おやまだみむ『おえどかしばな』 菓子職人と有名人たちの「味な」コメディ
江戸時代は様々な町人文化が花開いた時代ですが、その一つに菓子があります。茶道の影響で発達した上菓子だけでなく、時代が進むといわゆる駄菓子も登場し、庶民にも身近なものとなるわけですが……本作はそんな菓子作りに燃える、しかし気弱な職人と、数々の有名人が織りなすコメディであります。
菓子職人の咲太郎は、腕は良いのだけれども気が弱く、なかなか芽が出ない青年。身寄りがないことから、遊び人らしい謎の青年・雪丸の長屋に転がり込み、(半ば野次馬の)雪丸とともに、試行錯誤の毎日であります。
本作は、そんな彼が店を持つことを目指して奮闘する姿を描く、一種の職人もの・人情ものでありますが、何と言っても一番の魅力は、この時代の様々な有名人たちが登場することでしょう。
汚い格好をして無愛想な爺さんと思えば、ほとんど住所不定の天才浮世絵師だったり(彼とは名コンビの読本作家も登場)、当代珍しいほどの殺気を漂わせた強面の武士と思えば、御様御用で知られたあのお侍さんだったり……
その他にも猫大好きで熱血漢の浮世絵師志願の若者やら、子供は優等生の不良旗本親父等々、どこかで見たような連中が登場して、咲太郎の菓子と絡んでいくのは、実に楽しいのであります。
もちろんそれは、フィクションならではのディフォルメではあるのですが、しかし細かい史実(例えば、面白道中記が大ヒットした戯作者が、自分で挿絵も描いていたなど)を押さえた人物造形・物語展開は、なかなかにニヤリとさせられるものがあります。
主人公である咲太郎のキャラ付けである眼鏡も、一見ちょっと無理があるようでいて、しかし実は……というのも良い。(だから雪丸の月代は見逃して下さい)
肝心のお菓子の方も、現代の常識とのギャップを上手く生かした展開があったりと――カステラの意外な消費のされ方には仰天――なかなか「味な」作品であります。
作者のおやまだみむは、以前に『山中鹿介物語 尼子再興記』を発表しているとのことで、おそらくは本当に歴史・時代ものがお好きな方なのだろうと思います。
もっとも、題材のチョイスやアレンジ、そこに絡めた物語展開は面白く、さらりと楽しく読めるものの、全般的に見るともう少しトガった味付けが欲しかった、もっともっとハジけても良かった……という印象は残ります。
(その意味では咲太郎のキャラクター的……というのは、さすがに失礼かもしれませんが)
しかし、後引く作品であることは事実。作者の次の作品も(そして『山中鹿介物語』も)読んでみたいと考えているところです。
『おえどかしばな』(おやまだみむ マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon


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