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2016.05.09

斉藤洋『くのいち小桜忍法帖 2 火の降る夜に桜舞う』 二重生活と江戸の忍びのリアル

 時は元禄、外様大名の探索を担当とする公儀隠密・橘北家総帥の末娘・小桜を主人公とする時代活劇『くノ一小桜忍法帖』の第2巻であります。今回小桜が挑むことになるのは、かの振袖火事を思わせる怪火にまつわる事件。一件落着したかに見えた事件は思わぬ形で連鎖し、橘北家の任務にも関わる事態に……

 橘北家総帥の四番目の子にしてくノ一の姫としての顔と、長兄の一郎が営む薬種問屋・近江屋の丁稚としての顔と、二つの顔を持つ少女・小桜四郎。
 既に父を助けて隠密として活躍中の三人の兄に比べればまだまだ修行中の彼女は、二つの顔を使い分けては、江戸で起きる怪事件に首を突っ込む毎日であります。

 そんな彼女が、顔なじみの岡っ引き・雷蔵親分から聞かされたのは、空から火のついた振袖が降ってきて火をつけるという、数十年前の振袖火事を思わせる怪事件。
 この事件そのものは、雷蔵親分の活躍であっさりと下手人たちを捕らえて終わったかに見えたのですが――しかし、同じ時期に、大坂で材木商人が不審な動きを見せたことから、橘北家も動き出すことになるのであります。


 というわけで、一度は解決したかに見えた事件の背後で、実は……という趣向の本作。物語展開自体はかなり地味ではあるのですが、その分丹念に状況とキャラクターの描写を積み上げ、物語を進めていくというスタイルは前作同様であり、今回もまた、一種児童文学離れした読み応えがあります。

 特に、橘北家の江戸出先とも言うべき近江屋の人々の正体を薄々察しながらも、そらっとぼけるように互いを利用し合うような関係の雷蔵親分の存在が、時代小説ファンとしえは何とも魅力的に感じられます。

 その一方で、どう見ても神通力を持っているとしか思えない(というか、正体は吉野の狐ではないかと作者のファンとしては思ってしまう)謎の女形・市川桜花や、近江屋に飼われる西洋犬で、時折人間の言葉を話すように見える半守など、また別のベクトルを持つキャラクターがいるのも、面白いところであります。

 しかし、本作の真にユニークなのは、物語の中心となっている(ように見える)のが、小桜の活躍というよりも、彼女のくノ一としての日常である点でありましょう。
 先に述べた通り、自身はどう思っているにせよ、親兄弟から見ればくノ一としてはまだまだ未熟の小桜。本作の大半を費やして描かれるのは、そんな彼女の日常生活なのであります。

 近江屋の丁稚として「外」の世界に触れ、そして時にくノ一として江戸の闇を翔る小桜。しかしあくまでもそれは彼女にとっては一面の姿であり、橘北家の姫として、そして修行中のくノ一として、両親たちの住む屋敷で暮らす姿も、今回描かれることとなります。
 ある意味、くノ一としてはそちらの方がリアルとも言うべき実家での姿は、しかし決して派手ではなく、淡々と描かれるのですが、しかしこのような切り口から江戸時代の忍びを、くノ一を描く作品というのはなかなかに珍しく――少なくとも、児童文学においては絶無ではないでしょうか。

 そしてそんな小桜の二重生活を、あくまでも年頃の少女としての視点で以て繋いで見せるのもまた、本作の巧みな点、本作ならではの魅力と言えるように感じます。

 もっとも、物語の本筋、活劇の部分に入るのが相当に遅いのは事実ではあって、この辺りのバランスの取り方の難しさというものはあるのだなあ……とは思わされるところではあります。


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