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2016.05.29

山口貴由『衛府の七忍』第2巻 第四の怨身忍者、その名は……

 『シグルイ』の山口貴由が描く新たな残酷時代劇、待望の第二巻であります。徳川家康による天下統一が成り、家康の「覇府」の威光が力と恐怖で人々を覆っていた時代にまつろわぬ者たちを守る七人の怨身忍者の物語も順調に進み、この巻では第四の怨身忍者が登場するのですが、しかしその名は……

 己の威光に従わぬ者、すなわちまつろわぬ者たちを滅ぼすため、容赦なく天魔外道の所業を繰り広げる徳川配下の者たち。
 真田家ゆかりの少女・伊織を匿ったことから一族を皆殺しとされ、自らも惨殺された化外の民・葉隠谷のカクゴは、しかし死後の安楽に背を向け、怨念を背負って戦う怨身忍者・零鬼に変貌、外道たちを叩き潰したのであります。

 そしてこの巻でまず描かれるのは、彼に続く第二、第三の大残酷に晒された者たちであります。

 二番目に登場するのは、忘八・動地一家の憐。板倉宿で風呂屋を営む彼は、訳アリの美女・銀狐に一目惚れし結ばれるのですが、実は彼女は大坂落城直前に秀頼の子種を受けていた奥女中の一人。
 彼女らを捕らえるべく、容赦なく孕み女狩りを繰り広げる城の侍に対し、その助命嘆願に向かった憐は、捕らえられ、無惨にも釜茹での刑に……

 そして三番目に登場するのは(おそらくは)蝦夷の少女・六花であります。両親を亡くし、奥羽の山中から里に下りてきた彼女が出会ったのは、阿修羅丸を名乗る巨漢でした。
 浪人たちが集う相撲大会に参加し、幕府が送り込んだ刺客力士を粉砕、萎えかけていた浪人たちの心に火をつけてみせた阿修羅丸。実は大坂方の武士だったという彼を気にいった六花は、彼を山に連れて帰るのですが、しかし徳川の威信を守らんとする者の魔手が迫り……

 こうして山の民と豊臣の遺臣に続き、この巻で描かれるまつろわぬ者たちは、忘八と遊女たち、そして蝦夷と浪人たち。彼ら彼女らもまた、覇者たる徳川の威光を背負った者たちに無惨にも叩き潰され、打ち捨てられることとなります。

 そして誕生するのは、第二の怨身忍者・震鬼と、第三の怨身忍者・雪鬼――それぞれの背負ったものを自らの武器とし、己と己の近しき者たちへの仕打ちを外道たちに叩き返す様は、痛快というほかありません。

 また第一巻同様、本作がどれほどの無惨絵巻を描こうとも、どこか野放図な明るさが漂っているのは、こうした抑圧されにされた末に大爆発するまつろわぬ者たちを描くという構造だけでなく、『シグルイ』以降抑えぎみだった、ギャグスレスレのテンションの高さを完全に解禁したところによるでしょう。

 そしてこのテンションの高さは、「熱さ」に繋がっていくこととなります。例えば阿修羅丸……一見恐ろしげな風貌の彼の口から語られる、相撲に対する言葉の数々は、この殺伐たる物語において、実に熱く、そして爽やかに響くのであります。

 そしてその彼のモチーフとなっているのが、『シグルイ』で怪物ぶりを発揮した牛股師範というスターシステムもまた楽しいのですが……この巻の後半では、とてつもないスターが登場することとなります。


(表紙を見ればそれは瞭然ですが)その名は現人鬼・波裸羅(はらら)……そう、『覚悟のススメ』においては主人公・覚悟の兄にして最強の敵となった怨念の魔人であります。

 怨身忍者たちのモチーフである『エクゾスカル零』の七人のエクゾスカル戦士の中に散が含まれていたことから、いずれ登場するものとは予想できたものの、やはりラストに登場かと思いきや……
 しかもこの波裸羅、数々の暴虐の果てに、徳川方についてカクゴと伊織を狙うという、完全に敵役なのであります。

 そもそも、これまで登場した怨身忍者たちは、自らもまつろわぬ者であり、そしてまたまつろわぬ者たちの怨念を背負う者が、怨みを呑んで死んだ末に変身したものでありました。
 しかし波裸羅においては(少なくとも現時点では)背負う者はなく、そして自らも特異な体を持つものの、それがまつろわぬ者と言えるかもわかりません。そして何より、生まれし日より怨身完了しているのですが――

 しかしこの規格外ぶりが、いかにもこの方らしく、とにかくよし! と言うべきでしょうか。果たして因縁の(?)カクゴの間に何が起きるかも含めて、これまで以上に目の離せない快作であります。


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