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2016.05.24

重野なおき『真田魂』第1巻 あきらめない心の向かう先は

 『信長の忍び』もアニメ化予定と絶好調の重野なおきの戦国四コマ漫画の最新作は、いままさに話題の真田一族……真田幸隆に始まり、昌幸、信幸、信繁(幸村)に至る真田一族の奮闘が、お馴染みの、親しみやすくも確かな視点を持った歴史ものとして、描かれていくことになります。

 真田というと、これまではどうしても幸村の印象が強くあるわけですが、史実を見てみれば、歴史により名を残しているのはその父・昌幸の方だと言えるでしょう。
 この第1巻においても、主人公格として物語の中心に存在するのは、昌幸であります。

 一度は所領を失いながらも武田家の下で戸石城を「知」で陥落させてみせるなどの活躍を見せた幸隆。
 その子である昌幸は、物事や人間の真実を見抜く目を持つ人物として描かれ、信玄にもその先行きを期待されることとなります。

 しかし三方ヶ原の大勝にもかかわらず、信玄は病に倒れ、後を継いだ勝頼の下で、武田家は大きく揺れることに。
 武田四天王ら信玄の頃から仕えてきた旧臣と、長坂釣閑斎ら勝頼の近臣の間で不協和音が生じる中、懸命に武田家を支えるべく奮闘する昌幸ですが、増長する勝頼は、長篠で織田・徳川連合軍と対峙することに……


 というわけで、この第1巻では武田家家臣であった時代の真田家が描かれるのですが、実はその姿を通じて、かなりのウェイトを以て描かれるのが武田勝頼の存在であります。

 勝頼といえば、長篠での大敗で武田家凋落の原因を作り、ついに武田家を滅ぼした男として、どうしても歴史ものでは悪く描かれがちの人物。
 最近の作品では、そこまで一方的なものは少なくなりましたが、それでもネガティブなイメージは避けられません。

 しかし本作の作者は、これまでの戦国四コマにおいても、ギャグというフィルターを通すことにより、ある程度の客観性をもって、歴史上の人物を描いてきました。
 それは本作の勝頼も同じであります。一度は父と周囲の目に対するコンプレックスから勝ちに逸り、長篠で惨敗、一度は死を覚悟するものの、昌幸をはじめとする家臣たちに支えられ、少しずつ成長していく青年として描かれるのです。


 しかしそんな彼と昌幸の主従をもってしても留められないのは時代の流れ。よかれとして行った政策が裏目に出た結果、櫛の歯が抜けていくように力を弱めた武田家は、ついに信長軍の総攻撃の前に……
 と、この巻では、天目山の合戦の直前まで、勝頼にとって(そして真田家にとっても)運命を分けることとなった、岩櫃城と岩殿城の選択が描かれる辺りまでが収められています。

 しかしここで驚かされるのは、それまで典型的な奸臣として描かれてきた長坂釣閑斎の行動であります。さしもの作者にとっても、釣閑斎ばかりはネガティブにしか書けないかと思いきや、この選択の際に彼がとった行動は、まさかまさかの……
 これは是非ご自分の目で確かめていただきたいのですが、この史実をここでこう使うか! と感心&感動するほかない、見事な解釈なのであります。


 さて、この第1巻で描かれる昌幸は、あくまでも武田の忠臣であり、後に彼のキャッチフレーズ(?)となった「表裏比興」とは無縁の人物と感じられます。

 そんな彼が、いかにして後世に知られる真田昌幸となるのか……そのヒントとなるのは、作中で幾度となく語られる真田魂、あきらめない心でありましょう。

 その真田魂によって、昌幸のどこが変わっていくのか、どこが変わらぬまま残るのか。そしてその魂が、どのように受け継がれていくのか……真田ファンとして、重野四コマファンとして、楽しみになろうともいうものです。


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コメント

重野先生の作品らしくギャグ蘊蓄もたっぷり入っている作品です。「○○が大嫌いだった武田信玄」「すぐに○○を投げる真田昌幸」というのは私も初めて知りました。

この作品では真田昌幸と大河ドラマでも活躍中のあの人物とは親戚のようですが、それが漫画でどう展開するか楽しみです。

投稿: ジャラル | 2016.05.25 23:37

ジャラル様:
どこまでがギャグでどこまでがネタなのかわからないのですが、そういう時は大抵前者のような気がするのが恐ろしいですね(笑)

定説のない部分がうまくバリエーションになっているのもいいですね

投稿: 三田主水 | 2016.05.28 18:02

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