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2016.04.15

山村竜也『真田幸村と十勇士』 信繁という史実から十勇士という物語へ

 大河ドラマ合わせで真田ものがかなりの点数刊行されている昨今。それはフィクションに限らず、むしろ歴史本において顕著な印象があり、本書もその一つではあります。しかし本書が他と大きく異なるのは、史実の真田信繁だけでなく、虚構の幸村が率いた十勇士も同じように取り扱う点であります。

 真田幸村といえば十勇士というのは、これはもう当たり前の組み合わせではありますが、しかしそもそもその十名の名を挙げることができる方はそれほど多くはないように思いますし、ましてや、その一人一人の来歴・キャラクターを説明できる方は、さらに少ない……というより、ほとんどいないのではありますまいか。

 もちろん彼らは虚構の存在ではありますが――ということも知られていない気がしますが――しかしその虚構にも歴史があり、そして依って立つ現実(モデル)があります。本書は、その前半では真田幸村(信繁)の史実を描き、そして後半において、十勇士一人一人の歴史とモデルを綿密に語るのです。

 そんな本書の著者は山村竜也……と言えば、わかる方にはわかるでしょう。『新選組!』『龍馬伝』『八重の桜』など大河ドラマや、『清洲会議』といった作品を担当した、時代考証家であります。
 しかしこのブログ的に言えば、『天保異聞妖奇士』の時代考証であり、『新選組刃義抄アサギ』の原作者。言うなれば、洒落(フィクション)のわかる専門家なのです。

 そんな著者による本書の前半部分は、真田信繁の生涯を、様々な史料を用いてテンポよく、かつ丁寧に描き出します。この辺りは、歴史ものの新書では定番中の定番ではあります。
 しかし非常に読みやすいというアドバンテージがある上に、例えば信繁の生年のように、複数の史料を付き合わせることで、諸説あるものに説得力ある解を導き出してみせているのは、これはさすがと言うほかありますまい。

 そしてこのブログ的には一番の見所である十勇士解説の部分ですが――これが、彼らが登場する全ての立川文庫を引いて、丹念にその描写から彼ら一人一人の姿を洗い出してくれるのですからたまりません。

 立川文庫といえ明治時代に誕生し、大正時代にかけて爆発的な人気を博した講談速記本。実に真田十勇士の初出はここでありますが、しかし彼らとて最初から十勇士であったわけではなく、そしてその人物像も、それどころか名前も異なるキャラクターとして登場していたものでありました。
 それがいつ、どのようにして、十勇士となったのか。そして彼らは何者で、どのような役割を果たしたのか……本書で題材となるのは、あくまでも立川文庫(と先行する軍記物語)ですが、しかしそのオリジンを巡る物語とその内容には、大いに興奮させられます。

 もちろん立川文庫はあくまでもフィクションであります。そのフィクションの中の彼らを、史実の信繁と並べることに、あるいは抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし、幸村と十勇士の活躍する物語は、読者の共同認識を積み重ねることによって、もう一つの「歴史」となった存在であり、その内容もさることながら、成立過程を精査することには、大きな意味があるでしょう。

 そう、一つ一つ原書に当たり、関連する箇所を拾い上げ、吟味を重ねる手法は、考証のそれと大きく異なるものではないのですから……


 「真田日本一の兵、古よりの物語にもこれなき由」と謳われた信繁。そしてその武勲の先には、十勇士という新たな物語が生まれました。
 本書は、史実の信繁の事績と、虚構の幸村を支えた十勇士の物語とを、同時に描くことで、我々が彼らの何に惹かれるのか、その理由を教えてくれるのであります。


『真田幸村と十勇士』(山村竜也 幻冬舎新書) Amazon
真田幸村と十勇士 猿飛佐助/霧隠才蔵/三好清海入道/三好為三入道/由利鎌之助/穴山小助/海野六郎/望月六郎/筧十蔵/根津甚八 (幻冬舎新書)

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