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2016.03.14

三國青葉『忍びのかすていら』 スイーツ男子でイクメン忍者の奮闘記

 大坂の陣から数年後、忍びを引退して江戸で暮らす橘清十郎は、よろず請負人として稼いだ金で、菓子を作ることを生き甲斐にしていた。そんなある日、辻斬り事件がきっかけで将軍の嫡男・竹千代と知り合った清十郎。さらに清十郎の娘を名乗る少女が転がり込んできて、彼の生活は一変することに……

 『かおばな剣士妖夏伝』の三國青葉の新作の主人公は、人情あり、忍者バトルあり、甘味ありと、盛り沢山ながら胃もたれしない、なかなかの良作であります。

 伊賀の下忍として早くに両親を亡くし、頭領の下で育てられ頭角を現した清十郎。大坂の陣で大活躍した彼は、しかしその褒美として忍びを辞め、今は江戸で気楽な一人暮らしなのですが、クールで無愛想な彼には、その見かけに似合わぬ一面がありました。
 実は彼は、大の甘味好き――それも味わうだけでなく、名店の菓子などを真似て自分で菓子を作ることを、生き甲斐としていたのであります。

 よろず請負人の稼ぎをつぎ込んで砂糖など材料を買い込み、菓子を作っては試食し、試行錯誤する……それはそれで平穏で楽しい彼の暮らしは、しかし突然に波乱含みに変わります。
 ある晩、江戸を騒がす辻斬り騒動に巻き込まれた清十郎が助けた少年……その正体は、なんと将軍秀忠の嫡子・竹千代(後の家光)。実母に疎まれ、命すら狙われる孤独な少年である竹千代は、清十郎に懐いて彼の長屋に出入りするようになります。

 さらに、かつて一度だけ情を通じた頭領の娘が産んだという七歳の娘・小雪が現れ、一つ屋根の下で暮らすことになった清十郎。女と子供が大の苦手である彼にとって、その両方を兼ねた小雪との暮らしは、どうにもぎくしゃくしたものとなるのですが……


 というわけで、本作の主人公・清十郎は、スイーツ男子でイクメン忍者――と書くと、いかにもキャッチーに過ぎるように感じられるかもしれませんが、しかし本作は、その設定に振り回されることなく、丹念に物語を紡いでいきます。

 何よりも、この清十郎の人物造形がいい。気難しい男やもめが、突然現れた子供に振り回されるというのは一つの定番ではありますし、そのギャップが楽しさの源ですが、本作はそのギャップに説得力があると申しましょうか……
 何しろ、彼は年端もいかぬころから親の愛も知らず、孤独な忍びとして死線をくぐり抜けてきた非情の忍び。なるほど、これだけ子育てという言葉が似合わない男はおりますまい。

 そんな男が、甘いものにだけは目がないというのもギャップの楽しさですが、しかし、死線をくぐり抜ける毎日では、砂糖の強烈な甘さこそが生の実感を与えてくれるものであった、という設定は、無茶なようでいて、不思議なリアリティが生まれていると感じます。

 そんなどこまでも人間臭い彼の行動原理――先に述べた甘味好きもその一つですが――は、突飛なようでいてごく自然なものとして、そして我々にも共感を持てるものとして感じられるのです。

 何よりも、名利にも暴力にも動かされない男が、ただ甘味と、やがて我が子への情愛に突き動かされて活躍するというひねくれた(?)ヒロイズムが実に良いではありませんか。

 忍びと子育てと菓子の三題噺ともいうべき本作は、一見盛りすぎのように見えますが、しかし材料とデコレーションが吟味され、何よりも下地をしっかりと作ることで、互いの味わいが殺されていない……そんな作品。

 清十郎の新たなる受難を予感させる結末も面白く(ただ、この辺りも含めて、人物配置など『かおばな剣士妖夏伝』と重なる部分が少々気にならないでもないのですが)、続編を期待したい作品であります。


『忍びのかすていら』(三國青葉 白泉社招き猫文庫) Amazon
忍びのかすていら (招き猫文庫)

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