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2016.04.20

越水利江子『洗い屋お姫捕物帳 まぼろし若さま花変化』 勧善懲悪豪華絢爛な正調時代活劇

 謎の死を遂げた岡っ引きの父譲りの帰雲流縄術の遣い手の少女・お姫は、祖父の洗い屋稼業を手伝う毎日。そんな中、美貌の芸人・花蝶太夫の小屋が、何者かに襲撃された。事件に巻き込まれたお姫は、マイペースな町方同心の花咲俊平とともに、謎を追う。しかし事件は、お姫の隠された記憶とも関連が……

 児童文学のジャンルにおいて、様々な時代もの・歴史ものを発表している越水利江子による、痛快時代劇であります。
 主人公は岡っ引きに憧れる女の子と、いかにも児童文学的に見えなくもありませんが、しかし大人の目で見ても実に楽しく、しっかりした作品なのは作者らしいところでありましょう。

 一年前に岡っ引きの父が消息を絶ち、幼い頃から父に仕込まれた帰雲流縄術で下手人を捕らえることを夢見るお姫。しかし少女の身で岡っ引きになることが許されるはずもなく、彼女のいらだちは、同じく父を殺されてその跡を継いだ北町の定廻り同心、「スズメ」こと花咲俊平にぶつけられるばかり。

 しかし、江戸で評判の女芸人・花蝶太夫が謎の一団に襲撃され、お姫とスズメ俊平が一味と対決したことから、事態は思わぬ方向に動き始めます。
 謎の一団がいつまた現れるかわからないことから、お姫の祖父で洗い屋(ハウスクリーニング業)の善兵衛の家に匿われた花蝶。耳が聞こえぬという彼女と生活を共にするうちに、不思議な親しみを覚えていくお姫ですが、敵の魔手は、今度はお姫に迫ることとなります。

 何故か、小さい頃の記憶がほとんど残っていないお姫。敵に荒れ屋敷に拉致されたことをきっかけに、彼女の封印された記憶が目覚めたとき、俊平、花蝶、善兵衛たち、登場人物全てを巻き込んだ大捕物の幕が上がることに――


 非常にわかりやすく伏線が張られていることもあり、お話的には比較的先が読みやすい本作。それでも最後まで飽きることなく、楽しく読むことができるのは、起伏に富んだ展開の連続と、何よりも登場するキャラクターの魅力によるところが大きいところでしょう。

 いわゆる「おきゃん」なお姫はもちろんのこと、軟弱なようでやるときはやるスズメ俊平(それでいて烈婦を地でいく母には全く頭が上がらないのが楽しい)など、定番を踏まえつつも、どこかに捻りを加え、そしてさらに親しみやすさを感じさせる造形となっているのには感心させられます。

 普通に考えれば、読者である子供たちには縁遠いどころではない江戸時代。その時代を舞台とした本作に登場する人々に、生きた人間としての血を通わせ、我々現代人と変わるところのない存在と納得させる……
 ある意味一般読者向けの作品よりもはるかに難しいそれを軽々とクリアしてみせるのは、やはり歴史時代児童文学においては有数の描き手である作者なればこその技でしょう。
(この時代もの特有の用語・概念を、さらりと説明してみせるのも、またお見事)

 登場人物揃って大暴れのクライマックスも賑やかで、勧善懲悪豪華絢爛な正調時代活劇を楽しませていただきました。


 ちなみに本作、実は『てのひら猫語り 書き下ろし時代小説集』に収録された『洗い屋おゆき』の原話ともいうべき作品であります。
 『洗い屋おゆき』の方は、短編ということもあって登場人物や道具立てはぐっと絞られていますが、おきゃんな縄術使いの少女とスズメ同心の活躍という骨格は同じで、読み比べてみるのも、また一興かと思います。


『洗い屋お姫捕物帳 まぼろし若さま花変化』(越水利江子 国土社) Amazon
洗い屋お姫捕物帳―まぼろし若さま花変化


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