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2016.04.04

伽古屋圭市『からくり探偵・百栗柿三郎 櫻の中の記憶』 本歌取りと人々の想いと

 そのとんでもないラストのどんでん返しで読者の度肝を抜いた『からくり探偵・百栗柿三郎』が帰ってきました。自称発明家にして天才的な名探偵・百栗柿三郎と、女中兼助手の千代のコンビが、新たな仲間、新たな趣向とともにお目見えであります。

 時は大正、とある事件に巻き込まれて無実の罪を着せられかけた苦境の中、偶然柿三郎と出会った千代。柿三郎の快刀乱麻を断つ推理により救われ、半ば押し掛ける形で女中となった彼女は、柿三郎の明晰な頭脳を生かすべく、本人の迷惑は省みずに探偵助手を務めることに――

 という設定で展開した前作は、数々の怪事件の末に、意外極まりない大団円を迎えることとなりました。その内容的に、続編は難しいか……とも思われましたが、大丈夫、前作の物語を踏まえつつも、全く新しい物語がここに始まることとなります。
 前作では柿三郎と千代の二人だったレギュラーも、本作では、百栗家に住むこととなった小学生・玉緒、千代が出会った迷い犬のハチを加えて、少々賑やかになりましたが……本作で描かれるのは、今回も、解決不可能としか思えぬような奇怪な謎と、それに挑む柿三郎の痛快な名探偵ぶりであります。

 多くの者に恨みを買っていた男が、ある夜、雪に閉ざされた密室の中で頭を撃たれて殺された謎に挑む『殺意に満ちた館』
 人気絶頂の閨秀作家の同居人が殺され、後に屋根裏から彼女たちの暮らしを覗き見していたという犯人の手記が残されていた『屋根裏の観測者』
 衆人環視の屋敷から男の子が誘拐され、暗号文で記された脅迫文が見つかった事件を千代が解き明かす『さる誘拐の話』
 ハチが持ち帰ってきた簪が旧友・ふみのものに酷似していたことから、千代がふみの行方を追って奔走する『櫻の中の記憶』

 これら全四話で描かれるのは、極めて奇怪かつ、極めてフェアな、本格ミステリのお手本のような世界。「アッ、そういえば確かに!」と、後から悔しくもどこか爽快な想いを抱かせる作者の作風は、今回も健在です。


 もっとも――続編ということがあってか(あるいは雑誌連載というスタイルもあってか)、前作に比べると、全編を通してのインパクトは薄れていることは否めません。

 その点は確かに残念ではありますが……しかし、本作の新たな趣向は、それを補って新たな魅力を与えていると感じます。
 その趣向とは、いわば古典ミステリの本歌取り。本作に収められた四つの短編は、いずれも著名な古典ミステリの内容を踏まえ、その作者の作品に依った題材を用いつつ、新たな物語を生み出しているのです。

 『殺意に満ちた館』は……これは本作と題材となった作品双方の内容に関わるので伏せさせていただきますが、クリスティーの名作を。『屋根裏の観測者』は、タイトルから明らかなように乱歩の『屋根裏の散歩者』を。『さる誘拐』は、暗号を残した犯人の自称からわかるようにポーの『黄金虫』を。そして『櫻の中の記憶』は、辺鄙な土地に残る魔犬伝説というドイルの『バスカヴィル家の犬』をはじめとするホームズものの諸作を……

 これらの題材は、作中で明示されるもの、されぬもの様々ですが(後者は本作の舞台となる時代にはまだ発表されていないのですから仕方ありません)、共通するのは、そうした原典を知るものをニヤリとさせつつも、さらにそこから一ひねりを加え、新たなミステリとしてきっちりと成立させていることであります。

 この辺りは、これまでの作者の作品に共通するものですが、本作は対比する作品があるだけに、より際だって感じられるのです。


 そしてもう一つ……本作の魅力は、謎解きの面白さだけにとどまりません。その謎が何故生まれたのか、何故事件が起きたのか、その奥底にある事件の背後の犯人の、あるいは被害者の想いを、本作は丹念に――それは必ずしも、全てを文章にして描き出すことではありません――拾い出すのです。

 本作においてその部分が特に強く出たのは、『屋根裏の観測者』と『櫻の中の記憶』でしょう。全ての謎が解けたその先にはじめて、事件の背後に秘められた想いが浮かび上がる前者、普段は明るく脳天気な千代の負った悲しみを小さな奇跡が優しく昇華する後者……
 これらの作品に通底するのは、どのようなミステリも、全ては血の通った人が関わるという、当たり前で、しかし重要な真実でありましょう。

 トリッキーな仕掛けや本歌取りの趣向のみならず、こうした点もしっかりと踏まえられているからこそ、本作はこれほど魅力的なのだと、改めて気づかされた次第です。


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