんな中、キャップの生みの親の一人であり、スティーブとペギーの親友でもある実業家・大発明家ハワード・スタークの発明が何者かに盗み出され、ブラックマーケットに流出。SSRはハワードが自ら流したと見做し、国家反逆罪で彼を指名手配します。

 ペギーは、ハワードから身の潔白を晴らすことを依頼され、ハワードの執事のジャーヴィスとただ二人、周囲にも秘密のまま危険な潜入捜査を繰り返すことになるのですが――その前に「リヴァイアサン」を名乗る謎の存在と暗殺者たちが立ち塞がります。
 リヴァイアサンとは何者なのか。大戦中にロシアで起きた惨劇とは。ハワードが隠した真実とは。そして敵の真の狙いとは……SSRの同僚をも敵に回したペギーの孤独な戦いが繰り広げられることになります。


 と、キャップがいなくなった後の世界を描く本作は、ヒーローものというより、ほとんど生身の人間が繰り広げるスパイアクションといった趣の作品。それゆえ見始めた時はいささか地味な作品かな……と感じましたが、その印象は全く良い意味で裏切られました。

 頭脳の回転も戦闘力も超一流のヒロインが、マチズモ全開の男社会の中で、自分のこれまで培ってきたスキルをフル回転して次々と難局を乗り越えていくのは実に痛快(特に、自分がモデルの役立たずのヒロインが登場する、うんざりするくらいステロタイプなキャップのラジオドラマをバックに悪党を叩きのめすシーンは、色々な意味で凄いの一言)。
 その相棒となるのが、慇懃を絵に描いたような――そしてスパイとしての能力ははからっきしの――英国人執事というギャップも、何とも楽しいのであります。

 そしてマーベル製作の映像作品だからして、他の作品とのリンクもまた見所でありましょう。ハワードが『アイアンマン』のトニー・スタークの父であることは言うまでもありませんが、同作ではAIの名であったジャーヴィスのモデルとなった人物が登場するというだけでもたまりません。
 さらに、おそらくはあの人物の先輩とも言うべきキャラクターが登場したり、漫画でもキャップに幾度も絡んできたヴィランが思わぬ形で登場したりと、知らなくても面白いが、知っていると猛烈に面白いという仕掛けは相変わらずであります。


 しかし――物語が進んでいくにつれ、本作の魅力はそれらにのみあるわけではないことが、強く伝わってくるようになります。

 先に述べた通り、優れた能力を持ちながらも、男社会の中で黙殺されてきたペギー。そんな彼女の敵は謎の暗殺者たちだけではなく、そうした周囲の無理解でもあります。
 それゆえ、物語当初は、彼女のボスたる支局長やいかにもなエリート同僚が、実に憎々しく見えるのですが……しかし、彼らにもまたそれぞれに信念があり、縛るものがあり、そして何よりも、それぞれ過去に喪ったものがあることが、やがて見えてくるのです。

 そう、本作においては、ペギーだけでなく、彼らSSRの男性陣、そしてヴィランたちに至るまで――ほとんど全ての登場人物が、何らかの喪失感を抱いています。
 それは愛しい人や家族、あるいは自分自身の肉体の一部と様々ですが……しかし共通するのは、それが「あの戦争」が、言い換えればその時代がもたらしたものであること。

 そしてその中でも最大の喪失感を抱えるのが、キャップを失ったペギーであることは言うまでもありませんが、最終話のクライマックスにおいて、もう一人同様の想いを抱く者の胸中が語られるのには、ただ涙涙……
(戦争中の連合国にとっては希望の象徴だったキャップが、戦後の二人にとっては喪失の象徴となる構図も胸を打たれます)

 本作は、舞台となる時代に寄り添った、その時代あってこその物語(もちろんペギーがぶつかる男社会の壁もその一つですが)であり、その意味において優れた「時代もの」であると――些か牽強付会ながら――感じたのであり、それが本作をここで取り上げる所以であります。


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