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2016.03.23

逢巳花堂『一〇八星伝 天破夢幻のヴァルキュリア 弐』 梁山泊の死闘! そして物語が向かう道

 天命の巫女に反逆者として追われることとなった燕青と林冲。旧知の王倫が籠もるという梁山泊に向かった二人は、そこで朱貴・杜遷・宋万の三人の仙姑と出会う。王倫の言葉に従い、梁山泊の地下に眠る絶大な力を秘めた宝貝を目指す燕青たち。しかしその頃、新たな討伐軍が梁山泊に迫っていた……

 『水滸伝』の一〇八星が、異能を持つ一〇八人(?)の美少女・仙姑として転生した世界。そこで対仙姑部隊たる討仙隊に所属しながらも、同僚・陸謙の裏切りにより、隊を追われ、お尋ね者として放浪を余儀なくされた燕青と林冲が向かう先――それは梁山泊、言うまでもなく、原典において一〇八人の豪傑が依った自由の砦であります。

 が、原典においてはその梁山泊も、元は彼らのものではなく、王倫という書生崩れの賊から奪ったものなのですが……さて、本作は、原典のまさにその部分に当たる物語を描きつつも、大きく違った展開を見せることとなります。
 何しろ本作の王倫は、絶大な力を持つオーパーツ・宝貝の研究者である異国の美女という設定。討仙隊の協力者として、燕青や林冲とは旧知の間柄である彼女は、一足先に都を離れ、途中出会った朱貴たち仙姑とともに、梁山泊に訪れたのであります。

 しかし如何に仙姑たちが一人一芸の異能――朱貴は鰐ならぬ恐竜(!)への変身、杜遷と宋万が巨大機械兵「摸着天」「雲裏金剛」の召還――の持ち主とはいえ、彼女たちはわずか四名の女性。そこに燕青と林冲を加えても六人にしかならぬ状態で、何故王倫はこの梁山泊に籠もる道を選んだのか?
 それは、梁山泊が数々の宝貝が眠る地であり、そしてその中でも最強クラスのもの、地形を自在に変化させるという山河社稷図が地の底深くに眠るためでありました。

 かくて燕青たちは、奇怪な罠と番人たちが蠢く地底迷宮に潜り、その先の伝説の宝貝を求めることになったのですが、しかしそこに迫るのは、高キュウが送り込んだ新たなる刺客。党世雄や劉夢竜ら討仙隊水軍と、かつて燕青と林冲に捕らえられた仙姑・楊志!
 圧倒的な戦力差を覆すためには、伝説の宝貝を甦らせるしかない。しかしその先で燕青たちを待っていたものは……


 いかにもライトノベルらしくと言うべきか、本作の前半部分は、女の子だけの梁山泊(申し遅れましたが、本作の梁山泊には一般兵はおりません。いるのは王倫、燕青と仙姑たちのみ)でただ一人の男である燕青が、ラッキースケベを(主に朱貴相手に)連発する展開が続く本作。

 この辺り、苦手な方は苦手かもしれませんが――しかしそのやり取りの中で、徐々に朱貴の人となりが浮き彫りとなっていくのは巧み――打って変わって繰り広げられる官軍との、楊志との決戦、そしてその先の……は、まさしく超水滸伝とも言うべき、人の域を超えた豪傑、いや仙姑が繰り広げる能力バトル。原典のイメージを踏まえた各人の能力も面白く、本作ならではの味付けを存分に楽しむことができました。

 さて、先に触れたとおり本作で描かれるのは、原典でいえば林冲の放浪から初期梁山泊入り、そして梁山泊の頭領交代のくだりなのですが、しかし、原典とは大きく異なり、本作における王倫とは燕青は旧知の仲。記憶喪失の彼にとっては姉のような存在であった王倫が、果たしてどのような役割を果たすことになるのか? その答えは、故国を離れ、はるばる東の果ての宋を訪れた王倫が真に望むものにあります。……それは、燕青の、林冲の、そして梁山泊に集った敵味方全ての運命を左右することとなるのであります。

 そして、その王倫の望みに対し、燕青がどのように答えたか? それをここで明かすことはできませんが、ただ一つ、その言葉こそは、本作が向かうべき道をはっきりと示したものであり――そしてそれは同時に、作者にとっての水滸伝という物語の在り方を示すものでしょう。

 女体化水滸伝といえば際物のように感じる向きもいらっしゃるかもしれませんが、いやいやその中心を貫くのは、水滸伝という――見る者、描く者によって様々に姿を変える――物語への確かな眼差しであります。
 この先もそれを見続けたい、その向かうところを確かめたい……続編を、強く強く望むところです。


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