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2016.04.08

會川昇『神化一九年の塔地火』 戦争でも、悪法でも縛れないもの

 今月から待望の第二期がスタートする『超人幻想 コンクリート・レボルティオ』の原作者によるスピンオフ小説第2弾が、「ミステリマガジン」最新号に掲載されました。神化一九年、戦争の最中に大陸で起きた超人絡みの事件に、アニメでも重要な役割を果たす人吉孫竹が挑むことになります。

 人外魔境を往く冒険家にして、日本最高の超人研究家である人吉博士。超人民俗学者の肩書きを持つ彼が、陸軍駐屯地に招かれたことから物語は始まります。
 満映――満州映画協会東京支社の男・岩永に出迎えられた人吉博士の任務は、一人の超人戦車兵の診断。人吉博士も旧知のその青年・倖田太一は、機械を自分自身の体のように自在に操る超人能力を持っていたのであります。

 大陸で新型戦車の試験に携わっていた最中、満映の国策映画撮影への協力を命じられた倖田。それは、軍に捕らえられた異国の女性超人ウォー・ガールを、彼の砲弾が粉砕する様を、陸軍参謀立ち会いの下で撮影するものとなるはずでした。
 しかし撮影中に何事かが発生し、その場に居合わせた者は参謀以下全滅、ウォー・ガールも姿を消し、残されたのは彼一人であったと……

 その場で何が起こったのか、証言できるのは倖田のみ。しかし彼の証言は信頼できるのか、人吉博士はその判定を依頼されたのであります。そして、調査に当たる中で人吉博士が気づいたある事実とは――


 短編小説ということもあってか、アニメとも、前作に当たる『超人幻想 神化三六年』ともまた少々異なるテイストを持つ本作。
 背景となるのは、この世界でも行われていた大陸での戦争であり、この世界でも存在していた満映の存在であります。
(ちなみにモデルとなる人物が満州に関わっていたアニメの登場人物の名もちらりと……)

 そしてそんな本作で描かれる謎は、一言で表せば『藪の中』を逆転させたようなものと言いましょうか。証言者はただ一人ながら、その証言が聞く度に変わり、「真実」が次々とその姿を変えていく……
 何故そのようなことになるのか、本当はそこで何が起こったのか? 本作はその秘密を中心に展開していくこととなります。

 その秘密の先に孫竹が見たものは何であったか……実にそれは、本作の舞台背景と密接に関わっているのであります。


 現実の世界の歴史とはいささか異なる、「神化」の世界を舞台として描かれる本作。しかしここで描かれるものは、超人の存在とそれに関わる物事を除けば、実はほとんど現実の世界であった事物・出来事であります。

 その最たるものが「映画法」であります。内容の検閲、製作・配給の許認可制、映画関係者への登録義務付け(あたかも超人のように!)……映画を国家が統制し、違反する者は罰せられる。そんなディストピアSFめいた法律は、我々の世界においてかつて確かに存在したのです。
 そして、満州において国策プロパガンダ映画を中心に製作した満映の存在もまた。

 本来は娯楽でありアートであり、つまりは人間の自由な精神活動の発露であったはずの映画。それが国家の名の下に縛られ、操られた時代を、本作は――アニメや『神化三六年』がそうであったように――超人というフィルターを通して描き出すのです。


 しかし、そのような時代において、どのような形であっても、己の節を曲げても、映画を愛し、映画に関わり、映画を作ろうとした人々がいたのもまた事実。
 本作で描かれた秘密は、実にそんな人々にまつわるものであり、そこに浮かび上がる美しい物語は、戦争でも、悪法でも縛れないものの存在と、その価値を描き出すものなのです。
(そしてその美しい物語の象徴に、あの坂本龍馬が使われるのも嬉しい)

 映画の――その根源にある物語の持つ力を、意味を謳い上げた本作。物語の中に現実を見出し、描いてきた作者ならではの物語であります。


 しかし、倖田のモデルを(実はヒントはあるとはいえ)本作を読んだだけで見抜いた人はいるのでありましょうか……


『神化一九年の塔地火』(會川昇 「ミステリマガジン」2016年5月号掲載) Amazon
ミステリマガジン 2016年 05 月号 [雑誌]


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コメント

 『コンクリート・レボルティオ』第二期が始まりますね。脚本家として虚淵玄先生・辻真先先生・中島かずき先生が参加されるそうで楽しみです。辻先生はやはりご自分が第一回脚本を書かれた「あの作品」のオマージュの続きかな? イベントで2期では虚淵玄先生7が脚本に参加することが明かされると、「皆、生きて帰れますか?」と恐る恐る質問が出たそうです(笑)。水島監督は「虚淵さんとは割と平和な作品を作ったので、今回は……と思っています」と思わせぶりな返答でしたそうで・・・。

投稿: ジャラル | 2016.04.10 21:15

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